三日月

ghame

(52) 銀座の女

 そして、夜のお仕事の時間になった。

 カズも 明日から新しい職場で新しい営業職に挑戦するのだ、私もこんなことに怖気付いてなんていられない頑張らなくては。
 とは言ってみたもの、何を頑張るのかはサッパリわからない。

 まずは指定された美容室に行くと20分で髪を優雅なアップにし、その間にメイクも整えてくれた。

 銀座の女になった自分の美貌に惚れ惚れさせられている間に、更にシックな着物へと衣替える。
 その速さには恐れ入った、昼間ベソをかいていたことを思い出す余裕などどこにも無い。
 すぐにカネにタクシーに乗せられ目が回っているところに古い佇まいの民家的な老舗すき焼き専門店のお座敷へと通された。

 カネの話では、とても重要な接待が今から行われるので、店のものには席を外させる。その間すき焼きを取り分けて欲しいという事だった

 7時半になって四人の男性がお座敷に入って来た。

 その中の二人は私と同じくらいの年齢かと思われ 後の二人はかなりのご年配の方達で、そのお一人は お着物を着ていて御隠居様と、言った感じだ。

 後の3人はスリーピースのスーツを着ていた。
 皆んな物腰がソフトで更にその顔はにこやかで上流層の大物人物であることは明らかだった。

 カネの所作も優雅なもので、その場にふさわしいプロであり惚れ惚れした。

 早速一番若い鈴木さんと呼ばれる男性がわたし達に向かって話しかける

「あかねさん、海里さん。今日は無理を言ってすいませんでした。彼女達は学生時代からの古い知人で信頼が置けます。四人が同席したことは他言されることはございません、ご安心してお腹を満たしてくだい。」
 あかねが料理について切り出す

「すき焼きをご用意いたしました。作り方は関東風でよろしいですか?」
 橋本と呼ばれる、お着物の老人が返事をしてくれる
「これほど高級なお肉であれば、焦げてもさぞかし美味しい炭となることでしょう。緊張なさらずとも、ドンドンと焼いて、どうぞ ご一緒にお召し上がりください。お若い方達は沢山お腹に入るのでは無いですか?私はそのお肉一枚も食べられないでしょうね。ネギと春菊をいただけますか?」
「はい、承知いたしました。生卵が苦手な方はいらっしゃいますか?それと、日本酒は常温で八海山をご用意いたしました」

 皆さんそれで良かったようでコメントはなかった。
 それから1時間ほど取り止めのない世間話をすると、年配のお二人は帰っていかれた。。


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