異世界に喚ばれたので、異世界で住みます。

千絢

48.それからの話をしてみようか。





それからの展開を少しだけ、話しておこう。








マリアナ・アーロミスは国外追放され、アーロミス商会自体も教皇派との深い繋がりがあったことを認め、白帝により半年間の営業中止及び内部の人間を入れ替えよと判決を出した。ルルベルはマリアナの僕であることを望み、マリアナと共に国外へと出て行った。






ジエロと言えば、敵意はないことを伝えたうえで白帝の密偵として活動することになり、動きの怪しい国へ向かった。時雨の魂を持っていても、ジエロはジエロである。私もお兄ちゃんも、そして始音と終歌も理解している。だからこそ、今回の白帝の密偵となる決断に背中を押した。第二のお兄ちゃんになるんじゃないのかな、と私はひそかに思っていた。








「――しばらく暇を与える」








報告書に目を落としていた私の頭上に降りかかった、冷たい感情のない声に私は顔を上げた。生気のない黒帝。仄暗い闇を灯した金と銀の瞳。私は、黒帝の傍仕えの任を解かれた。昨日の話だ。いや、あの任務から2日経っていて、一緒に働けたのだから上等だと言うべきだろう。耐えかねた上の決断だと私は思ている。






黒帝の憔悴の仕方は異常だ。誰も何も言わなかったのは、彼らなりの優しさなんだろう。愛していたことは誰が見ても一目瞭然で、だからこそ何も言わなかったのだろう。マリアナを婚約者から外し、国外へ追放した白帝の判決は正しいものだと思う。白帝の私情を挟んでいない判決は、周りに好意を持たせただろう。弟の婚約者だと言えど、容赦は無かったのだから。










《イオ、どうしたの?》






「いや、何もないよ。メギド、今日は訓練じゃなかったのかい?」






《今から行くところ。イオを見かけたから》






「そう。今日も頑張ってらっしゃい。愛しい私の竜」






《ありがとう、我が君。無理しないでね》








赤い瞳は優しく細められて、私の心は温かくなった。メギド、私の可愛いドラゴン。あの一件、囚われていた仲間のドラゴンたちを開放し、この城へと連れてきた。中には自分の郷へ帰ったドラゴンもいるらしいが、殆どのドラゴンたちがメギドを慕いついて来た。それを無碍にするわけにもいかず、騎士団預かりとして共に訓練を重ねているそうだ。離れていく逞しくなってきたメギドの背中は、火の王の風格を醸し出していた。










「…さぁ、どうするかねえ」








青い空を見上げて、私は遣る瀬無くため息を吐いた。黒帝の傍仕えを解かれ、かなりの暇を持て余している。騎士団から任務の要請も今は無い。魔術師団からもだ。ルシエラ様や双子から呼ばれることもないし、ただ時間だけは無情に流れていく。








久しぶりの何もない休暇と思えばいいのかな。そういえば、ずっと働き詰めだった。地球に居た頃、年中無休だったし、こっちに来てからも特に休むことなく黒帝の傍仕えとして働いていたのだ。神様がくれた休暇かもしれない。








今は休んで、暫くしてから白帝に仕事をもらいに行こう。それで良い。今は、その方が良いのかもしれない。休みがなかったから城下に行ったことないし、昼から城下に行ってみようか。お兄ちゃんに一言入れてたら、別に良いだろうし。








「何かあるかなあ」










――私が居なければ、マリアナも黒帝も幸せだったのだろう。ルルベルに言われたことだし、黒帝にも言われたことだが、別に私はそう思ってない。イレギュラーな存在でも、イレギュラーの存在の意義がある。そこを他人にとやかく言われたくない。ほっとけって感じだ。













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