異世界に喚ばれたので、異世界で住みます。
38.襲撃目前
夜明け。濃紺の夜空が少しずつ明るみ始め、朱と紫が混じり合ったまるで時雨の瞳の様な空。城の門には、私とお兄ちゃん、始音と終歌、メギドが居た。門番以外誰も居ない。双帝は、部屋の窓から此処を見ていることだろう。
《一応聞くが、作戦はあるのか?》
「「正面突破あるのみ」
《だよなあ。お前等兄妹、何にも変わってねえ》
始音とメギドは絶句し、終歌はまるで分っていたかのようにため息を吐いた。メギドは兎も角、始音が分かっていなかったとは。成長したから、その作戦を練る頭も成長していると思っていたのだろうか。とんだ誤算だ。確かにある程度、作戦は練るようになった。けど、今日はそんな小賢しいもの要らない。
「今日中に終わらせたいしね。作戦とか練ってると、綿密に動かなきゃならないでしょ?手間じゃん」
「そうだぞ、始音。作戦が居る程の仕事でもねぇし、正面突破でも問題ねぇよ」
《…グレイアスの息子、娘がこんなにも無謀で良いの、ねぇ?》
《あぁ、お前はグレイアスのドラゴンの息子だったか。うんうん、グレイアスから出来た子だとは思えんよな》
「お前ら失礼だよ。さ、行こうか。のんびりしてる暇はないよ」
私とメギドは始音に、お兄ちゃんは終歌に跨った。このまま突っ走って、正面突破。こんな潔い作戦も存在しないだろう。まさか私とお兄ちゃんの考えとは、誰も想像できない、想像しないと思う。何せお兄ちゃんは、部下に恵まれ過ぎてのんびり仕事をするタイプだけど、慎重に慎重を重ねてきている筈だ。私は、感情に従うタイプだから敵も多く作っちゃうんだけど…それなりに慎重さもあるわけで。
簡単に言えば、お前等がそんな作戦練って良いのかよってやつだな。
「アーヴィー教会は町外れにある森に建っている。ざっと250人程度。まあ、それより多めに見た方が良いかもしれない」
「ふぅん、町外れか。多少暴れても、問題なさそうだね」
「あぁ、どうせ時雨モドキが居るんだからな。好きに暴れてしまえばいい。勿論、お前たちもだぞ」
お兄ちゃんは笑いながら、前を見据えて走る終歌の首筋を撫でていた。終歌は何も言わない。珍しく、黙って走っていた。昔なら、ゲラゲラと笑いながら戦場を駆け抜けていたというのに。時雨モドキが居るからだろうか。
魂は時雨のモノであっても、その器は時雨のモノではない。それは即ち、時雨ではないということだ。
「あぁ、楽しみだ」
それを頭で理解しているから、心も納得しているから、私は全力で現状に挑む。それを此処に居る皆は分かっている。だから、誰も何も言わない。だから、前を向いて突き進んでいく。いつの間にか朱と紫の空は無くなり、清々しい青い空となった。陽はまだ低く、明朝から早朝へ移ろった頃、私たちは敵の根城を前にしていた。
《此処か、禍々しいな》
《流石魔物やドラゴンを実験体にしているだけある》
《卑劣な…》
その根城は、見た目は古びた教会。しかし教会ならではの神聖な雰囲気を感じさせるものが一切ない。その黒い雰囲気はもとより、転がっている骨や大地を染め上げるおびただしい程の血の量が、これ以上になく怪しげだ。
「じゃあ、行くぞー」
《まるで遠足のノリだな》
「先頭さんから目を離さないでねー。後ろは誰も居ないからねー」
「センセー!おやつにバナナは入りますかぁ?」
「入りませぇーん!」
《ふざけておらんで、さっさと行くぞ》
お兄ちゃんの裏声に合わせて、私も心ばかり高めの声でノッてみたら、始音にとんでもなく冷めた目で見られた。始音だけではない。終歌もメギドもだ。う゛う゛ぅん、痺れるぅ。
「――…行くか、俺達の戦場に」
「えぇ」
これより戦場へ疾く。誰も知らぬ戦場へ。誰の記憶にも残らぬ墓場となる場所へ。何故、私たちが私たち以外と此処へ来なかったのか。人員人員と言って来たけど、そんなの口先だけの心配。
「お兄ちゃん、久しぶりに本気出す?」
「おう、そのつもりだぜ、妹よ」
「久しぶりにお兄ちゃんの本気が見えるんだねー!」
暴れよう、俺達のやり方で。
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