異世界に喚ばれたので、異世界で住みます。
08.歴史
まあ、非番なんてそんなものよね。
「申し訳ないです、イオリ殿」
「いえいえ、ロベルト様の嫌がらせと思えば可愛らしい方です」
舞い込む書類たちを手次第に振り分ける私。休日出勤ではないが、休日労働は慣れている。サービス残業もだ。しかし、目的であった勉強は果たせているので特に苛立ちを覚えることもない。申し訳なさそうな文官に、こちらが申し訳なるぐらいだ。
さて、世界の中心に坐わすこの国は創造神である女神の悲劇によって生まれた国だという。一言で言うと太陽神と月神との痴情の縺れに第三者が入ったってことだ。大変大雑把な解釈だけど、強ち間違った解釈ではない、だろう。そして、この国が最も重要として守っている泉が、その女神の涙から生まれた生命の泉なのだと。この国ひいては世界の水源でもあるのだという。
聖女は、その創造女神の妹神であり水をつかさどる女神フエンテの魂のカケラを持った女性だという。その証が背中に大きな片翼の刺青と移身の力だという。移身とはそのままの意味で、身体に移すということだ。まあ、呪詛とか病気とかそんな類をだな。
で、次に皇族の皇位継承者が受け継ぐとされる白黒と金目銀目。これはそう、キャナリアの遺したモノなのだとか。つまり、だ。キャナリアは太陽神とも月神とも関係を持ち、子をなした。そして生まれたのがこの国で。もうお分かりになっている人も居るだろう。
――皇族は神の血を引いていた。
というのは珍しくないらしい。他の国でもある話なのだと。ただ、この国は神様レベルが高いだけであって。それは置いといて、太陽神の子供と月神の子供、この異父兄弟は非常に仲が悪かったのだという。一度、この世界を滅ぼしかける程の大喧嘩をしているらしい。古書曰く。嘘みたいな話だが、本当の話だ。別にキャナリアが嘆いたのはそのことではないらしい。
夫である太陽神と月神の争いにかなり嘆いたそうだ。古書曰く。神って一夫多妻じゃないんだな。元の世界は神話を読んでも一夫多妻だった。うん、特徴のある世界だ。それが存在するというのだから、なおさらである。
太陽神側の神々と月神側の神々との第零世界大戦。その最中に、キャナリアは魔王に襲われ嘆き悲しみ死んでいった。創造神に戦う術も守る術もない――創り、見守るだけの神だから。かなりの無念だっただろうなあ。しかし、そうして出来たのが神聖な泉だ。
いや、魔王に襲われて出来たのが神聖な泉ってどういうことだよ。穢れてんじゃねーか。とお思いの方も多いだろう。
「イオリ殿、申し訳ないです。もう一部お持ちいたしました」
「…ロベルト様も良いお覚悟で」
「最近、隣国が賑やかですから…」
「わかりました、処理しておきます。明日にでもお持ちいたしますと」
「ありがとうございます!!」
そんな場面でフエンテが登場。姉神の溢れる涙と血を全て浄化し水にした。そして、愛していた世界を育め続けれる様にと、かつて太陽神と月神と共に訪れた泉に葬ったのだという。それが神聖な泉。大好きな姉が眠る泉をフエンテが守り続けていたが、ヒトという存在が繁栄し始めた頃に身を引かなければならない事態となり、姉神の血を引く一族の女児に聖女という資格を与えた。
つまり、皇族は創造神である姉妹の血を引き、尚且つ太陽神と月神の血を引く一族だということだ。そりゃ、世界の中心に坐わしていても不思議ではない。
太陽神の血の証を金に、月神の血の証を銀に。白黒は三神の血を引く証。
背中の片翼は聖女の証。
かといって、この国は双帝制ではない。今の双帝制は何百年ぶりかといったところで、皇族の血で金目銀目さえ受け継いでいれば皇位継承者の資格を得れるそうだ。前皇帝陛下も1人でやってたし。聖女も久しぶりなのだとか。聖女が不在の間は魔術師団長が責任を持って守っているという。
ここまで長々と復習してみたが、やはり謎の多い国である。もはや世界自体が謎なのかもしれないが。私にとってこの世界が父の故郷だったと思うと、何故か哀れでならない。どうしてそう思うのかは分からない。ノルエルハもまた然り。
神々の世界、か。
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