異世界に喚ばれたので、異世界で住みます。

千絢

45.罪に問えるか、罪に問われるか。

…何を言えばいいのだろう。ジェラール団長が来た。縄で縛った鬼女ことマリアナを見て、ジェラール団長は眉をしかめた。普通の反応だ。仮にも鬼女は黒帝の婚約者。婚約者を縛るってことは、それなりの罪に問われるだろう。しかし、しかしである。






「罪云々より、見逃す方が癪に障るのよね」






「それは分かる」






ちなみに紛い物ことジエロは私とお兄ちゃんの間で突っ立っている。和解とまではいかないけど、とりあえず敵意はないことを確認してある。なんだか複雑な気分である。実に複雑。マリアナの件もそうだし、ジエロの件もそうだ。やり場のない怒りは腹の底でフツフツと煮え滾っている。だから、なおさら複雑な気分。






「…で、どういうことだ?」






「「黒幕ってやつ?」」






「2人揃って首を傾げるな。それが事実として、お前等は黒帝がソレを信じると思うか?」






「「思わない」」






「だろう?有力な証拠が無けりゃな…お前等が逆に罪に問われるぞ?」






「「だったら城勤めなんて辞めてやる」」






「…お前等、今日はそんなにハモるなんてどうしたんだ」






今回は思うことが同じなだけである。ここまで同じ考えなのは久しぶりで、意見が食い違うことなんてしょっちゅうある。それは兎も角、有力な証拠があれば黒帝は納得するとジェラール団長は思っているのだろうか。私は思っていない。だってあの人のことだ。嘘だと、虚偽の報告だと言い続けるだろう。








「アイアの証言だけでは、不十分ってことか…」






「聖女の前では嘘をつけないとか、そんな伝承ないの?」






「ない。別の証拠つってもなあ」






「城に連れて帰るだけで黒帝に気付かれ……んぁ?」






「どうした、依織」






不意に大きな力が近づいて来ている事に気付いた。今、この状況においてとてつもなく良くないものだ。本当に良くない。これは、良くない。実に、ヤバイ事態だ。






「黒帝が、来てる」




「マジかよ!?」




「やべぇ!!隠したって無駄だぞ!?お前、どうすんだよ!!」






ジェラール団長は、これから起こるだろう事態を想像してか顔を真っ青にして叫んだ。叫ぶほどでもないだろ、ヤバイ状況だけど。叫んだって状況は変わらないんだからな。お兄ちゃんは、そんな上司を一瞥して髪をくしゃくしゃに掻き上げた。








「……っはー。仕方ない、開き直るか。隠したって無駄だしな」






「だねぇ」






「団長、俺達が此処に居るから離れて良いっすよ。アンタの魔力は依織の魔力で掻き消すし、黒帝の幼馴染のアンタが居たら後々面倒っしょ」






「いや、でもな…」






「ジェラール団長、今は離れた方が良いですよ。見てないフリをして、私たちに任せて置いて下さい」






「よし、やるか」






銀の瞳は決意を秘めていた。お兄ちゃん、すてき。血の繋がった実兄だけど、こういう所はほんっとうに好きだ。シエルも成長したらこんな感じになるのかな。お姉ちゃんお姉ちゃんって今はついて来てくれるところが可愛いけど。








ジェラール団長は、お兄ちゃんと私を見てから嘆息した。此処は任してくれるのだろう。悪いね、団長。貴方までこの無謀な取り締まりに巻き込むわけにはいかない。








お兄ちゃんもそれを分かっていたから、突き放したんだろう。お兄ちゃんの上司でもあるしね。本当後々面倒なことになるのは避けたい。









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