異世界に喚ばれたので、異世界で住みます。
14.桜咲志貴、推参
「はぁーい、お兄ちゃん」
「…ふざけんなゴラァ。てめェ、夜勤明けの俺様を召喚するったあ良い度胸だ」
「すまないね、お兄ちゃん。此処で緊急速報」
荒れた気配を纏う兄、志貴はボサボサの髪を手櫛で直しながら開いている席に座る。すげぇ態度がデカイ。どうしたんだ、我が兄よ。誰もが、その荒れているお兄ちゃんを見て目を見張った。あの宰相殿やジェラール様でさえもだ。
兄を瞬間移動で呼び戻した。各砦に瞬間移動の魔方陣が存在していて、本城にも東西南北分の魔方陣が存在する。ちなみに巡回日だけはドラゴンに乗って行くのだという。時間の無駄の様な、なんというか。今は良い。後の問題だ。
「緊急速報?そりゃ、街にドラゴンが入ったってことか?あ?」
「いや、違う。グレイアスの遺体が無くなった。そのドラゴンがグレイアスの血肉で実験されていたのさ」
「ほォ?」
「…反応薄いね」
「――視えてたからな」
あ、機嫌が悪い理由はそれか。嫌でも見せられていたのだろうか。すまないな。お兄ちゃんの持つチカラは紡ぐ者の使命だ。これもグレイアスが持っていた特殊なチカラだ。といっても、お兄ちゃんの場合は千里眼と呼ばれるものだ。媒体を通して見ることが出来る。
「おぉう、すまんね。媒体は?」
「そのドラゴンだ」
「…だから夜勤明けって?」
「拒否権なしにな。血の所為か、反応したんだろう」
銀の眼が細められ、ゆっくりと瞼を下した。疲れた目を休めるのだろうか。そのチカラは、この世界に来てから使ってなかったのだろう。久しぶりの疲労感でも感じているのか、荒々しい雰囲気は消えない。
「…ちょっと、なんで視えてたなら駆け付けなかったんだい?」
「久しぶり過ぎて、動けなかったんすよ。いきなりだ、いきなり。この国に入ってから、だけどな」
マリベル様の質問に答えたお兄ちゃんは目を抑えて、背もたれぞぞんざいに使う。疲れすぎだろう。手を握って、少しずつ魔力を流す。私の体に入った穢れた魔力はもう浄化し尽し、私の魔力となってお兄ちゃんの体へと流れていく。そうすれば、お兄ちゃんは体力ではないけれどを少しばかり疲労を回復させることが出来る。
「お兄ちゃん、どんだけ夢中になったの?貴方まで穢れてるよ」
「仕方ねぇだろ。もう一度言うが、拒否感なしにだ。お前が出てきた辺りで、ドラゴンが反応を示してから呑みこまれた」
私を媒介に魔力を循環させる。そうして、お兄ちゃんの穢れた魔力を清める。ドラゴンか。やっぱり、グレイアスの遺体はあっちにあるべきだったのだ。ああ、もう。何とも言えない、悲しさが私の心を占める。
「しかし、どうしてシキを?」
「ノルエルハよりも探知が優れているんで」
「それ、ノルエルハ大公への侮辱だぞ」
そういや、ジュラール様はノルエルハを尊敬してたんだっけ。ノルエルハだけじゃなくて、グレイアスも尊敬しているとか。うん、神童って呼ばれてたもんなー。魔術も剣術も、全てにおいて完璧だったという。
「事実ですもん。別にノルエルハが劣っているとかじゃないですよ?ノルエルハにはノルエルハだけのチカラもある。シエルやセリカが受け継がなかったけど、きっと生まれてくる御子は受け継ぐかもしれませんね」
どれだけノルエルハが強かったとしても。彼は優し過ぎるのだ。だから、だろうか。彼に似合ったチカラがある。守りにおいては彼が最強だった。グレイアスが攻めなら、ノルエルハは守りなのだ。私とお兄ちゃんは物の見事にグレイアスの血を引いた。
「それはさておき、だけど。シキは一体どうやってグレイアス大叔父上の遺体を探すんだい?」
「俺の属性は風っすよ?風がない所なんて存在しないんで、それを利用します」
「それを利用って、風は風だけど風の精霊たちが居るじゃないか」
「侵蝕。言っときますけど、俺やイオリのチカラに精霊なんて関係ないんですからね?」
風を媒体に世界を視る。久しぶりの大仕事だと、顔色と雰囲気が落ち着いたお兄ちゃん。魔力も元通りになったし、これで大丈夫だろう。後はお兄ちゃんの仕事だ。
あっちの世界では元々、私と志貴は精霊に愛されていた。
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