Pessimist in love ~ありふれた恋でいいから~
親友の後押し (1)
翌日、金曜日の夜。
私はいつもの居酒屋で巴と会っていた。
夕べ遅くに巴から電話があって、仕事の後で飲みに行こうと誘われたからだ。
ちょうど仕事が終わる時間も早かったし、久しぶりに二人だけで飲むことにした。
飲み始めてすぐ、巴はほんの少し神妙な顔をしてタバコに火をつけた。
「昨日の夜、秋一から電話があった」
「秋一から?」
「プロポーズ、断ったんだって?」
「……うん」
巴は同級生のみんなと飲み会をした後からずっと、秋一から相談をされていたそうだ。
「秋一は昔も幸のことが好きだったもんね。あの頃もよく愚痴聞かされたな。なんで彼女のいる夏樹がいいんだろうって。俺の方が幸のこと好きなのにって、いつも言ってた」
「そうなの?」
「それを聞きながら、なんでアンタは、アンタを好きな私の気持ちに気付かないのって思ってた」
知らなかった。
巴は秋一が好きだったのか。
全然気付かなかった。
「今となってはそれも昔の話だけどね。それで……なんで秋一のプロポーズ断った?」
秋一が私にプロポーズしたことは知っているのに、断った理由は聞いていないのかな?
「秋一から聞かなかったの?」
「どうにもならないけど好きな人がいるんだっけ?」
なんだ、知ってるんじゃないか。
巴はジョッキをグイッと傾けてビールを飲んだ。
タバコは煙を漂わせながら、灰皿の中でだんだん短くなっていく。
「もしかしてそれ、夏樹のこと?」
「違うよ。夏樹のことはもう、私の中では終わってる。嫁とも仲良くやってるし」
「そうなんだ。じゃあ、忘れられない人って?私、聞いてないんだけど」
巴がそう言うのは当然だ。
付き合った経緯が特殊だったから、恵介のことは誰にも話していない。
恵介と付き合っている時は毎日恵介と一緒だったから、巴と会っていなかった。
「秋一ほどの優良物件を袖にするくらい好きなんでしょ。ちゃんと話して」
「うん……。話せば長くなるけど、いい?」
「いいに決まってる。そのつもりで来た」
「ちょっとね……出会い方が普通じゃなかったんだ」
それから私は、恵介と知り合った経緯を順を追って巴に話した。
『夏樹の代わりに』と言われて一夜を共にしたことや、夏樹と琴音へのささやかな仕返しを企てて付き合い始めたこと。
夏樹が私にしてくれなかったいろんなことを、恵介が夏樹の代わりにしてくれたこと。
最初は一人でいる寂しさを埋めてもらうだけのつもりだったのが、一緒にいるうちに夏樹の身代わりとしてではなく、恵介本人を好きになってしまったこと。
恵介の周りには、恵介に好意を寄せる綺麗な人がたくさんいたこと。
自分に自信がなくて好きだと言えなかったことや、私以外にも付き合っている人がいるかもと疑って不安になったこと。
想われてもいないのに、恵介の理想の彼女を演じていることも、一緒にいることもつらくなって、自ら別れを切り出したこと。
恵介との間に起こったことを話しているうちに、恵介と過ごした短い日々を思い出して涙が溢れた。
「離れたらそれで終わりにできると思ってたんだけどね……私の気持ちだけは全然終わりにできなかった。別れてから2か月以上経つのに、ずっと恵介のことばっかり考えてる」
巴はタバコの煙を吐き出しながら、呆れた様子でため息をついた。
「そりゃそうだよ。終われるわけないじゃん」
「……なんでそう思うの?」
「なんも始まってないのに、終われるわけないでしょ」
何も始まってないって……?
私と恵介はあんな形でも一応付き合ってたんだけど……。
私はいつもの居酒屋で巴と会っていた。
夕べ遅くに巴から電話があって、仕事の後で飲みに行こうと誘われたからだ。
ちょうど仕事が終わる時間も早かったし、久しぶりに二人だけで飲むことにした。
飲み始めてすぐ、巴はほんの少し神妙な顔をしてタバコに火をつけた。
「昨日の夜、秋一から電話があった」
「秋一から?」
「プロポーズ、断ったんだって?」
「……うん」
巴は同級生のみんなと飲み会をした後からずっと、秋一から相談をされていたそうだ。
「秋一は昔も幸のことが好きだったもんね。あの頃もよく愚痴聞かされたな。なんで彼女のいる夏樹がいいんだろうって。俺の方が幸のこと好きなのにって、いつも言ってた」
「そうなの?」
「それを聞きながら、なんでアンタは、アンタを好きな私の気持ちに気付かないのって思ってた」
知らなかった。
巴は秋一が好きだったのか。
全然気付かなかった。
「今となってはそれも昔の話だけどね。それで……なんで秋一のプロポーズ断った?」
秋一が私にプロポーズしたことは知っているのに、断った理由は聞いていないのかな?
「秋一から聞かなかったの?」
「どうにもならないけど好きな人がいるんだっけ?」
なんだ、知ってるんじゃないか。
巴はジョッキをグイッと傾けてビールを飲んだ。
タバコは煙を漂わせながら、灰皿の中でだんだん短くなっていく。
「もしかしてそれ、夏樹のこと?」
「違うよ。夏樹のことはもう、私の中では終わってる。嫁とも仲良くやってるし」
「そうなんだ。じゃあ、忘れられない人って?私、聞いてないんだけど」
巴がそう言うのは当然だ。
付き合った経緯が特殊だったから、恵介のことは誰にも話していない。
恵介と付き合っている時は毎日恵介と一緒だったから、巴と会っていなかった。
「秋一ほどの優良物件を袖にするくらい好きなんでしょ。ちゃんと話して」
「うん……。話せば長くなるけど、いい?」
「いいに決まってる。そのつもりで来た」
「ちょっとね……出会い方が普通じゃなかったんだ」
それから私は、恵介と知り合った経緯を順を追って巴に話した。
『夏樹の代わりに』と言われて一夜を共にしたことや、夏樹と琴音へのささやかな仕返しを企てて付き合い始めたこと。
夏樹が私にしてくれなかったいろんなことを、恵介が夏樹の代わりにしてくれたこと。
最初は一人でいる寂しさを埋めてもらうだけのつもりだったのが、一緒にいるうちに夏樹の身代わりとしてではなく、恵介本人を好きになってしまったこと。
恵介の周りには、恵介に好意を寄せる綺麗な人がたくさんいたこと。
自分に自信がなくて好きだと言えなかったことや、私以外にも付き合っている人がいるかもと疑って不安になったこと。
想われてもいないのに、恵介の理想の彼女を演じていることも、一緒にいることもつらくなって、自ら別れを切り出したこと。
恵介との間に起こったことを話しているうちに、恵介と過ごした短い日々を思い出して涙が溢れた。
「離れたらそれで終わりにできると思ってたんだけどね……私の気持ちだけは全然終わりにできなかった。別れてから2か月以上経つのに、ずっと恵介のことばっかり考えてる」
巴はタバコの煙を吐き出しながら、呆れた様子でため息をついた。
「そりゃそうだよ。終われるわけないじゃん」
「……なんでそう思うの?」
「なんも始まってないのに、終われるわけないでしょ」
何も始まってないって……?
私と恵介はあんな形でも一応付き合ってたんだけど……。
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