ルーチェ

千絢

72.「そんなの当然だろ」

カイル兄上は、そんな私に溜め息をついた。諦めたら良いのにね。牙を向いても、私たちに届きやしないのだから。










「それよりも私って、ルル王女の近衛兼侍女から外されたのかしら?」










「あ?」










「ここ何日か、ルル王女に会ってないの。近衛も侍女も、違う誰かが行ってるみたいでさ」










「いや?俺の方には何も連絡はないぞ」










「…虚仮こけにされたのかしら?」










「そんなことはないだろう。陛下に何か考えがあるのだろうさ」










何か考えがある?ないだろ。あの千景くんだ、何も考えてないに違いない。と思ったけれど、違う意味であの千景くん今世の千景だとしたら、ルル王女に執着していることも考えたら、何も考えてないわけがない。










ルル王女の自らの監視と陛下の監視。別々の意思と捉えるのではなく、二人がそれぞれの視点から監視をしていると考えれないこともない。蚊帳の外にされない為に、もしくは本来の監視の意味をもって私たちを見ているか。










「ーー多分だけど、この監視は新月の夜、鎮魂祭の日まで続く」










「なぜ?」










「蚊帳の外だからよ。一先ずの区切りとして鎮魂祭まで、って感じかしら」










「蚊帳の外?俺らを率いるんだから、そんなもん当然だろ」










さもありなん。










私たちらしい当然の言葉だ。しかし、それは一般的には通じないのが難しいところだ。私たちが後ろ暗いことすべて引き受けると言うのに、彼等は否と叫ぶ。己の手を血で染める必要がなくなると言うのに、彼等は否と言う。










「当然っちゃあ当然なんだけど、彼等からしたら当然じゃないのよ。エノクの民という言葉だけで、すべてを片付けるのも納得いかないらしいし」










「それは、俺たちの勝手だろう?エノクの民という言葉が、俺たちを一生涯縛り続けるのだから、それも当然のことだ」










「…私が悪いのかしら」










そう、何もかも当然のことなのに。彼等は是としない。私の言葉が悪いのかしらねぇ。押し付けすぎた?でも、エノクの民だし。受け入れた方が、向こうも楽になれるのに。










「ーーあ、丁度良いところにカイル団長も!」










「あれ、カイル兄上の部下よね?」










「あぁ。俺とお前を探しているらしいな」










「やだなあ、なんか嫌な予感」








走ってくる騎士を見つめて、私は溜め息をひとつ吐き出した。こりゃ練習は切り上げた方が良さそうだ。

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