魔導と迷宮~最強の冒険者は少女を育てるようです~
28話
ウェントス邸を訪問してから数日後ブラッドはエミリーの部屋を訪れていた。
「それで首尾はどうだったのでしょうか?」
「残念ながら聞き入れられなかった。やはりそう簡単に意思を変える男ではなかったよ」
エミリーはブラッドの方をじっと見つめてくる。こちらの真意を探ろうとしているのだろう。だが、仮面で覆われた顔からは何も窺い知ることはできない。エミリーは小さくため息をつく。
「そうですか。あなたで無理ならば他の誰であっても無理だったでしょう。お疲れ様でした。報酬の方はこちらです」
そう言って四角い箱をブラッドの目の前に置く。その箱を開けるとその中には数百枚の金貨が入っていた。だが、ブラッドはその輝きには目もくれず箱を閉じ、エミリーに押し返す。
「いや、俺は結局王国の要求は通せなかった。だからこれを受け取るわけにはいかない」
「ですが……」
「ここは俺を立ててくれ。それに達成もしてない依頼で報酬をもらうなんて冒険者の名折れだろう?」
ブラッドの断固とした態度にエミリーは渋々金貨の詰まった箱をしまう。
「そうかもしれませんね。私には分かりかねますが」
「そうか、なら覚えておいたほうがいい。一流の冒険者は君には理解しかねる流儀というやつを持っているからな。そこを尊重できないようでは上手く付き合っていけないぞ。俺を含めてな」
そう言ってブラッドは席を立った。
「ご教授痛み入ります」
エミリーはブラッドが部屋を出ていくまで頭を下げるのだった。
時が過ぎ皇帝を決める会議が開かれる前日となった。各地から会議に参加する貴族たちが続々と集結してきていた。その中にはもちろんトランとコルネットの二人も含まれている。二人は黒蟻の構成員に護衛されながら帝都まで来ており、現在はアインが手配しておいたホテルの一室に滞在している。
「久しぶりだね。アイン君。首尾の方はどうかな?」
「何とも言えませんね。第一皇子の動きを完全に把握しているわけではありませんので」
「ならば成功率の方は高くないのかな」
少しも不安そうな顔をせずアインにトランは尋ねる。
「さあ?そんなことは知りませんね。ですが相手がどう動いたとしてもそれに対応してあなたが期待する成果くらいは保証しましょう」
トランはその言葉を聞き豪快に笑いだす。
「中々に傲慢な謙遜だな。君たちのおかげで玉座につくというのは情けない限りだがやはり君たちに頼ってよかったと思っているよ。君たちのような存在になら皇帝になった後でも不満なく従えるというものだ」
「兄様、皇帝になろうとするものがそう易々とそのようなことを言ってはいけませんよ。立場的にもカームベルの皆さんは私たちの上に立とうとはしないでしょうから」
コルネットはそう言ってアインの方へ目配せをする。
「ええ、コルネット様のおっしゃる通りですよ、トラン様。私たちはあくまで日陰の存在。あなた方を従えるような考えはございません」
「分かっているとも。だが、それが表面上はということも分かっている。だからこそ言える時に私の本心を聞いてほしいと思ったのだ」
アインはその真っ直ぐな言葉に思わず笑みがこぼれる。今まで様々な為政者とあってきたがここまで真っ直ぐなものはいなかった。だからこそ個人的には好感を持ったのかもしれない。例え政治家として不適格だとしても。その心の輝きに目を細めながらアインは答える。
「そうですか。その言葉は確と私たちの心に留めておくとします」
トランは満足そうに頷く。
「兄様、そろそろ本題に入りませんと。アイン様はお暇ではありませんよ」
コルネットから小言が飛ぶ。トランはバツが悪そうに頭を掻いた。
「そうだな。明日の段取りについて聞いておかねばならんな」
「いいえ、その必要はございません」
「どうゆうことだ?」
トランは不思議そうな表情を浮かべる。
「会議場の中にも私たちの手のものがいますのでその者の指示に従っていただければ結構ですので。予め伝えておく事項は特にないのです」
「そうか。それならば安心だな」
トランは特に聞き返すこともなくすんなりと受け入れる。隣のコルネットが微妙な表情をしているが口出しはしてこないようだ。
「それでは私はこれで。またこの依頼が片付いたら改めて伺わせていただきます」
そう言って立ち去ろうとするアインを呼び止める声がかかる。
「待ってくれ」
「何でしょうか?」
そう言って振り向くとトランは拳を突き出していた。やれやれといった表情をアインは浮かべ拳を合わせるのだった。
「それで首尾はどうだったのでしょうか?」
「残念ながら聞き入れられなかった。やはりそう簡単に意思を変える男ではなかったよ」
エミリーはブラッドの方をじっと見つめてくる。こちらの真意を探ろうとしているのだろう。だが、仮面で覆われた顔からは何も窺い知ることはできない。エミリーは小さくため息をつく。
「そうですか。あなたで無理ならば他の誰であっても無理だったでしょう。お疲れ様でした。報酬の方はこちらです」
そう言って四角い箱をブラッドの目の前に置く。その箱を開けるとその中には数百枚の金貨が入っていた。だが、ブラッドはその輝きには目もくれず箱を閉じ、エミリーに押し返す。
「いや、俺は結局王国の要求は通せなかった。だからこれを受け取るわけにはいかない」
「ですが……」
「ここは俺を立ててくれ。それに達成もしてない依頼で報酬をもらうなんて冒険者の名折れだろう?」
ブラッドの断固とした態度にエミリーは渋々金貨の詰まった箱をしまう。
「そうかもしれませんね。私には分かりかねますが」
「そうか、なら覚えておいたほうがいい。一流の冒険者は君には理解しかねる流儀というやつを持っているからな。そこを尊重できないようでは上手く付き合っていけないぞ。俺を含めてな」
そう言ってブラッドは席を立った。
「ご教授痛み入ります」
エミリーはブラッドが部屋を出ていくまで頭を下げるのだった。
時が過ぎ皇帝を決める会議が開かれる前日となった。各地から会議に参加する貴族たちが続々と集結してきていた。その中にはもちろんトランとコルネットの二人も含まれている。二人は黒蟻の構成員に護衛されながら帝都まで来ており、現在はアインが手配しておいたホテルの一室に滞在している。
「久しぶりだね。アイン君。首尾の方はどうかな?」
「何とも言えませんね。第一皇子の動きを完全に把握しているわけではありませんので」
「ならば成功率の方は高くないのかな」
少しも不安そうな顔をせずアインにトランは尋ねる。
「さあ?そんなことは知りませんね。ですが相手がどう動いたとしてもそれに対応してあなたが期待する成果くらいは保証しましょう」
トランはその言葉を聞き豪快に笑いだす。
「中々に傲慢な謙遜だな。君たちのおかげで玉座につくというのは情けない限りだがやはり君たちに頼ってよかったと思っているよ。君たちのような存在になら皇帝になった後でも不満なく従えるというものだ」
「兄様、皇帝になろうとするものがそう易々とそのようなことを言ってはいけませんよ。立場的にもカームベルの皆さんは私たちの上に立とうとはしないでしょうから」
コルネットはそう言ってアインの方へ目配せをする。
「ええ、コルネット様のおっしゃる通りですよ、トラン様。私たちはあくまで日陰の存在。あなた方を従えるような考えはございません」
「分かっているとも。だが、それが表面上はということも分かっている。だからこそ言える時に私の本心を聞いてほしいと思ったのだ」
アインはその真っ直ぐな言葉に思わず笑みがこぼれる。今まで様々な為政者とあってきたがここまで真っ直ぐなものはいなかった。だからこそ個人的には好感を持ったのかもしれない。例え政治家として不適格だとしても。その心の輝きに目を細めながらアインは答える。
「そうですか。その言葉は確と私たちの心に留めておくとします」
トランは満足そうに頷く。
「兄様、そろそろ本題に入りませんと。アイン様はお暇ではありませんよ」
コルネットから小言が飛ぶ。トランはバツが悪そうに頭を掻いた。
「そうだな。明日の段取りについて聞いておかねばならんな」
「いいえ、その必要はございません」
「どうゆうことだ?」
トランは不思議そうな表情を浮かべる。
「会議場の中にも私たちの手のものがいますのでその者の指示に従っていただければ結構ですので。予め伝えておく事項は特にないのです」
「そうか。それならば安心だな」
トランは特に聞き返すこともなくすんなりと受け入れる。隣のコルネットが微妙な表情をしているが口出しはしてこないようだ。
「それでは私はこれで。またこの依頼が片付いたら改めて伺わせていただきます」
そう言って立ち去ろうとするアインを呼び止める声がかかる。
「待ってくれ」
「何でしょうか?」
そう言って振り向くとトランは拳を突き出していた。やれやれといった表情をアインは浮かべ拳を合わせるのだった。
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