異世界に喚ばれたので、異世界で住みます。

千絢

49.私の立場





「え、私って謹慎中だったの!?」






「知らなかった、んだろうな…。城内だけは許しが出ているが、城下は許可が出てないから今は諦めてくれ。何か欲しけりゃ、俺が買いに行くから」






「なんでお兄ちゃんは謹慎じゃないの!?それが役付きの特権って!?チクショー!!」






「……お前の為だよ」






「本人の知らぬうちに謹慎の何処が私の為なの!?」








というわけで兄より城内のみの自由を与えられているだけだと言われ、私は城下に下りることさえ願わなかった。これから鍛錬だとお兄ちゃんは私を稽古場から追い出し、することがなくなった私は中庭の噴水のところで暇をもて余していた。精霊たちと戯れ、時折訪れる小鳥と歌を歌い――己の存在理由を確かめたくなるぐらい、暇で退屈だった。








「お主、一体何を目論んでおる?」








久しぶりだと思う声。その声の主は、城の柱から姿を現した。白髪に白眼の老人は、前まで好々爺らしい笑みを浮かべ接してくれた人だった。






「お久しぶりです、司書様」






白帝と黒帝の師である司書様だ。そして双帝至上主義者。つまり今の私にとって良ろしくない人物。






「触れるでないと、ワシは言った筈だ」






「えぇ。私は黒帝に跪くだけだと申し上げましたし、その言い付けを破った覚えはありませんが」






「どの口がほざく。お前は黒帝からアーロミス商会の女傑を奪ったではないか」






「とんだ言われよう…。でも、そうやって他の方からは言われてるんですね」




私が、黒帝からマリアナを奪った。尾びれせびれのついた戯れ言だ。どこからそんな戯れ言が広がったのだろう。






「答えよ、小娘」






「奪ったなんて何処の誰が申しました?彼女は己に負けたんですよ?そして誘拐されていた宰相様の妹君を脅し、禁忌を負わせた。いくら黒帝の婚約者と言えど、それだけのことをしたんです。罪に問われるのは当たり前のことでしょう?」






罪人に特別などない。軍人だったのだから、そんなの常識として知ってるだろ。何言ってんだ、このジジイ。






「戯言を抜かすな!」






「私は白帝にも黒帝にも興味はない。此処に愛しい兄妹たちが居るから、私は此処に居るだけだ」






私は皇妃にも何にも興味はない。この国にも、だ。此処にお兄ちゃんとシエル、セリカが居るから居るだけだ。傍仕えの任を解かれた今、あの人の懐刀になる目標も失った。






「国から去れと言われるなら、私は出て行きます。しかしその時は、私はこの国を滅ぼして見せましょう!」




この大陸で一番の国を滅ぼせば、私は本当の自由を手に入れれるだろう。






「何?」






「この国ごと愛しい兄妹たちも一緒に葬り去れば、私は何も背負わずに生きていける。そうでしょう?家族や恋人は時に重荷だ。軍人だったのだから分かるでしょう?」




しかし、それはこの国に絶望したとき。今はまだ絶望はしていない。謹慎と言えど、城内のみ自由を与えられている。ありがたいことだ。窮屈な思いをさせまいとする白帝の心遣いに痛み入る。






まあ、実を言えば謹慎にされる理由も分からないんだけどね‼






「物騒なことを言うね、イオリ」




「白帝…」




「師匠、勝手なことを彼女に吹き込まないでください。グレイアス大叔父上に顔向けできませんから」






「お前は何も分かっておらん‼この小娘は、この国にどれだけの不利益をもたらしたと思っているのだ‼」






「不利益?何のことでしょうか。イオリは尽くしてくれている。教皇派を挙げたことは特にそうだ。アーロミス商会や協力者は芋ずる式に出てきてくれた。私たちにとってかなり有益なことだ。一掃したかたった古株たちをまとめて一掃できたし」






白帝の声が少しだけ低くなった。苛立っているのか魔力の乱れが見える。別に苛立たなくて良いのにね。司書様は怯んだのか言葉を詰まらせ、黙ってしまった。






「そう思うの、人それぞれですけどね」






「あのね、たまには自己防衛でもしたらどうかな?」






「言ったところで、歪められたものは直りませんよ」






「まったく。君もシヴァも不器用なんだから」






私や黒帝が不器用?何を言っているのだろう。私たちこそ、本能のままに動いているというのに。このところ激務だと耳に挟んだから、疲れているのだろうか。



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