Pessimist in love ~ありふれた恋でいいから~

櫻井音衣

親友の後押し (2)

「どういうこと?」

「幸も、その恵介って人も、お互いに相手に対する自分の気持ちなんか言ってないじゃん」

「言ってないけど……恵介が私を本気で好きじゃないのはわかってたから。私なんかより綺麗な人が周りにはたくさんいるんだよ?すごくモテるみたいだったし」

私がそう言うと、巴はまた苛立たしげに大きなため息をついて、勢いよくビールを煽った。

「いいか?よく聞け、幸。『私なんか』とか『どうせ』とか言うの、幸の悪い癖だ。幸は昔っからそう。私なんか地味で冴えないとか、なんの取り柄もないとか、自己評価が低すぎる」

「だって……ホントのことだし」

「だってじゃないの。それも昔から変わってない。自分を貶めて言い訳する暇があるなら、もっと自信持てる自分になる努力をしろ」

いつになく厳しい巴の言葉に、全身がビリビリする。

ショックとか怖いとかそういう感じじゃなくて、私の中で眠っていたものを叩き起こして目覚めさせるような、そんな感じだ。

「人にはそれぞれ、その人にしかない良さってものがあるの。幸は真面目で謙虚で、いつも何事に対しても一生懸命じゃん。見た目は確かに派手じゃないけど、無駄に自分を飾ってないだけで、別に地味じゃない。そのまんまの幸が私は好きだよ」

恵介もそんなことを言ってくれた。

自分で自分を否定するようなことは言ったらダメだよ、って。

人より足りない部分を見つけるたびに、どんどん自信がなくなっていく自分が嫌いだった。

私自身が嫌いだった私を、巴はそんな風に思ってくれていたんだと思うと、嬉しくてまた涙が溢れた。

「秋一だって、高野も片瀬も真里も、ついでに夏樹も、みんなそういう幸が好きなんだよ。それでも幸は自分で自分をけなして、これから先もずっと下を向いて生きてくの?」

言葉にならないほど嬉しくて、涙を拭いながら何度も首を横に振った。

巴は少し笑って、私の頭をそっと撫でた。

「夏樹のこととかいろいろあって、また傷付くのが怖かったんだろうけどさ。いくら身代わりとか言ったって、恵介って人は本物の夏樹じゃないんだよ?」

「うん……」

「どんな答が出るかはわからないけどさ、もしチャンスがあるなら、自分の気持ちはちゃんと伝えなよ。なんにもしないで後悔するより、その方が絶対いいから」

「チャンス……あるかな?」

「なければ作るんだよ!」

巴らしい言葉に思わず笑みがこぼれた。

親友の強気な後押しは、なんて心強いんだろう。

「それでもしダメだったら、巴が私を嫁にしてね」

「なんでだよ!何もしてないうちからダメだったらなんて考えないの!絶対落としてやるって思わないと!」

今はまだそこまでの自信はないけれど、巴のおかげで、ほんの少し前を向けるような気がした。

「幸みたいなの人のことをペシミストって言うんだよ。何事においても悲観する人」

「ペシミスト……。巴は?」

「私はオプティミストかな。基本的に、生きてりゃなんとかなるって思う。つらいことがあっても朝はくるし、悲しいことがあっても時間が経てば笑えるしね」

巴らしい言葉だ。

そうか、だから高校時代もテスト前日にカラオケに行ったりしてたんだな。

私は必死で机に向かって勉強していたと言うのに。

「巴ほどは人生を楽観視できないけどね。これからはもう少し顔上げて背筋伸ばしてみる」

「それ、仕事中はできてるんでしょ?その歳で役職に就くくらいだから」

「確かにそうかも……」

職場での私は、常に背筋を伸ばして顔を上げて笑っている。

なるほど、私は仕事に関しては自信があるらしい。

誰かのために役に立ちたいとか、お客様に幸せな結婚式の記憶を残して欲しいと思うからだ。

「私、変われるかな?」

「そう思った瞬間から変われるよ、人間は」

もし次に恵介と会えたなら、まっすぐに恵介の目を見て、誰の代わりでもないあなたが好きだと伝えたい。

それにはまず、自分を好きになることから始めよう。

私は、こんなに素敵な友達がいる私が好きだ。



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