捕まった子犬、バーテンダーに愛される?【完結】
カクテル4/子犬を拾います
琢磨さんからのラインは今日1日に大きなダメージを与えた。
仕事のミスだけは絶対しないように注意して、なんとか今日だけを乗り切ることを考えてやりきった。
今日が金曜日でよかった。
少しの間でも琢磨さんと顔を合わせるのは避けたかった。
もう心はボロボロにされて、これ以上傷ついたら死んじゃうよって悲鳴をあげてたもん。
今後のこと、落ち着いて考えないと。
三浦さんに相談してみようかな…。
顔をあげたら、会社の前に止めたベンツの前に立って私を待っている三浦さんと目線があった。
その姿がまるで雑誌から飛び出したモデルみたいにカッコ良くて、私以外の女性社員も見惚れて声をかけたがっているのにも気づいた。
なのに、三浦さんはそんな視線に気づいたそぶりもなく、私に笑いかけるの。
自分が三浦さんの特別なんじゃないかって錯覚するぐらい、甘やかされていると思う。
顔見た瞬間ほっとして、涙がまた出そうになるのを誤魔化すように三浦さんのところに走っていき、「お迎え、ありがとうございます」と俯いた顔で言うと…。
――――グイッ
頭に腕が回り、三浦さんの固い胸板に抱きしめられていた。
「……なんかあった?」
「ちょっと、だけ。あったかな」
「言えよ。助けてやるから」
「……うん、もう少し落ち着いたら聞いてもらおうかな」
今は、泣くのを堪えるので精一杯で話せない。
三浦さんの腕の中が優しすぎる。
すぐに変化に気づいてくれる三浦さんの優しさで涙腺壊れちゃうかもしれない。
助手席の扉を開けて私を座らせると、過保護な三浦さんはシートベルトまでつけてくれて、運転席に回るとゆっくりと車を走らせた。
「三浦さんはこのまま出勤ですか?」
窓の外を流れる景色を眺めながら話しかけると「そうだよ」と返事が返ってきた。
”私も一緒に行ってもいい?”
「真穂も一緒に行こう。オーナー心配してたし、家に1人で置いておくの心配だし」
私が聞きたかった言葉を口にする前に、三浦さんが欲しかった言葉をくれた。
「三浦さん、わたしのせいで今日遅刻?」
「オーナーと話はついてるから大丈夫だよ」
「金曜日なのに、こんなに三浦さん独占してたら怒られちゃうね」
「……いいじゃん、もっと独占してよ」
意地悪く笑う三浦さんを素直にカッコイイと思った。
琢磨さんの方が年上で、大人の余裕と優しさに惹かれたのに、今はそれが偽物になるぐらい傷ついて、好きだったことを後悔してる。
大好きな人だったから、終わるにしてもこんな終わり方はしたくなかったよ。
RedMoonの近くのパーキングに車を止めて一緒にお店まで歩く。
「出勤してすぐは真穂のところに行けないと思うけど、落ち着いたら必ず話し聞きにいくから」
「……うん、ありがと。こんなに有能な三浦さんを独占してたら、他のお客様に怒られちゃうね」
「いいじゃん、もっと独占してよ」
そうやって優しく笑うから、勘違いする女性が出てくるんですよ。
私だって、錯覚しちゃうんだからね。
お店の地下階段に続く手前で三浦さんと一旦別れ、私は階段を下りてRedMoonの扉を開く。
今日は金曜日でいつもよりお客様が多くなる日。
忙しいだろうと思って自分で席を探すつもりでいたら、すぐにオーナーが声をかけてくれて、人目を気にせず長くいれるカウンター席の奥に通してくれた。
「真穂ちゃん、昨日大丈夫だった?」
「え、あ…はい…」
心配してくれたオーナーに返事の言葉が濁ってしまったのは、聞かれているのが『琢磨さんのこと』なのか、『三浦さんのこと』なのか戸惑ってしまったから。
「昨日、あんな飲み方して迷惑かけてしまい、すみませんでした」
頭を下げて謝罪するがオーナーにすぐに止められ、顔を上げることになる。
「大丈夫だよ。ここは真穂ちゃんの逃げ場所だから、どんな飲み方したって泣いたって怒ったっていいんだよ」
「…ッ、ありがとうございます」
RedMoonのスタッフは優しい人ばかりだ。
オーナーが作ってくれたカクテルは甘酸っぱいべりーの味がした。
そのまま私の接客についてくれるみたいで、オーナーたちのいる方に置いてある目線を合わせやすくするイスに腰掛け足を組み、薄暗い照明の中わたしと向き合った。
「今日、会社行ってみてどうだった?浮気したクズって同じ会社の先輩だよね」
「……最悪でした。すごく帰りたかったです」
「あほ。無理して笑うな。……これからどうするか、話はできてる?」
「ラインは合ったんですけど、一方的すぎて話しあうのは難しいかなと思ってます」
そう私が現状を伝えた瞬間、オーナーの空気が一気に冷たくなった気がした。
あの温厚で優しいオーナーがすっごく怒ってらっしゃる気がするのは気のせいですよね…!?
「真穂ちゃん、そのライン見てもいい?」
笑っているはずのオーナーの眉間には大きな皺が出来ていて、これは完全に怒ってる。
私は素直に琢磨とのライントークを開いてオーナーにスマホを渡すとミシッと恐ろしい音が聞こえてぎょっとオーナーを見ると、目線はもう他の人を探していた。
すぐにお目当ての人物を見つけれたみたいで、接客中の三浦さんを邪魔しないように合図を送って、私にスマホを返してくれた。
とりあえず、スマホは壊れることなく無事に帰って来た。
よかった…。
オーナーの作るカクテルを楽しみながら過ごしていると、落ち着いたらしい三浦さんが私たちのところに来てくれた。
「真穂なにしたの?」
「え?」
「あんな鬼の形相したオーナーなんて繭が絡まれたとき以来じゃないかな」
なんて普通に言ってきたけど、突っ込みたいところいくつかあったよ?
「オーナーと繭ちゃんってそういう関係なの?」
「え、真穂知らなかった?」
オーナーが「お前このタイミングで言うかな―」と呆れているが、三浦さんは悪びれることなく私の追加のお酒を作っている。
繭ちゃんは私のいとこでここに出会わせてくれた人で、三浦さんの同級生、それと、オーナーの彼女らしい。
オーナーは若く見えるけど多分30代後半で繭ちゃんは28歳だから、年の差カップルだ。
落ち着いてる大人の2人の恋人らしいところを想像したら、思わず赤面した。
「うわ、真穂エッチな想像しただろ」
「もう!そこはスル―してよバカ!」
こういうところが三浦さんには足りない大人の余裕だよ!と文句を言っていると、私の耳元に顔を近づけて「俺らだってエッチなことしてるのに」ってささやいた。
ぽかーんとした顔で顔を離す三浦さんを見つめると、意地が悪いドSな顔で笑ってた。
「和希って結構子どもっぽいところ残ってるよな」
「どう意味っすか」
俺わかんないっす。みたいな顔して答えてるけど、絶対分かってんだろうがと怒ってるオーナーを見る辺りわざとやってるみたい。
「そんなことより、俺が怒ってたのは真穂ちゃんでも和希でもなく、これ、こいつ」
オーナーがそうやって指をさしたのは、カウンターに置かれた私のスマホ。
もちろん今は画面は真っ黒で何も映っていないので、私はさっき見せた琢磨とのトークラインをもう一度開いて三浦さんに渡した。
スマホを受け取り画面を見た三浦さんの手の中でもスマホがミシっと怖い音を上げたのでびびった。
「何こいつ、マジでふざけてんですけど」
「……和希、お前明日休んでいいよ」
「え」
驚き過ぎて声を上げたのは三浦さんじゃなくて私だった。
明日は土曜日で簡単に休めるような日じゃないのに、オーナーは意思を変えるつもりはないみたいで、決定事項のまま話を進める。
「真穂ちゃんの荷物運ぶの手伝ってやって。こんな奴、早急に切るのが一番いい。真穂ちゃんもいいよね?」
「え、あ……でも、行くところまだ決まってなくて」
「俺のところに来ればいいじゃん」
何の躊躇いもなく三浦さんは言ってしまうんだ。
驚いて固まる私に、三浦さんはトドメを指すようにもう一度言った。
「真穂、俺のとこにおいで」
仕事のミスだけは絶対しないように注意して、なんとか今日だけを乗り切ることを考えてやりきった。
今日が金曜日でよかった。
少しの間でも琢磨さんと顔を合わせるのは避けたかった。
もう心はボロボロにされて、これ以上傷ついたら死んじゃうよって悲鳴をあげてたもん。
今後のこと、落ち着いて考えないと。
三浦さんに相談してみようかな…。
顔をあげたら、会社の前に止めたベンツの前に立って私を待っている三浦さんと目線があった。
その姿がまるで雑誌から飛び出したモデルみたいにカッコ良くて、私以外の女性社員も見惚れて声をかけたがっているのにも気づいた。
なのに、三浦さんはそんな視線に気づいたそぶりもなく、私に笑いかけるの。
自分が三浦さんの特別なんじゃないかって錯覚するぐらい、甘やかされていると思う。
顔見た瞬間ほっとして、涙がまた出そうになるのを誤魔化すように三浦さんのところに走っていき、「お迎え、ありがとうございます」と俯いた顔で言うと…。
――――グイッ
頭に腕が回り、三浦さんの固い胸板に抱きしめられていた。
「……なんかあった?」
「ちょっと、だけ。あったかな」
「言えよ。助けてやるから」
「……うん、もう少し落ち着いたら聞いてもらおうかな」
今は、泣くのを堪えるので精一杯で話せない。
三浦さんの腕の中が優しすぎる。
すぐに変化に気づいてくれる三浦さんの優しさで涙腺壊れちゃうかもしれない。
助手席の扉を開けて私を座らせると、過保護な三浦さんはシートベルトまでつけてくれて、運転席に回るとゆっくりと車を走らせた。
「三浦さんはこのまま出勤ですか?」
窓の外を流れる景色を眺めながら話しかけると「そうだよ」と返事が返ってきた。
”私も一緒に行ってもいい?”
「真穂も一緒に行こう。オーナー心配してたし、家に1人で置いておくの心配だし」
私が聞きたかった言葉を口にする前に、三浦さんが欲しかった言葉をくれた。
「三浦さん、わたしのせいで今日遅刻?」
「オーナーと話はついてるから大丈夫だよ」
「金曜日なのに、こんなに三浦さん独占してたら怒られちゃうね」
「……いいじゃん、もっと独占してよ」
意地悪く笑う三浦さんを素直にカッコイイと思った。
琢磨さんの方が年上で、大人の余裕と優しさに惹かれたのに、今はそれが偽物になるぐらい傷ついて、好きだったことを後悔してる。
大好きな人だったから、終わるにしてもこんな終わり方はしたくなかったよ。
RedMoonの近くのパーキングに車を止めて一緒にお店まで歩く。
「出勤してすぐは真穂のところに行けないと思うけど、落ち着いたら必ず話し聞きにいくから」
「……うん、ありがと。こんなに有能な三浦さんを独占してたら、他のお客様に怒られちゃうね」
「いいじゃん、もっと独占してよ」
そうやって優しく笑うから、勘違いする女性が出てくるんですよ。
私だって、錯覚しちゃうんだからね。
お店の地下階段に続く手前で三浦さんと一旦別れ、私は階段を下りてRedMoonの扉を開く。
今日は金曜日でいつもよりお客様が多くなる日。
忙しいだろうと思って自分で席を探すつもりでいたら、すぐにオーナーが声をかけてくれて、人目を気にせず長くいれるカウンター席の奥に通してくれた。
「真穂ちゃん、昨日大丈夫だった?」
「え、あ…はい…」
心配してくれたオーナーに返事の言葉が濁ってしまったのは、聞かれているのが『琢磨さんのこと』なのか、『三浦さんのこと』なのか戸惑ってしまったから。
「昨日、あんな飲み方して迷惑かけてしまい、すみませんでした」
頭を下げて謝罪するがオーナーにすぐに止められ、顔を上げることになる。
「大丈夫だよ。ここは真穂ちゃんの逃げ場所だから、どんな飲み方したって泣いたって怒ったっていいんだよ」
「…ッ、ありがとうございます」
RedMoonのスタッフは優しい人ばかりだ。
オーナーが作ってくれたカクテルは甘酸っぱいべりーの味がした。
そのまま私の接客についてくれるみたいで、オーナーたちのいる方に置いてある目線を合わせやすくするイスに腰掛け足を組み、薄暗い照明の中わたしと向き合った。
「今日、会社行ってみてどうだった?浮気したクズって同じ会社の先輩だよね」
「……最悪でした。すごく帰りたかったです」
「あほ。無理して笑うな。……これからどうするか、話はできてる?」
「ラインは合ったんですけど、一方的すぎて話しあうのは難しいかなと思ってます」
そう私が現状を伝えた瞬間、オーナーの空気が一気に冷たくなった気がした。
あの温厚で優しいオーナーがすっごく怒ってらっしゃる気がするのは気のせいですよね…!?
「真穂ちゃん、そのライン見てもいい?」
笑っているはずのオーナーの眉間には大きな皺が出来ていて、これは完全に怒ってる。
私は素直に琢磨とのライントークを開いてオーナーにスマホを渡すとミシッと恐ろしい音が聞こえてぎょっとオーナーを見ると、目線はもう他の人を探していた。
すぐにお目当ての人物を見つけれたみたいで、接客中の三浦さんを邪魔しないように合図を送って、私にスマホを返してくれた。
とりあえず、スマホは壊れることなく無事に帰って来た。
よかった…。
オーナーの作るカクテルを楽しみながら過ごしていると、落ち着いたらしい三浦さんが私たちのところに来てくれた。
「真穂なにしたの?」
「え?」
「あんな鬼の形相したオーナーなんて繭が絡まれたとき以来じゃないかな」
なんて普通に言ってきたけど、突っ込みたいところいくつかあったよ?
「オーナーと繭ちゃんってそういう関係なの?」
「え、真穂知らなかった?」
オーナーが「お前このタイミングで言うかな―」と呆れているが、三浦さんは悪びれることなく私の追加のお酒を作っている。
繭ちゃんは私のいとこでここに出会わせてくれた人で、三浦さんの同級生、それと、オーナーの彼女らしい。
オーナーは若く見えるけど多分30代後半で繭ちゃんは28歳だから、年の差カップルだ。
落ち着いてる大人の2人の恋人らしいところを想像したら、思わず赤面した。
「うわ、真穂エッチな想像しただろ」
「もう!そこはスル―してよバカ!」
こういうところが三浦さんには足りない大人の余裕だよ!と文句を言っていると、私の耳元に顔を近づけて「俺らだってエッチなことしてるのに」ってささやいた。
ぽかーんとした顔で顔を離す三浦さんを見つめると、意地が悪いドSな顔で笑ってた。
「和希って結構子どもっぽいところ残ってるよな」
「どう意味っすか」
俺わかんないっす。みたいな顔して答えてるけど、絶対分かってんだろうがと怒ってるオーナーを見る辺りわざとやってるみたい。
「そんなことより、俺が怒ってたのは真穂ちゃんでも和希でもなく、これ、こいつ」
オーナーがそうやって指をさしたのは、カウンターに置かれた私のスマホ。
もちろん今は画面は真っ黒で何も映っていないので、私はさっき見せた琢磨とのトークラインをもう一度開いて三浦さんに渡した。
スマホを受け取り画面を見た三浦さんの手の中でもスマホがミシっと怖い音を上げたのでびびった。
「何こいつ、マジでふざけてんですけど」
「……和希、お前明日休んでいいよ」
「え」
驚き過ぎて声を上げたのは三浦さんじゃなくて私だった。
明日は土曜日で簡単に休めるような日じゃないのに、オーナーは意思を変えるつもりはないみたいで、決定事項のまま話を進める。
「真穂ちゃんの荷物運ぶの手伝ってやって。こんな奴、早急に切るのが一番いい。真穂ちゃんもいいよね?」
「え、あ……でも、行くところまだ決まってなくて」
「俺のところに来ればいいじゃん」
何の躊躇いもなく三浦さんは言ってしまうんだ。
驚いて固まる私に、三浦さんはトドメを指すようにもう一度言った。
「真穂、俺のとこにおいで」
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