魔導と迷宮~最強の冒険者は少女を育てるようです~
10話
日も傾き、辺りは薄暗くなっている。そんな中ノインとシンシアは迷宮都市から少し離れた何もない平野に来ていた。
「ノイン、どこまで行く気なの?」
「ん、到着した」
シンシアは辺りを見渡すが見るべきものは何もない。シンシアは不思議に思い尋ねた。
「ここに何しに来たの?見た限り何もないけど」
「もちろん……」
ノインは素早く振り向き間合いを詰めると掌打をシンシアの腹部に叩き込んだ。シンシアは苦悶の表情を浮かべ転がっていく。
「戦うため」
シンシアは腹に手を当てながら立ち上がる。
「いきなり何するの!」
「どうせ、言葉で言ってもあなたは臨戦態勢には入らない。だから攻撃した。それだけ」
ノインは淡々と言葉を紡ぐ。
「そもそも何で私たちが戦わないといけないの?戦わなければいけない理由がないわ」
「私の私情、確認したいこと、あなたのため理由は色々ある。でも、それを一々話すつもりはない。ただ話すだけじゃ伝わらないと思うから。だから戦う。構えて」
その瞬間シンシアは凄まじい強風に晒されているように感じた。実際風など吹いていない。ノインから吹き出すような闘気に気圧されたのだ。シンシアも覚悟を決め、答える。
「……ノインの言ってること全然わかんないけど本気なのは理解できた。だから戦うよ、全力で」
シンシアは腰の剣を抜き正眼に構える。ほんの数舜の間、静寂が場を支配する。だが、それを破るようにノインが先ほどと桁違いの速度で突っ込んでくる。シンシアは剣を振るい迎え撃つ。ノインはそれを当然のように躱し、またも掌打を叩きこむ。しかし、シンシアは身をよじり衝撃を和らげ、僅かにはしる鈍い痛みに耐えながら再度剣を一閃させる。ノインは後ろに跳び、それを躱そうとするがシンシアは逃がさないとばかりに柄を滑らせ間合いを伸ばし、大きく前に踏み出し振るう。流石のノインも躱しきれず頬にわずかな傷を作る。
「驚いた。予想以上の実力」
「私だって先生に鍛えられてるんだからこのくらいはできないと。だから、過度に手加減はしなくていいよ」
シンシアは自信ありげな笑みを浮かべる。
「過度?これくらいがちょうどいいって思ったけど」
その言葉にシンシアはむっとしたような表情をする。眼光と語気を強めノインに語り掛ける。
「魔法も使わない。武器も使わない。これで過度じゃないっていうの?それは流石に舐めすぎだと思うよ」
「別に舐めてない。魔法を使わないのはあなたが目くらまし程度しか魔法を使わないから。武器を使わないのは使うとあなたを殺してしまうかもしれないから。だから、適切」
シンシアはぴくりと体を震わせ、ごくり唾を飲み込む。
「武器を使わないのは分かったわ。さっきの攻撃も武器なら私は死んでたと思う。でも、私が魔法を使わないんじゃなくて使えないのよ。それこそ閃光を放つ程度しかコントロールできてないのよ」
シンシアは自嘲気味な笑みを浮かべた。だが、それを見てノインは不敵な笑みを浮かべる。
「何言ってるの?あなたは魔法を使えるでしょう?確かに細かな魔法を操作はできないのかもしれないけどただの光線すら放てないのはおかしい。もしそれができないのなら心因的な問題。人を傷つけるのが怖くて魔法が使えないという事例は確かによくあること。だけど、シンシアは人相手でも迷いなく剣を振るえる。だから、使えるはず」
「た、確かにそうかもしれないけど」
シンシアは目を泳がせ、声を震わせる。
「たぶんシンシアは魔法が上手く使えなくてにいに失望されるのを恐れてる。だから、魔法を使わない。仮に使っても現在自分が使える閃光だけ。違う?」
シンシアは俯き、肩を震わせている。その様子がノインの質問への肯定を意味していることは明らかだった。シンシアは諦めたように息を吐き、心情を吐露する。
「そうだよ。私は先生に見限られるのが怖いの。だって先生は私が強くなるって思ってるから今も指導してくれてるはずよ。だからもし私が魔法を使っても強くなれなかったらって思うと怖くて手が震えるの。足がすくむの。幸い今は魔法を上手く使えなくてもイメージができないとかの理由でどうにかなってるからもう少しこのままでもいいかなって」
「それじゃあダメ」
ノインは物凄い速さで接近すると勢いよく拳打をくりだす。シンシアの体をくの字に曲がりその場に崩れ落ちる。
「今使えるようになって。出来なければあなたには見込みがないってにいに報告する」
「そんな……」
シンシアは悲壮の表情でノインを見上げる。だが、そんなものはお構いなしにノインはシンシアを蹴りつけ、少女の体はごろごろと転がっていく。
「早く立って。あなたにはこの場で成功させるしか道はないの。覚悟を決めて」
ノインは再度距離を詰めていく。ノインの視界に移るシンシアは先ほどとは打って変わり真剣な表情を浮かべていた。やはり追い詰められることで覚悟を決めたようだ。ノインはかすかに笑みを浮かべる。シンシアは手を前に突き出しそこに光を発生させ始める。ノインは少し速度を落とし迎え撃つ準備をし始めた。その瞬間光の奔流がノインを襲う。
「遅い」
ノインはそれを軽く躱す。ノインは心の中でそっとため息をつきこの戦いを終わらせようと一気に間合いを詰めようとする。だが、その時焼けるような痛みがノインを襲い思わず膝をつく。ノインが足を見ると左太もものあたりを何かに貫かれていた。警戒レベルを引き上げ、傷ついた左足をかばいながら接近を試みるがシンシアは再度光の玉を漂わせ始める。しかし、先ほどとは違い五つの光球が浮かんでいた。それらが一斉に光線となってノインに攻撃してくる。ノインは攻撃を食らった理由を探るために五つの光線を躱し、その行方を目で追う。すると、光線は軌道を変え再び襲い掛かる。ノインはとっさに腰の双剣を抜き、瞬時に四つの光線を叩き落とす。だが、最後の光線が再度軌道を変え、ノインの体を貫かんと向かってくる。ノインはそれを魔法で影を操り辛うじて防ぐ。ノインは影を流動する物体のように操作したり、影に潜んだり、影を渡ったりできる。命の危機にノインは使うつもりのなかった魔法を使わされたのだ。シンシアは勝ち誇ったような笑みを浮かべ、糸が切れた操り人形のようにその場に倒れる。倒れたその表情からは強い安堵が読み取れた。
「やっぱりシンシアはやればできる子。ユニ様の言ってた通り。これで私も役目は果たした」
ノインは座り込み一息つく。腰のあたりに着けている空間拡張式の小さな皮袋に手を突っ込み青緑色の液体が入ったガラス瓶を取り出し、それを飲み干す。すると。みるみるうちに傷が塞がっていく。前方で倒れているシンシアの姿が目に入り、宿まで運ばなければならないと考えるとノインは憂鬱な気分になった。
「ノイン、どこまで行く気なの?」
「ん、到着した」
シンシアは辺りを見渡すが見るべきものは何もない。シンシアは不思議に思い尋ねた。
「ここに何しに来たの?見た限り何もないけど」
「もちろん……」
ノインは素早く振り向き間合いを詰めると掌打をシンシアの腹部に叩き込んだ。シンシアは苦悶の表情を浮かべ転がっていく。
「戦うため」
シンシアは腹に手を当てながら立ち上がる。
「いきなり何するの!」
「どうせ、言葉で言ってもあなたは臨戦態勢には入らない。だから攻撃した。それだけ」
ノインは淡々と言葉を紡ぐ。
「そもそも何で私たちが戦わないといけないの?戦わなければいけない理由がないわ」
「私の私情、確認したいこと、あなたのため理由は色々ある。でも、それを一々話すつもりはない。ただ話すだけじゃ伝わらないと思うから。だから戦う。構えて」
その瞬間シンシアは凄まじい強風に晒されているように感じた。実際風など吹いていない。ノインから吹き出すような闘気に気圧されたのだ。シンシアも覚悟を決め、答える。
「……ノインの言ってること全然わかんないけど本気なのは理解できた。だから戦うよ、全力で」
シンシアは腰の剣を抜き正眼に構える。ほんの数舜の間、静寂が場を支配する。だが、それを破るようにノインが先ほどと桁違いの速度で突っ込んでくる。シンシアは剣を振るい迎え撃つ。ノインはそれを当然のように躱し、またも掌打を叩きこむ。しかし、シンシアは身をよじり衝撃を和らげ、僅かにはしる鈍い痛みに耐えながら再度剣を一閃させる。ノインは後ろに跳び、それを躱そうとするがシンシアは逃がさないとばかりに柄を滑らせ間合いを伸ばし、大きく前に踏み出し振るう。流石のノインも躱しきれず頬にわずかな傷を作る。
「驚いた。予想以上の実力」
「私だって先生に鍛えられてるんだからこのくらいはできないと。だから、過度に手加減はしなくていいよ」
シンシアは自信ありげな笑みを浮かべる。
「過度?これくらいがちょうどいいって思ったけど」
その言葉にシンシアはむっとしたような表情をする。眼光と語気を強めノインに語り掛ける。
「魔法も使わない。武器も使わない。これで過度じゃないっていうの?それは流石に舐めすぎだと思うよ」
「別に舐めてない。魔法を使わないのはあなたが目くらまし程度しか魔法を使わないから。武器を使わないのは使うとあなたを殺してしまうかもしれないから。だから、適切」
シンシアはぴくりと体を震わせ、ごくり唾を飲み込む。
「武器を使わないのは分かったわ。さっきの攻撃も武器なら私は死んでたと思う。でも、私が魔法を使わないんじゃなくて使えないのよ。それこそ閃光を放つ程度しかコントロールできてないのよ」
シンシアは自嘲気味な笑みを浮かべた。だが、それを見てノインは不敵な笑みを浮かべる。
「何言ってるの?あなたは魔法を使えるでしょう?確かに細かな魔法を操作はできないのかもしれないけどただの光線すら放てないのはおかしい。もしそれができないのなら心因的な問題。人を傷つけるのが怖くて魔法が使えないという事例は確かによくあること。だけど、シンシアは人相手でも迷いなく剣を振るえる。だから、使えるはず」
「た、確かにそうかもしれないけど」
シンシアは目を泳がせ、声を震わせる。
「たぶんシンシアは魔法が上手く使えなくてにいに失望されるのを恐れてる。だから、魔法を使わない。仮に使っても現在自分が使える閃光だけ。違う?」
シンシアは俯き、肩を震わせている。その様子がノインの質問への肯定を意味していることは明らかだった。シンシアは諦めたように息を吐き、心情を吐露する。
「そうだよ。私は先生に見限られるのが怖いの。だって先生は私が強くなるって思ってるから今も指導してくれてるはずよ。だからもし私が魔法を使っても強くなれなかったらって思うと怖くて手が震えるの。足がすくむの。幸い今は魔法を上手く使えなくてもイメージができないとかの理由でどうにかなってるからもう少しこのままでもいいかなって」
「それじゃあダメ」
ノインは物凄い速さで接近すると勢いよく拳打をくりだす。シンシアの体をくの字に曲がりその場に崩れ落ちる。
「今使えるようになって。出来なければあなたには見込みがないってにいに報告する」
「そんな……」
シンシアは悲壮の表情でノインを見上げる。だが、そんなものはお構いなしにノインはシンシアを蹴りつけ、少女の体はごろごろと転がっていく。
「早く立って。あなたにはこの場で成功させるしか道はないの。覚悟を決めて」
ノインは再度距離を詰めていく。ノインの視界に移るシンシアは先ほどとは打って変わり真剣な表情を浮かべていた。やはり追い詰められることで覚悟を決めたようだ。ノインはかすかに笑みを浮かべる。シンシアは手を前に突き出しそこに光を発生させ始める。ノインは少し速度を落とし迎え撃つ準備をし始めた。その瞬間光の奔流がノインを襲う。
「遅い」
ノインはそれを軽く躱す。ノインは心の中でそっとため息をつきこの戦いを終わらせようと一気に間合いを詰めようとする。だが、その時焼けるような痛みがノインを襲い思わず膝をつく。ノインが足を見ると左太もものあたりを何かに貫かれていた。警戒レベルを引き上げ、傷ついた左足をかばいながら接近を試みるがシンシアは再度光の玉を漂わせ始める。しかし、先ほどとは違い五つの光球が浮かんでいた。それらが一斉に光線となってノインに攻撃してくる。ノインは攻撃を食らった理由を探るために五つの光線を躱し、その行方を目で追う。すると、光線は軌道を変え再び襲い掛かる。ノインはとっさに腰の双剣を抜き、瞬時に四つの光線を叩き落とす。だが、最後の光線が再度軌道を変え、ノインの体を貫かんと向かってくる。ノインはそれを魔法で影を操り辛うじて防ぐ。ノインは影を流動する物体のように操作したり、影に潜んだり、影を渡ったりできる。命の危機にノインは使うつもりのなかった魔法を使わされたのだ。シンシアは勝ち誇ったような笑みを浮かべ、糸が切れた操り人形のようにその場に倒れる。倒れたその表情からは強い安堵が読み取れた。
「やっぱりシンシアはやればできる子。ユニ様の言ってた通り。これで私も役目は果たした」
ノインは座り込み一息つく。腰のあたりに着けている空間拡張式の小さな皮袋に手を突っ込み青緑色の液体が入ったガラス瓶を取り出し、それを飲み干す。すると。みるみるうちに傷が塞がっていく。前方で倒れているシンシアの姿が目に入り、宿まで運ばなければならないと考えるとノインは憂鬱な気分になった。
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