異世界に喚ばれたので、異世界で住みます。
46.喰われる前に喰ろうてやる。
大きな影が私たちを包み込んだ。これは、アストラルの影だ。アストラルだけじゃない、ドラゴンの影がもうひとつある。誰の影だろう。メギドでもないし、ティエラの影でもない。
「…あのドラゴン、鬼女のじゃねーか」
「えぇー…」
「面倒くせぇな。お前、ドラゴンの相手出来るか?」
「五分五分、ではないだろうねぇ」
「だよなあ。黒帝は?」
「それは五分五分で」
「…それで上等だ」
ドラゴンより弱いって言外に言ってるんだけど、お兄ちゃんは満足そうに笑うだけだった。それで良いんだな。愛する婚約者がお縄状態だ、まともな心境ではないだろうし。混乱した人間ほど、隙が増えるのだ。殺りやすい。
「――シキ、イオリ、どういうことだ」
「どうもこうもないっすよ、黒帝。俺等は自分の仕事をしただけ」
「イオリ」
「その物騒な雰囲気どうにかしてくださいよ、黒帝。ご質問の答えは、見ての通りってやつですね」
「兄妹揃って、俺をナメてんのか?」
アストラルから降りてきた黒帝は、既に人を数人殺してそうな雰囲気を醸し出していた。縛られて倒れている鬼女を見て、その物騒な雰囲気は色を濃くした。たまたま近くに居た騎士が腰を抜かしたのが、目の隅で視えた。
…しゃーないか。
「ナメてんのはどっちだよ」
「あ゛?」
「どうせ事のあらましを城で見てたんだろうが。私が奴等と対峙しているとき、あの女は出て来たんだ。だから、あわてて駆けつけて来たんだろ?」
「誰に口を利いてるつもりだ、お前」
「黒帝、アンタだよ。あぁ、見事に冷静さを失ってるねぇ、そんなんでよく婚約者と一緒に戦場に立てたよね。気が気じゃなかったでしょ、自分より弱い愛しい婚約者が何を思ってか一緒に戦場に赴くなんて」
「不敬罪と反逆罪で牢屋に入れられたいか?」
「ぜひ遠慮したいところですね」
簡単に挑発に乗った黒帝に、もはや笑うしかない。冷静という代物を、城に置いて来たのかしら。情けないにも程がある。鬼女の女傑にも笑ったが、黒帝の戦神まで笑わなけりゃならないのか。もっとマシな二つ名つけろよ。
「まあ、戯言は置いといて。マリアナはアイア誘拐の手引き及び脅迫し禁忌を犯しました。それは覆らない事実であり、虚偽だと疑うことは許されない真実です」
「どこに、その証拠がある?」
「もう一度言いますね。アイア誘拐の手引き及び脅迫し禁忌を犯しました。それは覆らない事実であり、虚偽だと疑うことは許されない事実です」
「だから、その証拠は!?」
「虚偽だと疑うことは許されない、その証拠でしたら彼女のドラゴンに問えば良いじゃないですか。ドラゴンは主のことを理解してますからね。彼女、全てを知ってますよ」
アストラルだって、黒帝の全てを知ってますからね。メギドやお兄ちゃんのドラゴンもまた然り。契約はそういうものだ。そう言えば、黒帝は唇を噛締めた。微かに血の臭いがする。悔しいからって強く噛み過ぎだ。
「ドラゴンが証人か、よく気付いたな?」
「いや、八割はハッタリ。多分、そうだろうなって思ったから」
「お前、流石俺の妹だわ…。この状況でハッタリかますか?フツーに考えて」
「ドラゴンは純粋だから、ある程度は主のこと理解してんだよ。心に寄り添い、感情を汲み取る。愛らしくて、健気で、とても高貴な生き物だから」
さぁ、黒帝。貴方はどう切り返してくる?
「…あのドラゴン、鬼女のじゃねーか」
「えぇー…」
「面倒くせぇな。お前、ドラゴンの相手出来るか?」
「五分五分、ではないだろうねぇ」
「だよなあ。黒帝は?」
「それは五分五分で」
「…それで上等だ」
ドラゴンより弱いって言外に言ってるんだけど、お兄ちゃんは満足そうに笑うだけだった。それで良いんだな。愛する婚約者がお縄状態だ、まともな心境ではないだろうし。混乱した人間ほど、隙が増えるのだ。殺りやすい。
「――シキ、イオリ、どういうことだ」
「どうもこうもないっすよ、黒帝。俺等は自分の仕事をしただけ」
「イオリ」
「その物騒な雰囲気どうにかしてくださいよ、黒帝。ご質問の答えは、見ての通りってやつですね」
「兄妹揃って、俺をナメてんのか?」
アストラルから降りてきた黒帝は、既に人を数人殺してそうな雰囲気を醸し出していた。縛られて倒れている鬼女を見て、その物騒な雰囲気は色を濃くした。たまたま近くに居た騎士が腰を抜かしたのが、目の隅で視えた。
…しゃーないか。
「ナメてんのはどっちだよ」
「あ゛?」
「どうせ事のあらましを城で見てたんだろうが。私が奴等と対峙しているとき、あの女は出て来たんだ。だから、あわてて駆けつけて来たんだろ?」
「誰に口を利いてるつもりだ、お前」
「黒帝、アンタだよ。あぁ、見事に冷静さを失ってるねぇ、そんなんでよく婚約者と一緒に戦場に立てたよね。気が気じゃなかったでしょ、自分より弱い愛しい婚約者が何を思ってか一緒に戦場に赴くなんて」
「不敬罪と反逆罪で牢屋に入れられたいか?」
「ぜひ遠慮したいところですね」
簡単に挑発に乗った黒帝に、もはや笑うしかない。冷静という代物を、城に置いて来たのかしら。情けないにも程がある。鬼女の女傑にも笑ったが、黒帝の戦神まで笑わなけりゃならないのか。もっとマシな二つ名つけろよ。
「まあ、戯言は置いといて。マリアナはアイア誘拐の手引き及び脅迫し禁忌を犯しました。それは覆らない事実であり、虚偽だと疑うことは許されない真実です」
「どこに、その証拠がある?」
「もう一度言いますね。アイア誘拐の手引き及び脅迫し禁忌を犯しました。それは覆らない事実であり、虚偽だと疑うことは許されない事実です」
「だから、その証拠は!?」
「虚偽だと疑うことは許されない、その証拠でしたら彼女のドラゴンに問えば良いじゃないですか。ドラゴンは主のことを理解してますからね。彼女、全てを知ってますよ」
アストラルだって、黒帝の全てを知ってますからね。メギドやお兄ちゃんのドラゴンもまた然り。契約はそういうものだ。そう言えば、黒帝は唇を噛締めた。微かに血の臭いがする。悔しいからって強く噛み過ぎだ。
「ドラゴンが証人か、よく気付いたな?」
「いや、八割はハッタリ。多分、そうだろうなって思ったから」
「お前、流石俺の妹だわ…。この状況でハッタリかますか?フツーに考えて」
「ドラゴンは純粋だから、ある程度は主のこと理解してんだよ。心に寄り添い、感情を汲み取る。愛らしくて、健気で、とても高貴な生き物だから」
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