異世界に喚ばれたので、異世界で住みます。

千絢

30.穢れと戦ってみる魔術師

その場所は、とても神聖であるべきなのだ。




その空間は、とても清涼で在らなければならない。




その時空は、とても侵される場所ではない。侵されて良い場所でもない。






「もっと綺麗な時に来たかったなー。なんだよ、この水の色。ありえねー」






《依織よ、先に行くな》






「悪いね。あの様子じゃ行かせてくれなさそうだったしさ。此処、白帝でもヘバるよね」






《白帝?あぁ、あの男な!一番双子を可愛がってくれてんだぜ~》






「そう。彼らのことはまた後で教えてあげるから、今はこっちに集中してくれる?」






《是、我が主よ》






《切羽詰まったカオしてんじゃねーよ、依織。お前なら大丈夫だ!》






ちょっとシリアス感出そうとしても、終歌が邪魔するのは何でだろう。シリアスがシリアルになっちゃう。誰が食べるんだよ、そんなモン。時雨か?グレイアスか?私は絶対に嫌だ。








黒く濁った水面に映る自分の顔は情けない顔をしていて、終歌の言う切羽詰まったカオなのだろう。おいおい、私がこんなカオしてどーすんのよ。私が此処をどうにかするって、無理矢理奪いちぎった仕事だ。ちゃんとこなさないと。ほら、いつもの不敵な笑みを浮かべなさいよ。








《終歌よ、お主は大人しくおれんのか。主の言葉を待ってから物を申せといつも言っておるだろう?》




《だってよ、始音。コイツが切羽詰まった情けねぇカオしてんだぜ?あの時雨にだって見せなかったカオだ。俺等だって見るの初めてだろ?だから、俺は背中を押してやってんだ》






《怒るのはお門違い、と申すのだな?》






《ったりめーだろ。コイツなら出来るんだ。俺等はその実力を知ってる。いや、もう何年も会ってない訳だから、俺等が知る依織じゃねぇかもしんねえ。なあ始音、異世界の愛し子がこの世界で異物扱い。コイツが黙ってられるとでも思ってんのか?》






《…むむっ。それは、そうだな。そうだ、主は我等の知る主より随分と大人になったな。雰囲気も、感じる魔力も、その意志の強い金の目も。主、そのような顔を成されるなと我も言った方が良かったな。ただ、終歌も言ったが主は実力を持っている。先ほど、自殺行為だと言ったのは取り消そう。主になら出来る》






オイオイ。お前等、会わないうちに随分と大人になったねぇ。私よりも何千年と生きているけど。それでも、なんだろう。成長したとでも言うのだろうか。変わった。お互いに、変わった。








黒く穢れた泉を前にしながら、感動で涙が出そうだ。前が涙で滲んで視えない。弱ったなあ、もう。これ、時雨のせいだから。アンタのせいにしてたら、なんかスカっとするわ。薄情なオンナだなって笑ってちょうだいね。いいえ、笑うところよ。






「ふふ、そうね。私には実力があるものね!こんななっさけない顔して、父さんのチカラなんか使えないわ。終歌、始音、ありがとう」








《フン!やっと俺の有難味を思い知ったか!》






《そうやって調子に乗るのがいけないのだ、終歌よ》






「良いじゃない、それが終歌よ。それを宥めるのは始音の仕事。この世界がこの泉を中心に成り立っているのも、貴方達がそうやって成り立っているのも、全ては同じことなのよ」








始音は終歌に。終歌は始音に。世界は泉に。泉は世界に。








―――お互い依存して生きている。










「さあ、この穢れを取り除いてやりましょうか!」






《して、主よ》






「ん?」






《お前、空の媒体を持ってないのに何を媒体にするんだよ》








「あぁ、それ?考えてなかったのよね、どうしよう」








《《はぁ!?》》






目を見開いて驚く始音と終歌。笑っちゃう。貴方達、そんな顔も出来たのね。何年も離れていたから、忘れてるだけなのかしら?本当に知らないのかは、兎も角、初めて見る様な表情が面白い。ついつい声を上げて笑ってしまう。






「冗談だって言いたいけど、冗談に出来ないのが悲しい所なんだけどね。媒体何てどうだってなるわけよ、貴方達の石を使っても問題は無いわけだし」






《…俺等の石使ったら、俺等の居場所がなくなる》




《居場所などとっくに失っただろう》






なんてこった。こういうネガティブな所は二人揃ってそっくりだ。しかしこういう居場所というワードにこだわるのは時雨も同じだったっけ。居場所なんてつくれるものだ。作り放題だ。そんなにこだわるなって言い続けたまま。あの世で、転生していたらちゃんと居場所をつくりなさい。








「居場所なんてねぇ、私の傍があるでしょう?私以外にも双子だってね。だから、居場所何て気にしない気にしない。始音、終歌、大丈夫よ安心しなさい」






《依織》






「よし、私の大仕事を見守っていてね」








始音と終歌のフワフワの頭を撫でて、私は泉と向き合った。穢れた臭いが身に着きそうで、ちょっと嫌だな。これを抜き取ったら、ルシエラ様とマリベル様の穢れも取り除かないと。綺麗なカラダって大事なんだよね。








ふふ、創造神の亡骸の沈む泉を穢すとは愚かなことをするものだ。この穢れ、丁重に扱ってそっくりそのまま返してやる。まあ見てろ。この穢れはきついゾ?生きていられるものなら、生きててやがれ。私が殺しに行ってやろう。










どうあがいても、私は血なまぐさいオンナである。血の気が多くて、戦うことに、双刀を振るい血を被ることに意味を持っている。けれど、私とて人の子。それがストレスになっていた時期もある。それが、あのストレス爆発を生み出す原因だったんだけど。








「――さぁさぁ来たれ、我が身にその穢れたものを宿したモノよ」




「さぁさぁ来たれ、この泉を穢す反覆するモノよ」






黒い靄が泉の水面ギリギリと漂う。そして、私の眼前まで浮いた状態の青い石と赤い石へ吸い込まれていく。人身御供にされたモノは浮いてこない。けれど、このまま浄化されるだろう。いや、本当なら取り除いた方が良いんだろうが、私はそこまでする気力がない。








なんで、私まで穢されなきゃならんのだ。フーフーと荒くなる息を抑えながら、平静を装って終わったと二人に告げた。隠し通しても問題ないものだ。身体中を巡る魔力がやがて浄化を始めるだろう。








それまで、どれくらい時間がかかるか分からない。けれど、ルシエラ様とマリベル様の穢れも取り除く。ルシエラ様もマリベル様も失えない。









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