Pessimist in love ~ありふれた恋でいいから~
あの時の気持ち、今の想い (1)
10時半を過ぎた頃には、琴音は静かに寝息をたてていた。
私のために、飲めないお酒を一緒に飲んで盛り上げようとしてくれたんだと思う。
そんな琴音がなんとなくかわいくて、恵介がほっとけなかったのがちょっとわかる気がした。
「琴音、寝ちゃったね」
「ホントにしょうがないやつだな……」
恵介は琴音を抱き上げて、リビングの隣の寝室らしき部屋に運んだ。
こんなところはやっぱりお兄さんなんだなと微笑ましくなる。
私は残った料理を箱にしまい、使った食器をキッチンに運んで洗い物をした。
「ごめん、俺がやるよ」
「大丈夫。そんなにたいした量じゃないし」
グラスをスポンジで洗いながら答えると、恵介はジャケットを脱いでワイシャツの袖をまくり上げた。
着痩せして見えるのに、ほどよく筋肉がついた腕は男らしくて色っぽい。
あの腕に何度も抱きしめられたんだと思うとドキドキする。
「やっぱり手伝うよ。二人でやった方が早いから」
「うん……ありがとう」
優しいな、恵介は。
付き合っていたあの頃と、ちっとも変わっていない。
一緒にキッチンに立って洗い物をしていると、付き合っていた時のことを思い出す。
一緒に夕飯を食べた後は、いつも恵介と二人で洗い物をした。
洗い物が済んだ後は、他愛ない話をしながらコーヒーを飲んだっけ。
こんな風にしていると、今もまだ恵介と付き合っていると錯覚してしまいそうだ。
ずっとこのままでいられたらという私の願いも虚しく、あっという間に片付けが終わり、恵介はジャケットを着て帰り支度を始めた。
現実は厳しいな。
もう少し時間が過ぎるのがゆっくりならいいのに。
「帰ろうか。家まで送ってく」
「……うん、ありがとう」
11時を過ぎた頃、恵介が玄関の鍵を掛けて琴音の部屋を後にした。
恵介と琴音は、お互いの家の合鍵を持っているらしい。
何かあったらすぐに駆け付けられるように持っていてくれと、琴音に持たされたそうだ。
なんだかんだ言っても、仲のいい兄妹なんだな。
二人が兄妹なのだと知った今となっては、琴音が就職してからの7年近く恵介が世話を焼いていたことも、恵介の部屋に琴音のピアスのキャッチや髪の毛が落ちていたことにも納得が行く。
私は妹の琴音に嫉妬していたのか。
そんなことは知らなかったから、恵介は別れた後も琴音が好きなんだと思い込んでいた。
最初に言ってくれれば良かったのに、恵介はどうしてそれを隠していたんだろう?
恵介が車を停めた近くのコインパーキングまで、二人で黙ったまま歩いた。
付き合っていた頃と違い、恵介は私の手を繋いではくれない。
自分から恵介の手を握ろうかと何度も思ったけれど、迷惑がられるんじゃないかと思うとそんな勇気はなかった。
車に乗って走り出しても、恵介は黙ったまま前を向いてハンドルを握っている。
車内に流れる沈黙はぎこちなくて重苦しい。
話したいことや聞きたいことはたくさんあるのに、私の口からはひとつもその言葉が出てこない。
黙り込んだままで時間だけが過ぎて、どんどん私のマンションが近付いてくる。
このままもう会えないのかな。
『もしチャンスがあるなら、自分の気持ちはちゃんと伝えなよ。なんにもしないで後悔するよりその方が絶対いいから』
『幸も後悔したくないなら、その人にちゃんと気持ち伝えろよ』
巴と秋一の言葉が、頭の中で何度も何度も繰り返された。
もし今度恵介に会えたら、自分の気持ちを素直に伝えようと決心したはずなのに、私は拒まれることを恐れ、傷付くのが怖くて臆病になっている。
膝の上でギュッと両手を握りしめた。
せめて一言、好きだと伝えるだけでいい。
それ以上は何も望まないから。
恵介の幸せの邪魔はしないから。
神様、どうか臆病な私に勇気をください。
私のために、飲めないお酒を一緒に飲んで盛り上げようとしてくれたんだと思う。
そんな琴音がなんとなくかわいくて、恵介がほっとけなかったのがちょっとわかる気がした。
「琴音、寝ちゃったね」
「ホントにしょうがないやつだな……」
恵介は琴音を抱き上げて、リビングの隣の寝室らしき部屋に運んだ。
こんなところはやっぱりお兄さんなんだなと微笑ましくなる。
私は残った料理を箱にしまい、使った食器をキッチンに運んで洗い物をした。
「ごめん、俺がやるよ」
「大丈夫。そんなにたいした量じゃないし」
グラスをスポンジで洗いながら答えると、恵介はジャケットを脱いでワイシャツの袖をまくり上げた。
着痩せして見えるのに、ほどよく筋肉がついた腕は男らしくて色っぽい。
あの腕に何度も抱きしめられたんだと思うとドキドキする。
「やっぱり手伝うよ。二人でやった方が早いから」
「うん……ありがとう」
優しいな、恵介は。
付き合っていたあの頃と、ちっとも変わっていない。
一緒にキッチンに立って洗い物をしていると、付き合っていた時のことを思い出す。
一緒に夕飯を食べた後は、いつも恵介と二人で洗い物をした。
洗い物が済んだ後は、他愛ない話をしながらコーヒーを飲んだっけ。
こんな風にしていると、今もまだ恵介と付き合っていると錯覚してしまいそうだ。
ずっとこのままでいられたらという私の願いも虚しく、あっという間に片付けが終わり、恵介はジャケットを着て帰り支度を始めた。
現実は厳しいな。
もう少し時間が過ぎるのがゆっくりならいいのに。
「帰ろうか。家まで送ってく」
「……うん、ありがとう」
11時を過ぎた頃、恵介が玄関の鍵を掛けて琴音の部屋を後にした。
恵介と琴音は、お互いの家の合鍵を持っているらしい。
何かあったらすぐに駆け付けられるように持っていてくれと、琴音に持たされたそうだ。
なんだかんだ言っても、仲のいい兄妹なんだな。
二人が兄妹なのだと知った今となっては、琴音が就職してからの7年近く恵介が世話を焼いていたことも、恵介の部屋に琴音のピアスのキャッチや髪の毛が落ちていたことにも納得が行く。
私は妹の琴音に嫉妬していたのか。
そんなことは知らなかったから、恵介は別れた後も琴音が好きなんだと思い込んでいた。
最初に言ってくれれば良かったのに、恵介はどうしてそれを隠していたんだろう?
恵介が車を停めた近くのコインパーキングまで、二人で黙ったまま歩いた。
付き合っていた頃と違い、恵介は私の手を繋いではくれない。
自分から恵介の手を握ろうかと何度も思ったけれど、迷惑がられるんじゃないかと思うとそんな勇気はなかった。
車に乗って走り出しても、恵介は黙ったまま前を向いてハンドルを握っている。
車内に流れる沈黙はぎこちなくて重苦しい。
話したいことや聞きたいことはたくさんあるのに、私の口からはひとつもその言葉が出てこない。
黙り込んだままで時間だけが過ぎて、どんどん私のマンションが近付いてくる。
このままもう会えないのかな。
『もしチャンスがあるなら、自分の気持ちはちゃんと伝えなよ。なんにもしないで後悔するよりその方が絶対いいから』
『幸も後悔したくないなら、その人にちゃんと気持ち伝えろよ』
巴と秋一の言葉が、頭の中で何度も何度も繰り返された。
もし今度恵介に会えたら、自分の気持ちを素直に伝えようと決心したはずなのに、私は拒まれることを恐れ、傷付くのが怖くて臆病になっている。
膝の上でギュッと両手を握りしめた。
せめて一言、好きだと伝えるだけでいい。
それ以上は何も望まないから。
恵介の幸せの邪魔はしないから。
神様、どうか臆病な私に勇気をください。
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