三日月
⑵ ハサミ
        5月18日 月曜日
目覚めて喉が渇いたのでキッチンへ行くと、母親に呼び止められた。
「カズ、髪伸び過ぎじゃない?駅前で無料券もらったから切って来なさい」
え?無料で散髪?ますます神の言葉に信憑性が出ては来ないか?
昨日ほど神メールが当たったことへの衝撃が無いのは、考え倒して一回りし、もう投げやりだからだ。
「母さん、券見せて」
’HASAMI’って、あの店か。。ちょっとオサレで敷居高いんだよな、無料券、男性カットモデル、ってモデルにされるのかよ!
『今回は変身がテーマです』まるでオレ用企画みたいだな、、、輪ゴムで縛るほど伸びてるぜ。。コレを切ってヒゲ剃るだけでも変身大成功だよ!
「予約しておくから時間が決まったら知らせるわね、いつでも出れるように準備だけはしておいて!無料なんだから無駄にしたら晩ご飯抜きよ!」
ガキじゃねーんだから、晩ご飯抜きだけは勘弁!
オフクロの作る美味しい晩ご飯だけが、今のオレの楽しみなんだよ!
髪くらい切ってやるさ!!
これが日本のピンチを救うヒーローか?オレがヒーローなら犬屋敷『実写版では木梨憲武主演のアニメ』だな、トホホだよ
しばらくすると、母親が予約を取れたと呼びに来る。
「月曜日は定休日だから何時でも構わない。って言われたから『すぐ行きます』って答えちゃったけど出られる?」
もう答えちゃったんだろ?
「おおっ!」
了解の返事をして、キツくなってしまったジーンズと格闘し、なんとか持ち上げるがボタンは閉まらない
開けてベルトだ、ベルト!急げ~
そういやぁ飯食ってねーから腹減ったな、髪切る間くらい我慢出来るか、しょーがねー待たせちゃ悪いから行くべ。
バタバタと、準備していると時間に追われていた懐かしい日々が蘇りテンションが上がって来た。
出る前にチラッと玄関にある鏡を覗くと、ワサワサな髪の中に可愛らしい目元と、腫れぼったい顔が写る。
不摂生のせいで酷い顔してるな、コレが今のオレの顔か凹むゼ。
駅前までは自転車で向かうことにする。
風が気持ちよくて、鼻歌が出そうなほど久々に気分が良い、普段は引きこもってばかりで出かけると言っても深夜に近くのコンビニに歩いていく程度なので明るい時間帯に出掛ける事が新鮮だった。
風を頬に感じながら、ふと考える。。
他人と話すなんて、どのくらいぶりだ?3年前にオフクロのお使いでパン工場にパンを買いに行った時が最後だな、あの時パン屋のおばちゃんが『あら?今日はお仕事お休み?』って聞いて来たのが最後で、返事も出来ずに逃げ帰って来た、ガラスのハートだった時期だ。
思い出したくねー。
いつまでも引きこもっていても仕方がない。
3年も経ったのか〜最近特に自宅での生活にもクサクサしていてるんだよな、、、今日は良い気分転換だ。
美容室に到着すると、洒落た文字でCLOSEの看板が出ている。
中を覗いてみると長身の女性が見えてよくみると美人だ。
綺麗なお姉さんがいるぞ、無理無理無理。
お話スキルなんて無いのに、切ってもらうなんてプレッシャーはんぱない、とりあえず尻尾を巻いて逃げるとするか、、、
一瞬で気持ちが引きこもりに逆戻りして、引き返しかけるが、入り口でウロウロし帰ろうとしている様子に気がついた綺麗なお姉さんはドアを開けると、話かけて来た。
「待ってたのよ、いらっしゃい。君カズくんでしょ、ヒロコさんとこの。。お姉さん綺麗だけど男だし50才だから緊張しなくても良いのよ~安心してリラックス、リラックス~」
その明るい調子や洒落た外見に、とたんに飲み込まれてしまった。
男かよ!50かよ!確かに声が男、しかし反則だろイロイロと、、
でも、まあ、、気持ちは楽になった。。
男なら、余裕だ。行ける!!
「ハサミ。私の名前はお店の名前と同じだから、ハサミって呼んでちょーだい。よろしく!」
店内に入ると、やけに馴れ馴れしく話が始まった。
店の雰囲気は、オフクロが通うなんて場違でショットバーのような夜の雰囲気があり、全身黒のパンツスタイルでロン毛派手顔美女のハサミにピッタリな内装だと思った。
おっそうだ、オレも挨拶しなきゃ!3次元へギアチェンジ。
「桜井です。桜井三日月。今日はヨロシクお願いします」
お姉さんはニッコリして
「三日月くん、とっても素敵なお名前ね、だからカズくんなのね。早速だけど一応券をチェックしてもヨロシクて?」
出た!お姉言葉。って、そうか券なら確か財布に入れて来たな。
お金の入って無い空っぽの、皮で二つ折りの財布から券を取り出して見せる。
「コレで良いですか?って、カットモデル、オレなんかで大丈夫ですか?」
ハサミは券を裏返して、確認しながら答えてくれる。
「カズくんは最高の素材よ!間違いなくすごくハンサムになるわ。まず、この券の後ろの空欄を埋めてくださる?甘いものお好きかしら?お飲み物と、頂き物のバームクーヘンを持って来るわね」
ペンを手渡し、奥へと消えて行ったので辺りを見渡して待機用のソファーに腰掛けてテーブルを借りて書き始める。
名前 桜井 三日月
生年月日 4月9日
年齢 40歳
最後に髪を切ったのは 3年前
普段利用する美容院 なし
職業 営業事務
連絡先 090******
*** ****
*** ******
ハサミがコーヒーとバームクーヘンを持って来てくれた。
コレは日本一柔らかいと評判で、我が町自慢の菊の紋章で宮内庁お献上品の、、
あのバームクーヘン!!オレの大好物!
はい。テンションは突き抜けました。
(早く食べたい)でいっぱいになりつつ書き終えた券を手渡す。
「記入したんですが、こんな感じで良いですか?」
「カズくんありがと、コレで大丈夫よ、ではいくつか質問させてね。髪型のことと、お顔のお髭と眉もサッパリさせちゃっても良い?それと一番大事なのは私はYouTuberなのでお写真と動画を撮っても良いかしら?仕上がりが気に入らなければ誰にもお見せしない事をお約束するわ」
「でもね、アナタきっと見せたくなるほどステキに変身するわよ、素材が良いもの楽しみだわ。」
んー。オレ家から出ないし、どーでも良いや。写真はカットモデルだから覚悟してたけど、動画か、この程度の美容室なら問題無いだろう。バームクーヘン食えるんだし。
「髪型も顔もお任せします、写真も動画も仕上がりが特別変でなければご自由にお使い下さい。」
「はい、若くセクシーに変身いたしますので、お楽しみに」
まずはソファーに座ったままいろんな角度から写真を数枚写して、それからハサミは準備をするからと席を立ったので、やっとバームクーヘンにありつくことが出来たのだが、そのお味とフッカフカ感ったら、、
「うひょ〜」
   極楽だった。
食べ終わった頃にハサミに呼ばれて席に座る。
しばらくボッとしていたが、我に帰り時計を見ると5時だった。
3時間近くうつらうつらしていたようだが、頭は終わったようだ。
「お次はお顔よ〜。椅子を倒すので目を閉じてくださ~い」
また寝ちゃいそう、、。
「本当は美容室では剃刀はNGなんだけど」と言って電動で剃った後に剃刀を滑らせた。
更に顔のマッサージをして眉毛を少し抜かれてからメイクも少しされた。
「さあ、終わりました、コレが本当のアナタの姿ですよ、いかがですか?」
あらら、やっぱり寝ちまったか。。
鏡を覗くと ビックリ!!
えっ?
若いイケメンがいる。。。
誰だよコレは?
それにほんのちょっとセクシーかもしれない。
腫れた顔はどこへ行った?顔色も良いし驚いた、、、マッサージのおかげか?
長年オレを悩ませ続けた、女の子の様な腑抜けた顔も上手く活かしてくれてんなぁ〜
しかし、、、この外見に中身はついていけない。
困った問題が起きた。
新しい顔で、どんなキャラになれば良いんだ??
その前に、いやいやぁ〜。女性にも化けちゃうハサミの技はマジすごいよ、まずはお礼を言わなくては。。
「ハサミさん、イケメンにし過ぎではありませんか?中身との釣り合いが取れなくて戸惑っています。
いや、本当に神業です。ありがとうございました。」
ハサミは、キョトンと話を聞いていたが、大爆笑になった。
「カズくん、変身したわね。黒目がちでアゴが細いから女の子みたいで、今まで嫌だったんでしょ?髪を長めにしたら、ソコが活きるのよ!そんなに綺麗なお顔を、今まで隠していたなんて勿体ない。。。」
「実は、そうなんです。子供の頃から男に見えなくて、ずっとからかわれ続けてて、、、」
「そういえば、、お仕事が事務職なのよね??ここの店の事務を手伝っくれたら、これからも料金無料に出来るわよ?ちょうど誰かを雇おうかと思っていたところなの。」
「それは、是非お手伝いさせて下さい」
なんて美味しい話なんだろう、美容室なんて高額で今のオレに行けるはずなんて無い。無料とは願ったり叶ったり、なんてついてるんだ。
「じゃあ、毎週月曜日の会社帰りに顔出してちょーだい、じゃ今から今日したマッサージと、ヘアメイクも教えてあげる」
変身した自分に胸を弾ませて自転車を漕いでいたが、悲しいことに、このイケメンぶりをわかち合う相手が誰もいない。
ちょうどそこに会社帰りの海里の後ろ姿が見えた。
真っ直ぐに伸ばした黒髪を一つに束ねて、白いブラウスと紺色のスラックスを履いて、肩を怒らせ大股で歩いていて、女の要素がまるで無い。0だ!
アイツでもいっか。
「エリ!」
聞こえて無いのか歩くスピードが上がった、もう一度大きな声で呼んでみる
「エリ、エリ」
立ち止まって振り返る。
そして顔を見るとギョッとして、血相を変えると、もっと足早に逃げる。
なんだアイツ、オレの顔がわからないのか?
「待てよ、カズだよ隣んチの同級生のカズだ」
エリはピタッと足を止めて振り返りオレの顔をマジマジと見る。
やっぱり変わり過ぎたかな?
「脅かして悪かったな、今、美容室に行ったばかりでだいぶん顔が変わったから。いや、オレ、お前を怖がらせる顔なんてしてるか?」
逆にイケてるだろ?
エリは動かないので、気になったが話を続ける
「焼き芋ありがとな、お前んとこからもらった。って、オフクロが喜んで食ってたぞ」
あれ?オレなんかいつもよりスラスラ言葉が出て来る、外見が変わると余裕出るな。エリの前だと優位になった気がする。
「カズ別人見たい」
迷惑そうな顔を見せ、それだけ言うと、とっとと行ってしまった。
出た!!
性格ブス変わらねーな。
やっぱムカつくヤツだ!
陰気がオレにも伝染したじゃねーか。
目覚めて喉が渇いたのでキッチンへ行くと、母親に呼び止められた。
「カズ、髪伸び過ぎじゃない?駅前で無料券もらったから切って来なさい」
え?無料で散髪?ますます神の言葉に信憑性が出ては来ないか?
昨日ほど神メールが当たったことへの衝撃が無いのは、考え倒して一回りし、もう投げやりだからだ。
「母さん、券見せて」
’HASAMI’って、あの店か。。ちょっとオサレで敷居高いんだよな、無料券、男性カットモデル、ってモデルにされるのかよ!
『今回は変身がテーマです』まるでオレ用企画みたいだな、、、輪ゴムで縛るほど伸びてるぜ。。コレを切ってヒゲ剃るだけでも変身大成功だよ!
「予約しておくから時間が決まったら知らせるわね、いつでも出れるように準備だけはしておいて!無料なんだから無駄にしたら晩ご飯抜きよ!」
ガキじゃねーんだから、晩ご飯抜きだけは勘弁!
オフクロの作る美味しい晩ご飯だけが、今のオレの楽しみなんだよ!
髪くらい切ってやるさ!!
これが日本のピンチを救うヒーローか?オレがヒーローなら犬屋敷『実写版では木梨憲武主演のアニメ』だな、トホホだよ
しばらくすると、母親が予約を取れたと呼びに来る。
「月曜日は定休日だから何時でも構わない。って言われたから『すぐ行きます』って答えちゃったけど出られる?」
もう答えちゃったんだろ?
「おおっ!」
了解の返事をして、キツくなってしまったジーンズと格闘し、なんとか持ち上げるがボタンは閉まらない
開けてベルトだ、ベルト!急げ~
そういやぁ飯食ってねーから腹減ったな、髪切る間くらい我慢出来るか、しょーがねー待たせちゃ悪いから行くべ。
バタバタと、準備していると時間に追われていた懐かしい日々が蘇りテンションが上がって来た。
出る前にチラッと玄関にある鏡を覗くと、ワサワサな髪の中に可愛らしい目元と、腫れぼったい顔が写る。
不摂生のせいで酷い顔してるな、コレが今のオレの顔か凹むゼ。
駅前までは自転車で向かうことにする。
風が気持ちよくて、鼻歌が出そうなほど久々に気分が良い、普段は引きこもってばかりで出かけると言っても深夜に近くのコンビニに歩いていく程度なので明るい時間帯に出掛ける事が新鮮だった。
風を頬に感じながら、ふと考える。。
他人と話すなんて、どのくらいぶりだ?3年前にオフクロのお使いでパン工場にパンを買いに行った時が最後だな、あの時パン屋のおばちゃんが『あら?今日はお仕事お休み?』って聞いて来たのが最後で、返事も出来ずに逃げ帰って来た、ガラスのハートだった時期だ。
思い出したくねー。
いつまでも引きこもっていても仕方がない。
3年も経ったのか〜最近特に自宅での生活にもクサクサしていてるんだよな、、、今日は良い気分転換だ。
美容室に到着すると、洒落た文字でCLOSEの看板が出ている。
中を覗いてみると長身の女性が見えてよくみると美人だ。
綺麗なお姉さんがいるぞ、無理無理無理。
お話スキルなんて無いのに、切ってもらうなんてプレッシャーはんぱない、とりあえず尻尾を巻いて逃げるとするか、、、
一瞬で気持ちが引きこもりに逆戻りして、引き返しかけるが、入り口でウロウロし帰ろうとしている様子に気がついた綺麗なお姉さんはドアを開けると、話かけて来た。
「待ってたのよ、いらっしゃい。君カズくんでしょ、ヒロコさんとこの。。お姉さん綺麗だけど男だし50才だから緊張しなくても良いのよ~安心してリラックス、リラックス~」
その明るい調子や洒落た外見に、とたんに飲み込まれてしまった。
男かよ!50かよ!確かに声が男、しかし反則だろイロイロと、、
でも、まあ、、気持ちは楽になった。。
男なら、余裕だ。行ける!!
「ハサミ。私の名前はお店の名前と同じだから、ハサミって呼んでちょーだい。よろしく!」
店内に入ると、やけに馴れ馴れしく話が始まった。
店の雰囲気は、オフクロが通うなんて場違でショットバーのような夜の雰囲気があり、全身黒のパンツスタイルでロン毛派手顔美女のハサミにピッタリな内装だと思った。
おっそうだ、オレも挨拶しなきゃ!3次元へギアチェンジ。
「桜井です。桜井三日月。今日はヨロシクお願いします」
お姉さんはニッコリして
「三日月くん、とっても素敵なお名前ね、だからカズくんなのね。早速だけど一応券をチェックしてもヨロシクて?」
出た!お姉言葉。って、そうか券なら確か財布に入れて来たな。
お金の入って無い空っぽの、皮で二つ折りの財布から券を取り出して見せる。
「コレで良いですか?って、カットモデル、オレなんかで大丈夫ですか?」
ハサミは券を裏返して、確認しながら答えてくれる。
「カズくんは最高の素材よ!間違いなくすごくハンサムになるわ。まず、この券の後ろの空欄を埋めてくださる?甘いものお好きかしら?お飲み物と、頂き物のバームクーヘンを持って来るわね」
ペンを手渡し、奥へと消えて行ったので辺りを見渡して待機用のソファーに腰掛けてテーブルを借りて書き始める。
名前 桜井 三日月
生年月日 4月9日
年齢 40歳
最後に髪を切ったのは 3年前
普段利用する美容院 なし
職業 営業事務
連絡先 090******
*** ****
*** ******
ハサミがコーヒーとバームクーヘンを持って来てくれた。
コレは日本一柔らかいと評判で、我が町自慢の菊の紋章で宮内庁お献上品の、、
あのバームクーヘン!!オレの大好物!
はい。テンションは突き抜けました。
(早く食べたい)でいっぱいになりつつ書き終えた券を手渡す。
「記入したんですが、こんな感じで良いですか?」
「カズくんありがと、コレで大丈夫よ、ではいくつか質問させてね。髪型のことと、お顔のお髭と眉もサッパリさせちゃっても良い?それと一番大事なのは私はYouTuberなのでお写真と動画を撮っても良いかしら?仕上がりが気に入らなければ誰にもお見せしない事をお約束するわ」
「でもね、アナタきっと見せたくなるほどステキに変身するわよ、素材が良いもの楽しみだわ。」
んー。オレ家から出ないし、どーでも良いや。写真はカットモデルだから覚悟してたけど、動画か、この程度の美容室なら問題無いだろう。バームクーヘン食えるんだし。
「髪型も顔もお任せします、写真も動画も仕上がりが特別変でなければご自由にお使い下さい。」
「はい、若くセクシーに変身いたしますので、お楽しみに」
まずはソファーに座ったままいろんな角度から写真を数枚写して、それからハサミは準備をするからと席を立ったので、やっとバームクーヘンにありつくことが出来たのだが、そのお味とフッカフカ感ったら、、
「うひょ〜」
   極楽だった。
食べ終わった頃にハサミに呼ばれて席に座る。
しばらくボッとしていたが、我に帰り時計を見ると5時だった。
3時間近くうつらうつらしていたようだが、頭は終わったようだ。
「お次はお顔よ〜。椅子を倒すので目を閉じてくださ~い」
また寝ちゃいそう、、。
「本当は美容室では剃刀はNGなんだけど」と言って電動で剃った後に剃刀を滑らせた。
更に顔のマッサージをして眉毛を少し抜かれてからメイクも少しされた。
「さあ、終わりました、コレが本当のアナタの姿ですよ、いかがですか?」
あらら、やっぱり寝ちまったか。。
鏡を覗くと ビックリ!!
えっ?
若いイケメンがいる。。。
誰だよコレは?
それにほんのちょっとセクシーかもしれない。
腫れた顔はどこへ行った?顔色も良いし驚いた、、、マッサージのおかげか?
長年オレを悩ませ続けた、女の子の様な腑抜けた顔も上手く活かしてくれてんなぁ〜
しかし、、、この外見に中身はついていけない。
困った問題が起きた。
新しい顔で、どんなキャラになれば良いんだ??
その前に、いやいやぁ〜。女性にも化けちゃうハサミの技はマジすごいよ、まずはお礼を言わなくては。。
「ハサミさん、イケメンにし過ぎではありませんか?中身との釣り合いが取れなくて戸惑っています。
いや、本当に神業です。ありがとうございました。」
ハサミは、キョトンと話を聞いていたが、大爆笑になった。
「カズくん、変身したわね。黒目がちでアゴが細いから女の子みたいで、今まで嫌だったんでしょ?髪を長めにしたら、ソコが活きるのよ!そんなに綺麗なお顔を、今まで隠していたなんて勿体ない。。。」
「実は、そうなんです。子供の頃から男に見えなくて、ずっとからかわれ続けてて、、、」
「そういえば、、お仕事が事務職なのよね??ここの店の事務を手伝っくれたら、これからも料金無料に出来るわよ?ちょうど誰かを雇おうかと思っていたところなの。」
「それは、是非お手伝いさせて下さい」
なんて美味しい話なんだろう、美容室なんて高額で今のオレに行けるはずなんて無い。無料とは願ったり叶ったり、なんてついてるんだ。
「じゃあ、毎週月曜日の会社帰りに顔出してちょーだい、じゃ今から今日したマッサージと、ヘアメイクも教えてあげる」
変身した自分に胸を弾ませて自転車を漕いでいたが、悲しいことに、このイケメンぶりをわかち合う相手が誰もいない。
ちょうどそこに会社帰りの海里の後ろ姿が見えた。
真っ直ぐに伸ばした黒髪を一つに束ねて、白いブラウスと紺色のスラックスを履いて、肩を怒らせ大股で歩いていて、女の要素がまるで無い。0だ!
アイツでもいっか。
「エリ!」
聞こえて無いのか歩くスピードが上がった、もう一度大きな声で呼んでみる
「エリ、エリ」
立ち止まって振り返る。
そして顔を見るとギョッとして、血相を変えると、もっと足早に逃げる。
なんだアイツ、オレの顔がわからないのか?
「待てよ、カズだよ隣んチの同級生のカズだ」
エリはピタッと足を止めて振り返りオレの顔をマジマジと見る。
やっぱり変わり過ぎたかな?
「脅かして悪かったな、今、美容室に行ったばかりでだいぶん顔が変わったから。いや、オレ、お前を怖がらせる顔なんてしてるか?」
逆にイケてるだろ?
エリは動かないので、気になったが話を続ける
「焼き芋ありがとな、お前んとこからもらった。って、オフクロが喜んで食ってたぞ」
あれ?オレなんかいつもよりスラスラ言葉が出て来る、外見が変わると余裕出るな。エリの前だと優位になった気がする。
「カズ別人見たい」
迷惑そうな顔を見せ、それだけ言うと、とっとと行ってしまった。
出た!!
性格ブス変わらねーな。
やっぱムカつくヤツだ!
陰気がオレにも伝染したじゃねーか。
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