異世界に喚ばれたので、異世界で住みます。
35.後ろ向きの絶望
腹の底から湧き上がってくる衝動。時雨、愛しい人。本来なら輪廻を巡り、今度こそ幸せになるべく生まれてくる筈だったのに。それを、この世界の人間が狂わせた。その怒りと悲しみが、私の涙腺を壊しにかかる。
「泣くな、依織」
「泣くなですって?時雨は、時雨の次の人生をめちゃくちゃにされたのよ!?死霊魔術に侵された時雨の魂は、もう二度と輪廻に入ることが出来ないのに?!」
「依織」
「ふざけないで頂戴!時雨が何をしたというの!?関係のない父さんや時雨まで、どうして!!」
ポロポロと布団の上に落ちる雫。分からない。どうして、時雨の魂を選んだのか。ただの戦闘狂なだけだ。それ以外、彼に変わったところなどないというのに。溢れる涙と零れる嗚咽。始音と終歌が慰める様に、私の傍に寄りそう。
「イオリ様」
「ルシエラ、お前は、」
「シヴァ兄様はお黙りなさい。私、この兄妹がとても好きなのです。温かくて、傍で守って下さるシキ様とイオリ様、それから精霊たちに愛された双子をこれ以上蔑ろにするなら、私はお兄様たちと対立しますよ」
「何を言い出すんだい、ルシエラ。僕達は蔑ろになんてしていないよ」
「いいえ。黙っていることが、既に蔑ろにしているようなものです」
なんだ?ルシエラ様のえらく強気な発言に、涙も嗚咽も引っ込んでしまったじゃないか。良いけど、ありがたいけども。どうしたっていうんだ。ルシエラ様が対立などと口にするべきではない。しかし、だ。双帝の苦虫を潰したような顔とマリベル様たちの形容しがたい表情から、ルシエラ様の言葉に図星と感じるものがあったのだろう。
「ルシエラ様?俺達に黙ってることって?」
「――グレイアス大叔父上とノルエルハ大叔父上が貴方方の世界に落ちてから幾星霜、不思議な縁が結ばれました。シキ様とイオリ様が縁切りをする数秒前まで、そちらに生まれるべく魂が、我が世界に生れ落ちたり、こちらで生まれるべく魂が、そちらの世界で生れ落ちたりしていました。そう繰り返されるうちに、我等は魂を視る術を生み出してしまったのです」
あくまでも、特定の人物だけですが。と続けたルシエラ様。もはや衝撃を通り越して、無になってしまった私の頭。言っていることは解る。理解できる範囲だ。魂を視る術、というのは禁忌じゃないのか?魂は神々が管理するものだ。
人間がそんなものを視るなどとは、どういう了見だ?
「各国の協定で、そう言った人物は徹底的に調べ上げ居場所を突き止める様にしているんですの。現在確認できている人数は5名。しかしながら、紛争等などで死亡したのが4名。残る1名は、教皇側にいるのです」
「…初耳だが、どういうことですかね、団長」
「シキ様、どうか怒らないで下さい。いえ、怒る気持ちも分かります。ですがこのことは、上層部のみにしか伝えられないのです。今回の様に、その力が悪用されないためにも」
「教皇派側に居るのが分かってる時点で、悪用されることが分かっていたのでは?」
「…そうですね、分かっていたのかもしれません。教皇派に居る人は、元々城に仕えていたのです。丁度、シキ様が来る前に教皇派に誘拐されしまい、成す術もなく時間は過ぎて行きました。でも、彼女を信じたかったのかもしれません」
「彼女?お知り合いか何かですか?」
「―――妹だ」
黙ったルシエラ様に代わって、ロベルト様が前に出てきた。その眼差しは冷めきっていて、絶望したのだと一瞬で分かる程表情は曇っていた。それは何も彼だけではなかった。双帝やジェラール様、マリベル様も似たような顔をしていた。
「…ロベルト様の妹、」
「私の妹がしたこと、代わって謝罪する。すまなかった」
謝っても許されないことだ。しかし、それを彼に言っても無意味でしかない。なら、なにをどうすれば最善なのだろうか。此処に居る全員が絶望している。勿論、私もお兄ちゃんも含めて。けど、いつまでも絶望を引きずるわけにはいかない。
――もう、前を向くしかないのだろう。
「泣くな、依織」
「泣くなですって?時雨は、時雨の次の人生をめちゃくちゃにされたのよ!?死霊魔術に侵された時雨の魂は、もう二度と輪廻に入ることが出来ないのに?!」
「依織」
「ふざけないで頂戴!時雨が何をしたというの!?関係のない父さんや時雨まで、どうして!!」
ポロポロと布団の上に落ちる雫。分からない。どうして、時雨の魂を選んだのか。ただの戦闘狂なだけだ。それ以外、彼に変わったところなどないというのに。溢れる涙と零れる嗚咽。始音と終歌が慰める様に、私の傍に寄りそう。
「イオリ様」
「ルシエラ、お前は、」
「シヴァ兄様はお黙りなさい。私、この兄妹がとても好きなのです。温かくて、傍で守って下さるシキ様とイオリ様、それから精霊たちに愛された双子をこれ以上蔑ろにするなら、私はお兄様たちと対立しますよ」
「何を言い出すんだい、ルシエラ。僕達は蔑ろになんてしていないよ」
「いいえ。黙っていることが、既に蔑ろにしているようなものです」
なんだ?ルシエラ様のえらく強気な発言に、涙も嗚咽も引っ込んでしまったじゃないか。良いけど、ありがたいけども。どうしたっていうんだ。ルシエラ様が対立などと口にするべきではない。しかし、だ。双帝の苦虫を潰したような顔とマリベル様たちの形容しがたい表情から、ルシエラ様の言葉に図星と感じるものがあったのだろう。
「ルシエラ様?俺達に黙ってることって?」
「――グレイアス大叔父上とノルエルハ大叔父上が貴方方の世界に落ちてから幾星霜、不思議な縁が結ばれました。シキ様とイオリ様が縁切りをする数秒前まで、そちらに生まれるべく魂が、我が世界に生れ落ちたり、こちらで生まれるべく魂が、そちらの世界で生れ落ちたりしていました。そう繰り返されるうちに、我等は魂を視る術を生み出してしまったのです」
あくまでも、特定の人物だけですが。と続けたルシエラ様。もはや衝撃を通り越して、無になってしまった私の頭。言っていることは解る。理解できる範囲だ。魂を視る術、というのは禁忌じゃないのか?魂は神々が管理するものだ。
人間がそんなものを視るなどとは、どういう了見だ?
「各国の協定で、そう言った人物は徹底的に調べ上げ居場所を突き止める様にしているんですの。現在確認できている人数は5名。しかしながら、紛争等などで死亡したのが4名。残る1名は、教皇側にいるのです」
「…初耳だが、どういうことですかね、団長」
「シキ様、どうか怒らないで下さい。いえ、怒る気持ちも分かります。ですがこのことは、上層部のみにしか伝えられないのです。今回の様に、その力が悪用されないためにも」
「教皇派側に居るのが分かってる時点で、悪用されることが分かっていたのでは?」
「…そうですね、分かっていたのかもしれません。教皇派に居る人は、元々城に仕えていたのです。丁度、シキ様が来る前に教皇派に誘拐されしまい、成す術もなく時間は過ぎて行きました。でも、彼女を信じたかったのかもしれません」
「彼女?お知り合いか何かですか?」
「―――妹だ」
黙ったルシエラ様に代わって、ロベルト様が前に出てきた。その眼差しは冷めきっていて、絶望したのだと一瞬で分かる程表情は曇っていた。それは何も彼だけではなかった。双帝やジェラール様、マリベル様も似たような顔をしていた。
「…ロベルト様の妹、」
「私の妹がしたこと、代わって謝罪する。すまなかった」
謝っても許されないことだ。しかし、それを彼に言っても無意味でしかない。なら、なにをどうすれば最善なのだろうか。此処に居る全員が絶望している。勿論、私もお兄ちゃんも含めて。けど、いつまでも絶望を引きずるわけにはいかない。
――もう、前を向くしかないのだろう。
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