三日月

ghame

(11)名もなき詩

 
 素麺を食べたら、またエリの家で お仕事再開

 16:30頃、少し休憩しよう。
 と、エリを誘って家に帰ってみると、案の定忍さんがまだ家に居て今度はオヤジも一緒だ。
 
 4人掛けのダイニングテーブルには、ぶどう、みかん、煎餅、母恵夢、など広げて、主婦2人はセロリの芯など取る手作業などもしている。
 今夜は、セロリのキンピラだろう。
 
 2人が入って来た事に気が着くと、、
オヤジが先に口を開く
「おっ。お疲れ様。はかどってるか?」

次は、忍さんだ
「久しぶりに、カズくんのお父さんともお話出来て盛り上がっちゃった。」

続いてオフクロ
「ぶどう食べる?お父さんが買って来たの。2人共何飲みたい?コーヒー?麦茶?後、オレンジジュースがありますよ」

 3人の輪に入り、オレはエリに忍さんの横の席を進めて座らせるとリビングからピアノの椅子を運んで来る。
 椅子を持って
「母さん、オレ、コーヒーとオレンジジュース。皆さん、楽しそうじゃないですか?仲間に入れて下い。」
と、言って加わる。

エリは少し考えて
「私もコーヒーをお願いします。ブラックで。」
と、言った。

次に、忍さんがオレに話かけて来た
「カズくん最近は、ピアノ弾いてないの?久しぶりに聞きたいわ。昔は毎日練習してたわよね。」

 そう言われて最近ピアノを弾いていない自分に気がついた。
 社会人になっても、たまにピアノは触っていたのに、、それで久々に弾いてみたくなった。

「忍さん、そう言って頂けると、久しぶりに弾いてみたくなりました。」

 それから今持って来たばかりの椅子を リビングに運び4枚戸になっているダイニングとリビングの仕切りのスライド式戸を開け放して、椅子に腰掛けると指の体操をして鍵盤で少し指を慣らした。

 久しぶりなので簡単な曲を弾くことにした。

 曲目は大好きなミスチルの

 "名もなき詩"

 スタートは、メゾピアノでソフトに、中盤に向かって荒々しくフォルテにして行く。

 オレの頭の中では、歌詞が流れていた

少しくらいの汚れ物ならば
全部残さず食べてやる
oh darling 君は誰
真実をにぎりしめてる

きみが僕をうたがってるのなら
こののどを切ってくれてやる
oh darling 僕はノータリン
欲しいものはぜんぶくれてやる wow wow

苛立つような街角に立ったって
感情さえもリアルに持てなくなりそうだけど

こんな不調和な生活の中で
たまに情緒不安定になるだろう?
でもdarling 一緒に悩んだり
生涯を共に捧ぐ

あるがままのこころでいられない弱さを
だれかのせいにして生きている
いつの間にか築いてた自分らしさという檻の中で
もがいているのなら
ぼくだってそうなんだ

どれほど分かり合える同士でも
孤独な夜はやって来るんだよ
oh darling このわだかまり
消せやしないんだよ wow wow

いろんなこと踏み台にして来たけれど
無くしちゃいけないものを
やっと見つけた気がする

君の仕草が滑稽なほど
優しい気持ちになれるんだよ
oh darling 夢物語
会うたび聞かせておくれ

愛は与えるでも奪うでもなくて
気がつけばそこにある物
街の風に吹かれて唄いながら
妙なプライドは捨ててしまえばい
そこからはじまるさ

絶望 失望
何をくすぶってるんだ
愛 自由 希望 夢
足もとをごらんよきっところがってるさ

成り行きまかせの恋に落ち
ときには誰かをきずつけたとしても
その度心をいためる時代じゃない
誰かを思いやりゃあだになり
自分の胸つきささる

だけど
あるがままの心で生きていこうと願うから
人はまた傷ついていく
いつの間にか築いてた自分らしさという檻の中で
誰だってそう
おれだってそうなんだ

愛情って形のないもの
伝えるのはいつも困難だね
だから darling この"名もなき詩"を
いつまでも君に捧ぐ

 心地良いピアノの音に引き込まれ、その音が染みて酔いしれる

 演奏の盛り上がり部分は、感情が入り過ぎて鍵盤を強く叩きすぎたが、さいごはスローに優しく 
  幕を閉じた。。

 あれっ?
 ハッと気が付くと、目から涙が出ていた

 そんな自分に驚いて、半分だけ顔を振り向かせ皆んなの顔を盗み見すると

拍手しながらも
 皆んなの目からも涙が流れていた

エリの瞳からも涙が溢れていた

ゆっくりと、静かに鍵盤にキーカバーをかぶせる
 そして鍵盤蓋をそっとしめる

 その蓋の中に、ニートだった過去の自分を閉じ込められた気がした

 ひと呼吸おいて立ち上がり振り返り、両手をパンツの縫い目にキチンと揃えて深く一礼

 拍手の音は、より大きくなる

 それからピアノに向きなおり、目を腕で擦ると
近くにあった野球帽を掴み4人に向かって チップをネダる仕草をすると、4人は大爆笑して
 1人1個づつ、ぶどうを入れてくれた。

 オレは野球帽の中からぶどうを摘み、食べながら
「またのご来店を心待ちにしております。」

 つまらなそうに言うと、また4人に笑いの渦が巻き上がった。
 
 オレに、こんなに人を笑わせる力があったとは、、
他人を笑わせるのって、気持ち良いな。

 特に、この笑の中には、複雑な深い優しさもあっての、あったかいものだった。

コーヒーを飲むと、時刻は5:00。
 そろそろ夕食の準備をしなくては。と、お開きになった。
 気になる昨日あった「他人を褒める」と言う神からのノルマは、パンが美味しいだの、三木谷社長が褒めていただの、父さんが休みの日にも頑張っているだの。
 何となく会話に散りばめて達成しておいた。

 エリが帰るとき、呼び止めて
「今夜ウォーキングをするんだけど、一緒に歩かないか?」
と、衝動的に誘っていた。
 何故ならエリが会社の人と上手くやっているのかが気になったからだ。

 学生時代オレ達は、お互いシカトし合っていたが、社会人になってからも1人で鍵をかけて、お昼を食べているなんて。
 どう考えても不自然だ。

 以前の職場での自分が、そんな感じだったので、無性に気になっていた。

 オレが鍵を掛けたのは、心になんだだけどな。
 
エリは少し考えて
「何時ごろ?」

OKって事だよな?
「20:00頃を予定している。」

「出る5分前にメールして。」
と、無表情で言うと家へ帰って行った。

 なんだ、アイツ??




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