ルーチェ
65.「全ては、自らが決めた君主の為に」
「……エノクの、怪物」
私の言葉によって、強制的に表へ連れて来られた覆面の侵入者たち。激しい魔力の揺れは困惑を示していた。そこまで困惑することないだろう、私たちエノクの怪物が此処へ入ったことを知らぬ筈がないのだから。
「さぁ、私に無理矢理吐かされるのが良いか」
「騎士団に尋問を受けさせられるのが良いか」
「私の手の平で踊らされるのが良いか」
「お姉様もお兄様も怖いことばかり。此処はひとつ穏便に行きませんか」
無表情にカイル兄上とイゼベル姉上は言い放つが、彼等に対してアマルティア様は微笑みながら言う。アマルティア様は、優しく砂糖菓子の様に甘い言葉を落とした。
「ふふ、此処は誰の国か分かった上での行いでしょう?」
砂糖菓子は摂取すればするほど、命を縮めていくということをご存知だろうか。多分、カイル兄上やイゼベル姉上より、アマルティア様の方が死に至らせるまでの時間は短いだろう。
「それ相応の言い分を聞きかせて頂かないと。どうかしら、ルー姉様」
「うちの姫様も随分と甘いですね。その優しさ、誰に似たんでしょう」
「きっと母様だわ」
「否定の仕様がございませんね」
王妃は、生温かな優しさを持っていた。そう、生温かな優しさである。言い変えるとすれば、真綿で首を絞めるような人だった。ジワジワと足元から炙って生と死の境を行き来させるそれは、バッチリとアマルティア様にも受け継がれていることだろう。
アマルティア様の優しい(仮)の言葉に、侵入者たちは何故か安堵したような雰囲気をまとう。可哀想に。まだ私に無理矢理吐かされた方が、何十倍も良かっただろうな。
「陛下にはあとで報告書をまとめて差し上げますわ。此処では、喋り難いですものね。お隣の部屋をお借りして、そこで話しましょう」
「…アマルティア様がそうおっしゃるなら、我等は護衛という名目で一切口を挟みませんが」
「あら、随分と大人しいことを言うのね。カイル兄様は」
「ルーティ、なぁにその冗談は。カイルが優しいですって?」
「優しいではありませんか。私のすることに口を出さない上に、護衛として傍に居てくれるだなんて」
「ルーティはまだまだねえ。私たち怪物の中で温和な者は居ないのよ?ふふ、見てごらんなさい。カイルのこの顔を」
のんびりと交わされる会話と着々と流れていく時間。刻一刻と迫る命の終焉。私は、段々と焦りを戸惑わせる覆面たちを見下ろしながら、のんびりと話をするアマルティア様に溜息を吐いた。
本当に、アマルティア様は王妃に似て生温いなぁ。
「――そこまでにして、さっさと殺っておいで」
「ルー姉様、」
「もう無駄な時間を費やすのはお止め」
「無駄ではありませんわ!彼等にとって最期のひと時ですのよ?」
「はいはい、見てるこっちからすれば無駄な時間には変わりないから」
「もう!カイル兄様、イゼベル姉様、行きましょう!ルー姉様に見せつけてやるんだから!!」
「「仰せのままに」」
紫紺の瞳を強気に光らせ私を睨みつけた後、カイル兄上とイゼベル姉上を連れて執務室を出た。その後を追う様に騎士たちが入って来て、覆面たちを引き摺ってフェードアウトしていく。
「……なんですか、今の」
「エノクの宝とその怪物ですが何か?」
「え、いや、そうじゃなくて」
「アマルティア様にお姫様要素を求めるだけ無駄です」
「……分かってるんじゃないか。というか、俺たちは蚊帳の外だったんだが」
海燕殿と陛下の呆れた様な顔に、私は肩を竦め苦笑を刻む。張本人たちが蚊帳の外。本来ならば、断じてありえないことである。
が、しかし。
「それを私たちが望むんだ。エノクとは従う者の意を持つ。全ては、自らが決めた君主の為に」
「お前等の言うことは分からんな。エノクの民、エノクの怪物、エノクの宝。その形容詞の全てで、お前等の存在を肯定させようとしている。否定も疑問も与えないように」
「それは人の捉え方によるわ。私たちは普通からかけ離れているのよ。エノクの民という特別な言葉がある限り、私たちはそれに縛られ囚われ続ける。けれど、私たちはエノクの民だから否定されないの」
「ソレとコレでは、話が違うけどな」
「なかなか伝わらないわねぇ。私が言いたいのは、サポートはするから好きにしなさいってことよ。背中は守ってあげる。大事な者も守ってあげる」
全ては、忠誠を誓った唯一の君主の為に。
私の言葉によって、強制的に表へ連れて来られた覆面の侵入者たち。激しい魔力の揺れは困惑を示していた。そこまで困惑することないだろう、私たちエノクの怪物が此処へ入ったことを知らぬ筈がないのだから。
「さぁ、私に無理矢理吐かされるのが良いか」
「騎士団に尋問を受けさせられるのが良いか」
「私の手の平で踊らされるのが良いか」
「お姉様もお兄様も怖いことばかり。此処はひとつ穏便に行きませんか」
無表情にカイル兄上とイゼベル姉上は言い放つが、彼等に対してアマルティア様は微笑みながら言う。アマルティア様は、優しく砂糖菓子の様に甘い言葉を落とした。
「ふふ、此処は誰の国か分かった上での行いでしょう?」
砂糖菓子は摂取すればするほど、命を縮めていくということをご存知だろうか。多分、カイル兄上やイゼベル姉上より、アマルティア様の方が死に至らせるまでの時間は短いだろう。
「それ相応の言い分を聞きかせて頂かないと。どうかしら、ルー姉様」
「うちの姫様も随分と甘いですね。その優しさ、誰に似たんでしょう」
「きっと母様だわ」
「否定の仕様がございませんね」
王妃は、生温かな優しさを持っていた。そう、生温かな優しさである。言い変えるとすれば、真綿で首を絞めるような人だった。ジワジワと足元から炙って生と死の境を行き来させるそれは、バッチリとアマルティア様にも受け継がれていることだろう。
アマルティア様の優しい(仮)の言葉に、侵入者たちは何故か安堵したような雰囲気をまとう。可哀想に。まだ私に無理矢理吐かされた方が、何十倍も良かっただろうな。
「陛下にはあとで報告書をまとめて差し上げますわ。此処では、喋り難いですものね。お隣の部屋をお借りして、そこで話しましょう」
「…アマルティア様がそうおっしゃるなら、我等は護衛という名目で一切口を挟みませんが」
「あら、随分と大人しいことを言うのね。カイル兄様は」
「ルーティ、なぁにその冗談は。カイルが優しいですって?」
「優しいではありませんか。私のすることに口を出さない上に、護衛として傍に居てくれるだなんて」
「ルーティはまだまだねえ。私たち怪物の中で温和な者は居ないのよ?ふふ、見てごらんなさい。カイルのこの顔を」
のんびりと交わされる会話と着々と流れていく時間。刻一刻と迫る命の終焉。私は、段々と焦りを戸惑わせる覆面たちを見下ろしながら、のんびりと話をするアマルティア様に溜息を吐いた。
本当に、アマルティア様は王妃に似て生温いなぁ。
「――そこまでにして、さっさと殺っておいで」
「ルー姉様、」
「もう無駄な時間を費やすのはお止め」
「無駄ではありませんわ!彼等にとって最期のひと時ですのよ?」
「はいはい、見てるこっちからすれば無駄な時間には変わりないから」
「もう!カイル兄様、イゼベル姉様、行きましょう!ルー姉様に見せつけてやるんだから!!」
「「仰せのままに」」
紫紺の瞳を強気に光らせ私を睨みつけた後、カイル兄上とイゼベル姉上を連れて執務室を出た。その後を追う様に騎士たちが入って来て、覆面たちを引き摺ってフェードアウトしていく。
「……なんですか、今の」
「エノクの宝とその怪物ですが何か?」
「え、いや、そうじゃなくて」
「アマルティア様にお姫様要素を求めるだけ無駄です」
「……分かってるんじゃないか。というか、俺たちは蚊帳の外だったんだが」
海燕殿と陛下の呆れた様な顔に、私は肩を竦め苦笑を刻む。張本人たちが蚊帳の外。本来ならば、断じてありえないことである。
が、しかし。
「それを私たちが望むんだ。エノクとは従う者の意を持つ。全ては、自らが決めた君主の為に」
「お前等の言うことは分からんな。エノクの民、エノクの怪物、エノクの宝。その形容詞の全てで、お前等の存在を肯定させようとしている。否定も疑問も与えないように」
「それは人の捉え方によるわ。私たちは普通からかけ離れているのよ。エノクの民という特別な言葉がある限り、私たちはそれに縛られ囚われ続ける。けれど、私たちはエノクの民だから否定されないの」
「ソレとコレでは、話が違うけどな」
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