ルーチェ
54.「寧ろ、良い傾向だと思うよ」
「…は?」
「妃候補の1人、琳国の第六王女ルルだ」
「…へぇー」
此処で、誤解がないために言っておこうと思うが琳国は、多分この周辺の国で、第六王女はそのままその琳国の国王の六番目の娘さん。で、陛下の妃候補らしいんだけど別にヤキモチのヤの字もなければ、嫉妬のシの字もない。
「ルルは魔力と好奇心が旺盛な奴でな…。あぁやって、月に4回は城の片隅をぶっ飛ばすんだ」
「それ、ただの教育不足だから。魔力と好奇心が旺盛って上手く言ったわね」
「俺よりは少ないんだが、如何せん俺並みに魔力の扱いが下手くそだ」
「それ、ただの教育不足。割と大事なことだからもう一回言うけど」
「あぁやって城の片隅をぶっ飛ばしたら3日は寝込む。重度の人見知りで、俺と翔陽、自国から連れて来た侍女にしか顔を見せん」
「ねぇ、聞いてるの?それ、ただの教育不足だからね?つか、陛下と第三皇子に顔見せできるんだ」
話を聞いていないのかと怒りたい気分だけど、なんかルル王女のことを言っている陛下を見てると、何にも言えない気分になる。なんだろう、頑張れって感じ?
「深い事情で説明は出来ないんだが、ルルも苦労してるんだよ」
「いや、それで話を締め括ろうとか思ってないでしょうね?会わせろよ」
「は?嫌だね、何でお前に会わせなきゃならんのだ」
「減るモンじゃないから良いだろうが。なんだ、出し惜しみ?見せ惜しみってかコラ」
「そうじゃねぇよ、なんで怒ってんだよ」
「ルル王女は可愛い可愛い子だと推測する。だから、会わせろ」
「命令すんな」
「あーもー…じゃぁ良いよ。勝手に見に行くわ」
「――ふざけるなよ、真夜」
ムキになった陛下に、投げやりで答えたのが失敗だったのか。そっちの名前で呼んじゃダメでしょうに。歪んでいた魔力が、ピリピリと肌を刺す。魔力だけは素直かって。
「いいね、その眼」
「真夜!!」
『昔の私』と絡んでいた男に向けていた眼だ。嫉妬の眼。いつの間に、彼はこんな目を私に向けるようになったんだろう。いや、別に良いんだけど。寧ろ、良い傾向だと思う。嬉しい。そんな素直な気持ちに、笑みが零れた。とりあえず、アンタはルル王女の所に行って来いよ。
「行っておいで、陛下。ルル王女が待ってるんじゃないの?」
「……チッ」
「こらこら、はしたない」
「…っせぇ」
「ふふ」
小さな小さな叫び声が聞こえる。誰にも気付かれない様な、そんな小さな声で。女の子が救いを求めて叫んでいるのだ。届けてあげよう、君の下に。君を救い上げてくれる黒い光を、連れて行ってあげよう。
去って行く陛下の背中。あぁ、あんなに逞しい背中をしているのか。情緒不安定な皇帝だけれど、大陸最強の名を欲しいままに振り翳す皇帝でもある。剣を握れば人が変わる所も、すぐにどうでも良い事で病む所も、前世から何も変わらないけれど―――彼も所詮、人の子なのだ。
「千景君、幸せになりなさいよ」
あの時、私たちの運命はそこで途絶えたのだ。こうして、巡り合ったけれど関係に名前はない。独りにしないと、勝手に消えないと、誓ったことは違えない。違う方法で、私は隣に居続けよう。
「―――…さて、どうやってルル王女と接触しようかなあ」
私は、誰も愛せないのだから。
「妃候補の1人、琳国の第六王女ルルだ」
「…へぇー」
此処で、誤解がないために言っておこうと思うが琳国は、多分この周辺の国で、第六王女はそのままその琳国の国王の六番目の娘さん。で、陛下の妃候補らしいんだけど別にヤキモチのヤの字もなければ、嫉妬のシの字もない。
「ルルは魔力と好奇心が旺盛な奴でな…。あぁやって、月に4回は城の片隅をぶっ飛ばすんだ」
「それ、ただの教育不足だから。魔力と好奇心が旺盛って上手く言ったわね」
「俺よりは少ないんだが、如何せん俺並みに魔力の扱いが下手くそだ」
「それ、ただの教育不足。割と大事なことだからもう一回言うけど」
「あぁやって城の片隅をぶっ飛ばしたら3日は寝込む。重度の人見知りで、俺と翔陽、自国から連れて来た侍女にしか顔を見せん」
「ねぇ、聞いてるの?それ、ただの教育不足だからね?つか、陛下と第三皇子に顔見せできるんだ」
話を聞いていないのかと怒りたい気分だけど、なんかルル王女のことを言っている陛下を見てると、何にも言えない気分になる。なんだろう、頑張れって感じ?
「深い事情で説明は出来ないんだが、ルルも苦労してるんだよ」
「いや、それで話を締め括ろうとか思ってないでしょうね?会わせろよ」
「は?嫌だね、何でお前に会わせなきゃならんのだ」
「減るモンじゃないから良いだろうが。なんだ、出し惜しみ?見せ惜しみってかコラ」
「そうじゃねぇよ、なんで怒ってんだよ」
「ルル王女は可愛い可愛い子だと推測する。だから、会わせろ」
「命令すんな」
「あーもー…じゃぁ良いよ。勝手に見に行くわ」
「――ふざけるなよ、真夜」
ムキになった陛下に、投げやりで答えたのが失敗だったのか。そっちの名前で呼んじゃダメでしょうに。歪んでいた魔力が、ピリピリと肌を刺す。魔力だけは素直かって。
「いいね、その眼」
「真夜!!」
『昔の私』と絡んでいた男に向けていた眼だ。嫉妬の眼。いつの間に、彼はこんな目を私に向けるようになったんだろう。いや、別に良いんだけど。寧ろ、良い傾向だと思う。嬉しい。そんな素直な気持ちに、笑みが零れた。とりあえず、アンタはルル王女の所に行って来いよ。
「行っておいで、陛下。ルル王女が待ってるんじゃないの?」
「……チッ」
「こらこら、はしたない」
「…っせぇ」
「ふふ」
小さな小さな叫び声が聞こえる。誰にも気付かれない様な、そんな小さな声で。女の子が救いを求めて叫んでいるのだ。届けてあげよう、君の下に。君を救い上げてくれる黒い光を、連れて行ってあげよう。
去って行く陛下の背中。あぁ、あんなに逞しい背中をしているのか。情緒不安定な皇帝だけれど、大陸最強の名を欲しいままに振り翳す皇帝でもある。剣を握れば人が変わる所も、すぐにどうでも良い事で病む所も、前世から何も変わらないけれど―――彼も所詮、人の子なのだ。
「千景君、幸せになりなさいよ」
あの時、私たちの運命はそこで途絶えたのだ。こうして、巡り合ったけれど関係に名前はない。独りにしないと、勝手に消えないと、誓ったことは違えない。違う方法で、私は隣に居続けよう。
「―――…さて、どうやってルル王女と接触しようかなあ」
私は、誰も愛せないのだから。
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