異世界に喚ばれたので、異世界で住みます。

千絢

22.殺戮女神

「―――と、もかく本件に入ろう。毒物についてはルシエラとマリベルに任せる。シキのお願いってのは?」








「教皇派なんだけど、今はアーヴィー教会って名乗ってる組織の壊滅っす。俺とイオリは絶対参加で、叔父上はどっちでも。教会になってたんで、元の形に戻ったっつうカンジっすかね。灯台下暗しってやつっす。んで、ヒトと魔物の実験してる」








「ヒトと魔物の実験でドラゴンを使うかー。っは、下衆共が」








私の声がやけに響いた。白帝の顔がしかめっ面になり、ルシエラ様とマリベル様の顔は引きつっていた。お兄ちゃんやノルエルハは笑ってたけど。私の言葉に笑ったのか分からないけど、私は笑い流した。メギドはきょとんとして私を見上げてきている。






《下衆?違うよ、イオリ。彼らは愚者だ。死すれば、この世の定理から離れて魔となる》






「じゃあ、メギドも一緒に行かなきゃならないね。お前の名の意味は業火だ。罪人を灼く火だ。お前が止めを刺せば良い」






《…》






「そうだな。奴等はドラゴンたちさえも実験台にする。今だって何匹ものドラゴンたちが哭き、苦しみながら息を引き取って行く。メギド、お前が焼き払うべきだな」






《…あぁ、同族たちが、まだ?》






説教じみた声から泣きそうな声に変わったメギド。メギドをそっと抱上げて、私は背を擦る。一定のリズムでゆっくりと眠りを誘う。これ以上の感情は成長上良くない。こうやって、シエルとセリカを宥めてきた。








ただ、メギドって軽いのな。ドラゴンだから、こんなものなのかしら。






「分かった、君たちに任せる。その代り、教皇の首を持って来い。あぁ、別に首じゃなくても良い。死体を持って帰って来たら、それなりの報酬も出すよ」






「ラッキィー。報酬付きだ」






「そうだね、お兄ちゃん」




「…僕は不参加の方向で。もう少ししたら生まれそうなんだよね」




「じゃあなんで来たんだよ、リーリン様を独りぼっちにさせるなんて。また繰り返すつもりデスカネ?」






のへらと笑ったノルエルハに、いまだ心が晴れていない私はプッツリと嫌味をかました。途端に、顔色を真っ青…というより真っ白にして何も言わないまま背を翻した。それで良い、さっさと帰れ。魔方陣を使って来たんだろう。気配がして、一瞬にして消えた。






「…随分と荒れたままだなあ、依織」




「まあ、」




「お前のソレはいつまで経っても、変わんねぇんだな」






お兄ちゃんはメギドを抱えた私の頭を撫でた。それでも粗ぶっている心は、どうやら静まる気配がないらしい。やっぱり組織壊滅をすれば良いんだろうか。






血で嫌なことを洗い流すのは、いつまで続くんだろう。






「デスベリア、か」




「…え?」




「君の新たな異名だ。東の砦の騎士たちがつけた。殺戮女神の意味を持ってる」








なんつー異名だ。ウェルミスの方が可愛らしかった。そっちの方が良い。そっちで呼んでくれよ。殺戮女神とか止めてよ。女神じゃないよ。殺戮者?それっぽかった?






「ははっ、変わンねーな」






「え?」






「あっちの世界ではヴァルキュリア。戦場死者を選ぶ女っつう意味があった名前をつけられていたんすよ。まあ、意味的にはあの世へのお迎えだけどな」






「あー、もー。ほれみて見ろ、この顔」






溜め息しか出なかった。言っておくが、私はそんなに戦闘狂じゃない。ただ、戦場は好きだけど。ウズウズしちゃうわ。







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