強くてニューゲームができるらしいから ガキに戻って好き勝手にやり直すことにした 

カイガ

第4話 ⑤



 大学4年生。最後の大学生活となるこの年。
 やり直す前のこの1年間は、それなりに楽しかった一方、面白くない展開もそれなりにあった。
 この頃の俺はいちおう就活はしていた。とりあえずエントリーして面接受ければ最初はどこなと内定くれるだろうと思っていた。
 しかし結果は…どこもダメ。最終面接まで通してわざわざ東京まで来させながら最後はお祈りメールだけ寄越してサヨナラしやがった会社もあった。
 挙句の果てには、面接の帰り途中でクソ中年男にふざけた真似されたからぶん殴って警察に検挙されるというね。
 10社くらいエントリーして全部落選。夏が終わる頃にはもう嫌になって就活なんか辞めてやった。
 何の為に大学に受かったと思ってんだ?時間と交通費を無駄にさせやがって。俺よりクズでどうしようもないゴミ人間なんか腐る程いるのに。そんな奴らより絶対マシな俺を何故採用しない?なんで面接で落とす?まずはとりあえず内定してお試しで使ってみて、ダメだったら働いた分の金だけ出してクビにすりゃ良いだろうが。
 たかが面接だけでこっちの中身を全部知った気になって、すぐ「コイツはダメだ」って決めつけてほいほい不採用にするから就職浪人があぶれ出るんだろうが。
 ほいほい落としといて何が人手不足や?人欲しいならまず採用だけして、後からコイツは残すかどうか決めたらええやん。
 
 そんな将来性をロクに見ようともしないしょうもない大人どもによって、俺は次々と不採用をくらい、とうとう何もかも嫌になり、こんなもの時間と交通費の無駄だと思うようになって、大学卒業と同時に無職予備軍フリーターになるのでした…。
 そんなところだ、俺のしょうもない就活内容は。あの日々ほど中身の無い・意味の無い・無駄しかなかった時間はなかった。日本の社会の浅さに俺は辟易した。こんな世の中で頑張る価値なんてやはり無かったんだと、改めて確信した年だった。

 だから俺はこのやり直し人生では就活は一切しない。そもそも必要無い。
 俺には金がたくさんあるのだから。働かなくていい分だけの資産があるのだから。
 このルートではそんな時間と金をドブに捨てるようなこと、しなくて良いのだ!
 所詮、新卒を採用する会社はどこもしょうもないところなんだから、わざわざ就活する必要は無い。入ったら入ったで、パワハラとか残業の強制とか、そういうクズが沢山いる会社なんだろどうせ。
 やる価値無し無し新卒の就活なんて。アホらしい。人生焦り倒して新卒就活なんて愚行する必要無いわ。

 散々就活についてディスってきたが、結局は俺は俺を不採用にした社会の理不尽さが許せなかっただけなんだ。
 けどもう大丈夫。社会なんて見る必要は無い。世の中金さえあればそれなりの生活は絶対約束されるんだから。
 金があるなら働く必要無し。日本の労働なんて嫌なことしかねーだろどうせ。2020年代もこの時代と変わらず、新卒が一斉に辞める現象なんか当たり前。パワハラ問題、鬱・自殺、上の人間の汚い下衆な振る舞い。そういうことを問題として取り上げても一向に解決はしなかった。
 そんな日本の社会で働くことはアホらしい。俺はイヤだね。昔も今も、社会には反吐が出るほどに嫌悪を抱いている。
 
 というわけで、この年は就活は一切しなかった。大学で部活やったり、独自のトレーニングを積んだり、ゲームをやり込んだり、風俗通ったり、全国を巡って宝くじを買い漁ったりと…やりたいことだけとことんやりまくってやった。
 これで良い。人生なんかいつ終わるか分からない。なるべくやりたいことだけやれば良い。
 たとえ短い人生でもやりたいことを多くやれたものが結局は勝ち組になる。80年生きたとして、その時間の大半がしたくもないことばかりとか、俺はそんなのは嫌だね。長生きすることが何でも良い事だとは俺は思わない。
 やりたいことをやった時間と、したくもないことをした(させられた)時間。前者をより多く過ごした人生にこそ価値があるものだ。
 俺はこれで良いのだ。やり直しの人生、好きなようにやって死ねば良い。俺はそれで良い。
 やって後悔するくらいならやらずに後悔の方が傷は浅い、だ。無為に無理に踏み込んで傷つくくらいなら、初めから何もアクションしない方がマシだ。
 就活で弾かれて蹴られた俺は、そう結論づけるのでした…と。

 やり直し前と変わらず…否、あの時以上に好き勝手に学生生活を過ごす中、陸上競技だけには真剣に向き合い、打ち込んだ。
 才能とセンスが無い俺がここまでずっと練習してきたのは、記録がグングン伸びて成り上がってきた理由に他ならない。陸上競技は個人種目ばかりのスポーツ故に、どのスポーツ以上に結果の良さが求められる。とてもシビアな世界だ。
 そんな世界だから俺は早々にガチ勢…プロとしての道を挫折してしまった。
 けど今はガチ勢として、プロとしてまだ続けている。これは楽しいし、負けたくもないと思い始めているし。こればかりは真剣にやらせてもらう!

 春季に行われるインカレ試合は全て優勝。今年で最後となるインカレだからと、今年だけ100mにも出場した。
 大学の部員たちとは後半からほとんど一緒に練習することはなくなったが、二つの種目に出る俺に誰も文句は言わなかった。誰もが俺の100mを楽しみにしているとのこと。
 そのご期待に添えて、6月の西日本インカレでは10秒00と、当時の日本タイ記録を出してみせた。
 本来だったら関西および西日本でのチャンピオンは、この年でめざましい成長を遂げて
追い風参考記録ながらも9秒台をマークした関学3年生…大田祥平になるはずだった。
 悪いけど、このルートではチャンピオンは俺にならせてもらうから。
 
 6月末、5度目の日本選手権大会に出る。
 怪我を乗り越えて進化を遂げたサニブライアンが100mと200mともに優勝した大会だ。
 俺は100mには相変わらず出ないので優勝はくれてやった。
 その代わりに200mはきっちり俺が優勝をいただきました。
 20秒10を出して優勝。サニブライアンも同秒の32とそれはそれは凄い記録を出して2位。世界陸上の残りひと枠を取ったのは、飯井塚だった。世界陸上の200m出場選手は、俺を除けば正規通りのメンバーとなった。

 時が進んで8月上旬。俺にとって2度目となる世界陸上が開催される。場所はロンドン。夜は薄着だと割と冷える気候だ。
 寂しいことに、ユサイン・ボルトはやり直し前のルートと同じ通り、200mには出場しなかった。100mに懸けにきていると見ていいのだろう。
 残念なことに100mの結果は、彼にとっては望ましい結果にはならなかった。
 金メダルを獲ったのはアメリカのジャスミン・ガトリングだ。ボルトのあの走りが最後だと思うとやっぱり寂しい気持ちになるな。長居で初めて彼を見てから10年、今も俺の中では、ボルトは目標の選手だ…!

 ボルトの100mを観たことでテンションが上がり、試合へのモチベーションを高めていく。さらにはお気に入りの格闘試合を観て闘争心もガンガン上げていく。
 今回ばかりは狙っている……金メダルを。
 今大会はボルトをはじめとするメダリスト候補の選手が例年と比べて少ないのだ。
 そしてこの種目の結果も全部知っている。金メダルのタイムがどれくらいだったのか。その記録は俺の自己ベストよりも下だ。
 たから今回は狙える。メダルを、それも金を…!
 今回は明日を捨ててでも優勝する。そのつもりだ。
 全員が敵。同じ日本人の飯井塚とサニブライアンもだ…!

 100m決勝から2日後、予選が始まる。
 結果は組1着(20秒11)で通過。
 翌々日の準決勝…1組で1着ゴール(20秒05)。飯井塚も同じ組にいたが、大差をつけて勝利。世界陸上で初の決勝進出を決めた。
 同時にサニブライアンも決勝を決めた。彼は天才だ。史上最年少での世界陸上決勝へ進出を決める。ボルトの成績を超えたのだ。2020年代にはさらに化け物になってそうだな。まぁ今回は俺が勝つけど。

 翌日、決勝。俺は5レーンを走る。外コースにはこの種目で金メダルを獲った男…トルコのグスタフ選手がいる。他にも400mの覇者…南アフリカのヴァンニーキラル、ボツワナのマグメルも要注意人物だ。
 まぁ注意といっても、自分の走りにのみ集中すれば良いだけのこと。よそなんか知るか。
 選手紹介の最中でアドレナリンを全開分泌、体温を上昇させる。力が溢れる。闘争本能が剥き出しになる…!
 スタートの合図がかかり位置に着く。号砲に合わせてブロックを吹っ飛ばすつもりで蹴って低く飛び出す。全力でカーブを走る。普通なら速くても9.5割ほどまでで走るところを、俺は後先考えずにMAXで駆けた。
 カーブ終わりでトップに立ち、直線に入った直後、カーブの遠心力で猛加速。
 そこからはもう体を自由にさせて走る。余計な力は入れない。今のスピードのままで行く。脚が裂けそうになるが無視する。鼻血が出て鉄の味がするが気にしない。
 体がバラバラになりそうなのを耐えて、耐えて駆け抜ける!
 そして急減速する手前でゴールを切って派手に転んだ。しばらく動けなかった。倒れたままアナウンスの声を聞いてどうにか電光掲示板に目を向ける……

 「ナンバーワン:NNS。ジャパン。5レーン。

 タイム:19秒99!!」

 勝ち申しました。狙い通りの結果。ここで自己ベストを更新して優勝。全てシナリオ通りだ!

 「このチート能力は、こんな俺を金メダルへ導いてくれるくらいスゲェものだな…。
 ありがとう。こんな素敵な人生を送らせてくれて…」

 負い目が全く無いわけではない。俺だけ強い状態からスタートして常に、上乗せ強化を図ってきた。本来なら終わっていたところを無理矢理に変えて、全て自分の理想に塗り替えていく。
 スポーツにおいてこれ以上のない不正行為と言えるだろう。
 だが許せ。あの時やり直しを選ばなかったら俺はあのまま死んでいただろう。仕方ないことだったのだ。

 仕方なく………好き勝手に人生を修正することにしたんだぁ!!!
 たまたま貰った特典だ。それをどう使うかは俺の勝手だ。元々しょうもない人生だったんだ。少しくらい(?)色を付けたって良いじゃねーか。
 俺は止めるつもりはない。このチートを利用した生活を。
 俺さえ良ければ、それで良いのだから…!

 世界陸上が終わり(リレーには出ていない。アドレナリン強制分泌の反動を理由に出場を辞退した)、9月上旬に最後の全国インカレに出場。
 福井県にて3日間開催される。この大会で俺は3連覇している。無論この試合も手や気を抜くこと無く、全てを出し切って挑む。
 どれだけ成り上がろうが、俺は本来は雑魚ランナーだ。ここに出ている選手全員より元は弱い。だから彼らには敬意を払う。敬意を払って…持てる力全て絞り出してぶっ潰させてもらう!

 2日目に100mに出場。
 追い風がかなりあって、どの組も凄い記録がバンバン出た。予選なのに10秒10台がいっぱい出るという地獄レベルだったな…。まぁ俺は10秒09が出たが。
 準決勝も難無く通過。決勝…柳生と大田、他にも日本選手権に出た経験がある選手達が揃う中で走る。

 結果は…俺は9秒99。2位だ。
 優勝は柳生秀吉で、9秒98。うーん僅かに及ばず。力入り過ぎてたか。まぁ良いや、100だし。柳生におめでとうと称えてそそくさと去って行った。

 翌日…本命の200m。俺の場合、昨日よりも今日方が盛り上がっていた。とりあえず期待に応えて、予選から全開で走った。
 20秒10、20秒09と…観客を盛大に沸かせてやりながら決勝へ進出。
 慶應義塾大の大池祐太(来年にはアジアチャンピオンになってる)に、筑波大の山田俊《やまだしゅん》(次の世界陸上に内定される選手だ)と、有望選手もいる中でのレース。いい感じの緊張の中、俺は持てる全ての力を発揮した。

 「NNS君、同志社大学。
 記録……19秒96!日本新記録、日本学生新記録、大会新記録です!」

 すまないな大池。お前はこのルートでは大学チャンピオンにはなれない。けどお前は諦めなければ来年からは必ず見せ場が来る。俺はお前を応援している。同期だからな。

 4年間の大学陸上のシーズンが終わり、部活も事実上の引退。その間に俺のところに、いくつもの会社から契約の話が舞い込んできた。

 当然……全て断ってやった。

 馬鹿が。誰がテメーらの都合の良い広告選手になってやるかよ。もし俺がこの先で怪我やスランプに陥ってロクに活躍出来なかったら、冷たく切り捨てるんだろ?
 そうやってお前らはいつも有能な奴しか採用しない思考をしている。まぁそれがお前らの言う社会ってもんだから仕方ねーけど?
 俺は社会なんかに貢献してやらねー。お前らと契約しなくても俺はのうのうと生きていける。自由に競技もできる。
 めんどくさい仕事なんかしたくねーし、クソ煩わしい人間関係にも巻き込まれたくない。俺は社会人にならなくたっていい、てかなりたくねー!

 こうして大学生活は幕を閉じる。
 このやり直しルートでも、俺は卒業と同時に無職となった。

 ただし……全財産が20億円もある無職だけどなぁ!!

 さぁ!!今度は大学卒業後の人生をやり直していくぜぇ!!

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