小学生のぼくは日記を書くことにした

文戸玲

ジンカクシャ

 中川くんのやさしくないところは,休憩時間に観察しているとよく分かる。早いもの順で使うことと決まっているボールを奪い取る。宿題を写す。給食の準備や後片付けをさぼる。人の筆箱から勝手に道具を借りて,返し忘れる。女子のスカートめくりをする。あげればきりがない。めくってくれてありがとうなんて大人なぼくは思わないけれど,中川くんの金魚の糞のようにくっついて言いように使われている宮坂くんなんかは鼻の下を伸ばして喜んでいる。このことを以前おばあちゃんに話したら,「もしかしたらその点で大人なのはコウくんよりも宮坂くんの方かもしれない。」と言ったのはいまだに納得できない。将来性のあるぼくに言わせれば宮坂くんはぼくの足元にも及ばないのだから。
 見ていて不愉快になる人を観察して反面教師にするよりも,人の良いところから学ぶ方が得るものが多いことをぼくは知っている。ぼくは,三浦くんこそが学ぶ対象に値する友達だと思っている。三浦くんというのは実はとても立場が弱い。いつも中川くんにからかわれ,中川くん以外の人にもよくいじられている。当の三浦くんはというと,いつもにこにこしてちょっかいを受け流している。悪いやつらが三浦くんをターゲットにした時にしか注目されないが,ぼくは知っている。ごみが落ちていたら黙って拾ってゴミ箱に捨てていること,汚く干されたり洗われていないぞうきんを水ですすいで丁寧に干し直していること,そのことに気付いた先生が「ぞうきんをきれいにしてくれたのは誰だ?」と聞いたとき,中川くんが手を挙げたのに何も言わなかったこと(中川くんはいつも,先生の前でだけは良い恰好をするのだ),その時にみんなで中川くんに向けた拍手を惜しみなく与えていたこと。
 あげればきりがないほどたくさん立派なことがある。ぼくは難しい言葉もたくさん知っている。三浦くんのような人をジンカクシャというのだ。ぼくもジンカクシャになりたいから,三浦くんにジンカクシャに必要なものを聞いて真似をしようと思う。「学ぶ」という言葉は「まねぶ」というのが語源だ。まねぶとは真似ることから来ているから,それはとても正しいやり方なのだ。ぼくは本当にたくさんのことを知っている。


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