異世界に喚ばれたので、異世界で住みます。

千絢

59.復帰して一番の会議にて

黒帝の傍仕えに復帰して初めての朝会議で、私は初めてだろうと思われるほどの嫌悪感を前に突っ立っていた。アーロミス商会の一件で上層部のジジイ共を一掃したとはいえ、食えないタヌキ親父共は残っている。








今日は白帝が居ない。宰相が居るものの、その制止力は極めて低く意味がない。薄汚い下劣な笑みと下賎な言葉、そして舐め回す様に私の体を這い回る視線。








私が黒帝に遠慮のない蹴りを与えた――その事実は広まっているにも拘らず、コイツ等は私を恐れない。数日前の様に陰口を叩いていたのに。此処から追い出そうとしていたのに。








「ほう、貴方方は彼女がカラダで取り入ったと思っているのですね」






「でなければ、あの地位に戻れるはずが無かろう?小娘のカラダごときに欲を持つとは、黒帝も男だったというわけだ」






「そうだな。アーロミスの女傑を失っても、欲というものは治まりを知らぬからなあ。若いとは良いものよ」






「小娘とは言えど、カラダの方は出来上がっているようだし。我々もお零れに与れることが出来るかなあ」










黒と白が鈍らと化すとは言えど、私は二振りを手放すことはしなかった。つまり、今も帯刀済みで、いつでも抜刀可能だ。コイツ等の頭と胴を切り離すことは、何よりも簡単でかつ朝飯前だ。








「――ジジイのくせに、その身にはまだそういった汚い欲があるんですね。今までの発言は黒帝への侮辱と見なしますよ」






「へぇ、宰相閣下もそう思わないので?」






「思うわけないでしょう。近衛筆頭と愛し子の肉親。ましてや金目の猫ウェルミスにそのようなものを抱くとでも?不能にされかねない」






「マリベル様、これ以上お話することはなさそうなので私は退出させて頂きますね」






「おや、良いんですか?」






「こんな場所で殺してしまってはツマラナイでしょう?こんな人の血で手を汚したくありませんから」








それからの話は私は知らない。ただ、マリベル様がにこやかに笑っていたのだから、私の判断に間違いはなかったのだろうと思う。白帝が問題発言妃にならないかをしてから、マリベル様が心なしか優しい気がするんだよね。マリベル様は、私が白帝に対して何ら感情を抱いてないのを知っているかのような――見守るとは違うその対応が、少しばかり不思議なものである。妹のアイア様を助けたから、とかそんなものではないと思うんだ。








「どうだった、朝会議は?」






「どうも何も、あんな失礼なことをされるのは初めてです」






「失礼ね、マリベルが居た筈だが」






「えぇ、まあ。牽制してくださったと思いますよ。あんな公衆の面前で、貴方の綺麗な顔を蹴り上げたというのに」








黒帝の執務室に戻れば、黒帝は大人しく溜まっていた書類を捌いていた。日常に、やっと戻って来れた。その現実に、私はほっと息を吐いたのだ。周りの目は変わって来たが、何も恐れなくて良い。敵ばかりじゃないから。私は私の思うままに動く。








「あれは見事な蹴りだったぞ?」






「えぇ、渾身の一撃だったと思います。兄からも型が綺麗だったと」






「お前のそういう物怖じしない所に、アルは欲しいんだろうな」






「白帝は野心家で?」






「いや、お前がそんなんだから自分も奮い立たされるんだろう」






「…謙虚に生きることを志します」






「ははっ。お前はお前のままで良い。そして、変わってしまったと思った時は、渾身の一撃を喰らわさせたら嫌でも正気に戻るさ」








書類から顔を上げて、黒帝は穏やかに笑った。この人も、そのパターンなんだろうか。私のあの一撃で正気に戻った?それは違う。この人は、自分でマリアナとの恋物語を完結させたのだ。そして新しい物語を書き始めた。








――ただ、白帝はどうだろう?








黒帝の様に自らを戒めるようなことが出来る?








「いや、無理かな」











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