魔導と迷宮~最強の冒険者は少女を育てるようです~
35話
まず、口を開いたのはフリューゲルだった。
「トラン、こんな茶番早く終わらせようか。話し合おうと合わまいと結果は同じだ。ここにいる貴族のほとんどは俺の勢力下のものだ。そして、負けが決まっているものを支持するほど愚かな奴もいないだろう。だから、さっさと首を差し出せ。その首でコルネットの命くらいは助けてやってもいいぞ」
フリューゲルは冷たい瞳でトランを見下しながらふんぞり返っている。フリューゲルの言う通り勝ち目など到底ない。だが、フリューゲルは知らない。カームベルという絶対的な組織がついているのを。彼らなら自分が何もしなくてもどうにかしてくれるだろう。実際、計画の詳細は伝えられていない。それは俺たちがどう動いたとしても関係なく計画を完遂できるということだろう。しかし、トランはその流れに身を任せるだけではいけないと思っていた。俺は彼らの力がなくては王になれないだろうがせめて彼らに、ここにいる貴族たちに、そして目の前の男に王の器を示さねばならない。その決意を胸に燃えるような眼差しをフリューゲルに向ける。
「確かにその通りかもしれません。国民の支持は私が勝つと思いますが貴族間での影響力の差は歴然です。ですが、この場はただどちらが皇帝に相応しいか証明する場所です。仮に裏工作をして自分を支持させるようにしていたとしてもこの国を背負っていけるという器を示すべきだと私は思います。違いますか?フリューゲル兄さん」
フリューゲルはトランの熱を受けてもまったく表情は変わらない。めんどくさそうに足を組み替え、口を開く。
「馬鹿馬鹿しい。器なら俺が既に王の椅子に手を掛けているこの状況を見れば火を見るよりも明らかだろう。的外れな意見を言うな」
「いえいえ、あながち的外れとは言えないかもしれませんよ」
二人の会話に割って入る影が一つ。アムール侯爵だ。
「何故だアムールよ。ここには貴族しかいない。目先の言葉など意味をなさないと思うが……」
フリューゲルは納得がいかないような顔をしている。それと対照的にアムールは笑みを浮かべながら進言する。
「確かに貴族の意思決定は簡単に揺らぐものではありませんので殿下の勝ちは絶対でしょう。ですが殿下、言葉は一種の力を持つと言われています。東方では言霊という言葉には不思議な力があると言われているくらいですから。ですからこの場を唯の消化試合とするのではなく真の王を決める場にするのも一興かと申し上げます」
フリューゲルは目を閉じ、顎に手を当て少しの間思考を巡らせている。意思が定まったのか彼はゆっくりと目を開けた。
「確かにアムールの意見にも一理あるといえよう。喜べ弟よ。お前の思惑に乗ってやることにした。存分に言いたいことを言うがいい」
「それではお言葉に甘えさせていただきます。兄上はこの国をどうしたいのでしょうか。?私がこの場ではっきりさせたいことはこれがすべてです」
「何を言うかと思えばそんなことか。お前も分かっていると思うが俺の目的は帝国をこの世界で一番の国にすることだ。軍事力、経済力、それに領土。どれをとっても、誰に聞いても最も優れているのは帝国だと言われる世の中にするそれがすべてだ」
「何故そんなことに拘るのですか!王国や神国とは友好的な付き合いをしてきたではありませんか。今更どこが一番であろうと民には関係ないでしょう。あなたの傲慢にこの国全ての人々を付き合わせるというのですか!」
「そうだ。それがどうした?国民など勝手に生えてくる雑草のようなものだろう。そんな奴らを有効的に使ってやるのだ。寧ろ感謝してもらいたいくらいだ」
あまりにも狂気じみたフリューゲルの発言にトランは思わず絶句する。どろりと濁った瞳でトランを見つめながら不気味な笑みを浮かべている。
「さあ、議論はこれで終了だ。これ以上続けても平行線を辿るだけ、無意味だ。それでは投票に移る。アムール頼んだぞ」
トランはまだ議論は終わっていないとばかりに食って掛かろうとしたがその前にアムールが口を開く。
「すみません、殿下。そういうわけにはいかないのです。あちらをご覧ください」
フリューゲルは貴族たちが座っている方を向く。すると、前方に座っている四人以外は全員虚ろな目をしており、心ここにあらずと言った様子だったのだ。
「これはどうゆうことだ!」
フリューゲルは驚きのあまり声を荒げる。その隣のアムールは余裕そうな笑みを浮かべている。
「簡単なことですよ。会議の初めに炊いた香の影響です。あれは催眠香といって一定時間嗅いだ人間の意識を酩酊状態にするというものですから」
アムールは何でもない事かのように話している。
「お前は何を言っている!」
「何をってただ事実を申し上げているだけですよ。まあ、何となく気づいたかと思いますが、私は……」
会話の途中でアムールの姿は段々と女性の姿に変わっていく。艶やか紫紺の髪が顕わになり特徴的なメイド服が目を引く。その変わりように二人の皇子を目を丸くしている。だが、すぐに危険を察したのかフリューゲルは彼女から離れようとする。
「はい、ストップ」
少女は素早く動き、魔法によって鎌のような物に変形させた手でフリューゲルの手とテーブルを貫き縫い付ける。苦悶の表情を浮かべ、悲痛な声を出す。
「駄目よ、逃げたら。まだ、あなたには聞きたいことがあるんだから」
少女の顔には皇子と対照的な朗らかな笑みが浮かんでいた。
「トラン、こんな茶番早く終わらせようか。話し合おうと合わまいと結果は同じだ。ここにいる貴族のほとんどは俺の勢力下のものだ。そして、負けが決まっているものを支持するほど愚かな奴もいないだろう。だから、さっさと首を差し出せ。その首でコルネットの命くらいは助けてやってもいいぞ」
フリューゲルは冷たい瞳でトランを見下しながらふんぞり返っている。フリューゲルの言う通り勝ち目など到底ない。だが、フリューゲルは知らない。カームベルという絶対的な組織がついているのを。彼らなら自分が何もしなくてもどうにかしてくれるだろう。実際、計画の詳細は伝えられていない。それは俺たちがどう動いたとしても関係なく計画を完遂できるということだろう。しかし、トランはその流れに身を任せるだけではいけないと思っていた。俺は彼らの力がなくては王になれないだろうがせめて彼らに、ここにいる貴族たちに、そして目の前の男に王の器を示さねばならない。その決意を胸に燃えるような眼差しをフリューゲルに向ける。
「確かにその通りかもしれません。国民の支持は私が勝つと思いますが貴族間での影響力の差は歴然です。ですが、この場はただどちらが皇帝に相応しいか証明する場所です。仮に裏工作をして自分を支持させるようにしていたとしてもこの国を背負っていけるという器を示すべきだと私は思います。違いますか?フリューゲル兄さん」
フリューゲルはトランの熱を受けてもまったく表情は変わらない。めんどくさそうに足を組み替え、口を開く。
「馬鹿馬鹿しい。器なら俺が既に王の椅子に手を掛けているこの状況を見れば火を見るよりも明らかだろう。的外れな意見を言うな」
「いえいえ、あながち的外れとは言えないかもしれませんよ」
二人の会話に割って入る影が一つ。アムール侯爵だ。
「何故だアムールよ。ここには貴族しかいない。目先の言葉など意味をなさないと思うが……」
フリューゲルは納得がいかないような顔をしている。それと対照的にアムールは笑みを浮かべながら進言する。
「確かに貴族の意思決定は簡単に揺らぐものではありませんので殿下の勝ちは絶対でしょう。ですが殿下、言葉は一種の力を持つと言われています。東方では言霊という言葉には不思議な力があると言われているくらいですから。ですからこの場を唯の消化試合とするのではなく真の王を決める場にするのも一興かと申し上げます」
フリューゲルは目を閉じ、顎に手を当て少しの間思考を巡らせている。意思が定まったのか彼はゆっくりと目を開けた。
「確かにアムールの意見にも一理あるといえよう。喜べ弟よ。お前の思惑に乗ってやることにした。存分に言いたいことを言うがいい」
「それではお言葉に甘えさせていただきます。兄上はこの国をどうしたいのでしょうか。?私がこの場ではっきりさせたいことはこれがすべてです」
「何を言うかと思えばそんなことか。お前も分かっていると思うが俺の目的は帝国をこの世界で一番の国にすることだ。軍事力、経済力、それに領土。どれをとっても、誰に聞いても最も優れているのは帝国だと言われる世の中にするそれがすべてだ」
「何故そんなことに拘るのですか!王国や神国とは友好的な付き合いをしてきたではありませんか。今更どこが一番であろうと民には関係ないでしょう。あなたの傲慢にこの国全ての人々を付き合わせるというのですか!」
「そうだ。それがどうした?国民など勝手に生えてくる雑草のようなものだろう。そんな奴らを有効的に使ってやるのだ。寧ろ感謝してもらいたいくらいだ」
あまりにも狂気じみたフリューゲルの発言にトランは思わず絶句する。どろりと濁った瞳でトランを見つめながら不気味な笑みを浮かべている。
「さあ、議論はこれで終了だ。これ以上続けても平行線を辿るだけ、無意味だ。それでは投票に移る。アムール頼んだぞ」
トランはまだ議論は終わっていないとばかりに食って掛かろうとしたがその前にアムールが口を開く。
「すみません、殿下。そういうわけにはいかないのです。あちらをご覧ください」
フリューゲルは貴族たちが座っている方を向く。すると、前方に座っている四人以外は全員虚ろな目をしており、心ここにあらずと言った様子だったのだ。
「これはどうゆうことだ!」
フリューゲルは驚きのあまり声を荒げる。その隣のアムールは余裕そうな笑みを浮かべている。
「簡単なことですよ。会議の初めに炊いた香の影響です。あれは催眠香といって一定時間嗅いだ人間の意識を酩酊状態にするというものですから」
アムールは何でもない事かのように話している。
「お前は何を言っている!」
「何をってただ事実を申し上げているだけですよ。まあ、何となく気づいたかと思いますが、私は……」
会話の途中でアムールの姿は段々と女性の姿に変わっていく。艶やか紫紺の髪が顕わになり特徴的なメイド服が目を引く。その変わりように二人の皇子を目を丸くしている。だが、すぐに危険を察したのかフリューゲルは彼女から離れようとする。
「はい、ストップ」
少女は素早く動き、魔法によって鎌のような物に変形させた手でフリューゲルの手とテーブルを貫き縫い付ける。苦悶の表情を浮かべ、悲痛な声を出す。
「駄目よ、逃げたら。まだ、あなたには聞きたいことがあるんだから」
少女の顔には皇子と対照的な朗らかな笑みが浮かんでいた。
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