三日月

ghame

(15)ヘイデイ

 
 お昼時になり、パラパラと皆んなが席を立ち始めたのでオレもお弁当を食べに屋上に行く事にした。

 そうだ!飲み物、エリはどうしてるんだろ?
メールを入れてみる
<飲み物は、どうしてる?>

<お茶なら給湯室からカップに入れて持っておいでよ!>
 返事は、すぐに来た
 
 確かにお弁当には熱いお茶が欲しい。

 給湯室へ行ってお茶とコーヒーを入れ、両手に持つとエレベーターへ向かった。
歩き始めると、バランスを取るのが案外難しい

 コレ、持ち運ぶの結構ムズいな。こぼしそう
 2つも欲張るんじゃなかった

 エレベーターを待っていると、隣に立つ女性もカップを持っている。あれっ?蓋付マイボトルだ!あれなら溢さないで持てて便利だな。早速、今日買おう。

 何とか5階でエレベーターを降りて、階段を登ったのだが
 
出た!最後の難関。

 階段を登り切った外へのドアノブは、両手が塞がっていては、どうにも開けられない。

「どーするべ」
  三木谷建設に入ってから最大の難関だと思って解決策を模索してると、いきなりドアが自動で開いて 視界が パァーッと明るく広がった。

「人影が見えて 両手が塞がって困っているように見えたから。カズって間抜けだったのね。どうやってここまで来たの?エレベーターはどうやってボタン押したの?」
 
 難関を切り抜け ホッとしたのと、エリに間抜けだと言われたことがおかしくて 何か面白い事を言いたかった
「足で!」
が、スキルが無かった。 
  無念。

「ウソばっかり」
 ここには もっと会話スキルの低い匠がいたと、心の中で解説が入る  
  お師匠様

「エリ助かったよ!ただ飯食うためには、こんなに苦労しないといけないのか。と、途中メゲかけて、やっと到着したら最後はドアノブの試練だろ?おかげで腹が倍減ったよ」

 エリは、オレの話に目もくれず、スマホの画面に夢中になっている。
「お弁当持って来たわよ」
   画面を見ながら声を出し、その先はオレがお弁当を食べ終わっても、コーヒーを飲み終わっても無言でスマホをいじっている。
 
 何だ、何だ。あのシカト振りは?
新人イビリが?

イヤ、あの指の動きは、、
 もしかして、エリってゲーマー?ネットゲームか??

「エリもしかして、それをやりたくて屋上で一人で飯食ってたのか?」

 色々と心配して、お散歩にまで誘ったのに、取り越し苦労だったようでエリはマイペースで楽しんでいる。
 何だよ!心配した時間を返せ!
だからと言って、コミュ力があるようにも見えないな。
 微妙〜

「何のゲームやってるの?」
「農場経営ゲームヘイデイ」
「レベルいくつ?」
「107」
「オレ様は、176だ!ニートをナメンナ!」
 と、得意気に身体を反ってスマホの画面を見せると

 尊敬を交えたギョッと顔をして
「フレンズ登録して」
 と、普段のエリらしくなく何も考えずに即答して来た。
 このスピードは正しく初めてエリの心から出た素直すぎる言葉に違いない。

 こんな一面もあったのか?もっと早く知ってたら一緒にレベル上げできたのにな。

 残念に思ったりもしたが、まずはフレンド登録した後アイテム交換など、ものすごくガチにハマって残りの昼休み時間はあっという間に終わってしまった。

 階段を下りながら午前中にあった山下主任の話をすると、エリはわかっていたようで

「山下くん、たまにあるから周りでフォローしているんだけど。今回も私が土曜日にカズと伝票を見ていて気がついたので、トラック延長を手配しておいたの。このことは内緒ね!彼にはもっと慎重になって欲しいから、今回のことが良い薬になってくれると良いんだけど、、、。
あ!博子さんのみたらし団子、とっても美味しかった。よろしくお伝えください。」

 オフィスへ戻るエリはゲームを満喫し、アイテムも沢山ゲットして過去最強に明るい後ろ姿に見えた、その後ろ姿を見送りながら今夜の段取りを頭に描いた。

 会社 17:30
 ハサミ18:00  
 歩き 20:00 
 晩飯は21:00
 まあ、何とかなるだろう、問題ない
しまった、マイボトルを買いに行く時間がない。。



コメント

コメントを書く

「恋愛」の人気作品

書籍化作品