異世界に喚ばれたので、異世界で住みます。

千絢

40.此の魂よ、哭き給え

始音と終歌が吠える。吼える。咆える。大地が、建物が、揺れる程の咆哮。耳をつんざき、相手を怯ませるソレは私たちを鼓舞する。走れと。殺れと。屍が折り重なる石の廊下。生きている者気配は無い。






咆える姿はどこからどう見ても聖獣ではなかった。ルシエラ様に教えて貰ったけど、うーん。聖獣にはどこからどう見ても見えない。




この階は、否、地上は私たちが完全に制圧した。完璧で見事な制圧だった。








「おうおう、頼もしいねえ」




「お兄ちゃん、地下に何か居るよ」




「地下はシェルターになってっからなあ。幹部と教皇、それからアイアが居るんだろうよ」






「アイアってロベルト様の妹だっけ?」




「そ。見えないが視えるそうだ」




「みえないが、みえる。目が見えないのに魂が視えるってこと?」




「あぁ」




「ふぅうん」






同情はしない。何も思わない。下衆だったら殺るだけだ。それは前もって伝えている。誰も何も言わなかったのは、そういうことなんだろう。弁解の余地なしってやつだ。にしても、時雨の紛い物は何処に居るんだろうか。私では気配を感じることが出来ない。






「そろそろ役割分担するか?」






「その方が効率はいいかもね。私は紛い物に行くけど」






「じゃあ俺と終歌は地下に行こう。始音はイオに着いててくれよ」






《おう》






《ところで、その紛い物が何処に居るのか分かるのか?》 






「こっちに向かって来てるぜ。別ルートで地下に行くから、頼んだぞイオ」






「りょうかぁーい」






いきなりでも、驚くことは無かった。何処に潜んでいたかは分からない、けれど驚くほどでもなかったのは仮にも時雨の紛い物だからだろう。時雨は隠蔽が上手だったから。まあ、お兄ちゃんには敵わないけど。






「さーてと、始音!」






《なんだ?》






「これから時雨の紛い物とご対面なわけだけど、」








時雨の厄介な点は2つある。








「私が殺すから宜しくね」








1つ目は魔術の無詠唱だ。私も人のことを言えないが、無詠唱ほど厄介なものは無い。口の動きさえわかれば、どんな魔術が使われるのか分かるというのに。下手に魔術で対応すれば、爆発を引き起こしかねない。








2つ目は魔銃を使うことだ。此処ではありえないと思うが、前は政府から支給された魔銃だったから、威力は絶大だった。ホルスターから抜かれ、着きつけられると軽く絶望しちゃうぐらいには。魔銃は基本魔力を弾丸に置き換えて使用するモノだ。時雨の魔力は膨大で、性質も荒々しかった。それを弾丸としてぶっ放すということは、それなりの被害が出ていた。








今回、紛い物の肉体がどれほどの魔力を有ししているかは分からない。それにあれは政府直々の支給品だ。だから、獲物を持っているのかも検討付けづらいものがある。銃じゃないかもしれない、銃かもしれない。すべての可能性を想定して戦わなければ、こっちがあの世逝きかもなあ。






「桜咲依織、いざ推して参る!!」






響き渡る爆音と巻き上がる砂塵を潜り抜け、私は黒と白を両手に構え走った。全ては己が為に。愛しき人の紛い物はこの手で葬り去る。哀しみも憎しみも、この手で消し去ろう。






―――お前紛い物は此処に居て良いわけがない。









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