Pessimist in love ~ありふれた恋でいいから~
一人で大丈夫 (4)
振り返った恵介が、私の体を思い切り抱きしめた。
「おやすみのキス、してくれないか?最後くらいは幸からして欲しい」
「えっ……」
そんなことをしたら、私はきっと気持ちが抑えきれなくなる。
他に好きな人がいてもいいから、好きだから離さないでって、大声で泣いて叫んでしまうかも知れない。
何も言えずうつむいていると、恵介はゆっくりと私から手を離した。
私の体から恵介の温もりが失われていく。
「……なんてな、冗談。ごめん、また変なこと言って。これ以上嫌われないうちに今度こそ帰るわ。じゃあ……おやすみ」
恵介が出ていって、静かにドアが閉まった。
その途端、涙は堰を切ったようにとめどなく溢れてこぼれ落ちた。
私は恵介に他の人より好きになってもらえる自信がなくて、いつか私との恋人ごっこに飽きた恵介が離れていくのが怖くて、他の人と幸せになる姿を見たくなくて、自ら恵介と離れることを選んだ。
一緒に過ごした時間は短かったけど、私は確かに恵介に恋をした。
暇潰しの恋人ごっこなんかで私に触れて欲しくないと思うくらい、恵介のすべてを独占したかった。
恵介は嘘でも私を好きだとは一度も言わなかった。
「恵介……好き……大好き……」
どんなに泣いても、恵介と一緒に過ごした時間はもう戻らない。
自ら手放してしまった恵介の温もりを惜しむように、私は自分の肩をギュッと抱きしめた。
飲み会がお開きになり、みんなで居酒屋を出た。
みんな明日も仕事があるし、もう遅い時間なので二次会はしなかった。
居酒屋の前でバス通勤の片瀬と別れ、地下鉄の駅の前で巴と高野と真里と別れ、私と秋一は電車の駅まで一緒に歩いた。
駅へ向かう道のりで、また飲みに行こうと秋一が言った。
久しぶりにみんなに会えたのがよほど楽しかったんだな。
私も夕べはずっと一人で泣いていたけど、今日はみんなと会えて少し気が紛れた。
「私も久しぶりにみんなと会えて楽しかった。今度はもっとゆっくり飲みたいね」
私がそう言うと、秋一が立ち止まって私の方を見た。
「みんなと一緒もいいけど……今度は二人で食事にでも行かないか?」
秋一は少し照れくさそうに呟いた。
部屋に帰りシャワーを浴びて、ベッドの上に寝転んだ。
秋一、今度は二人で食事に行こうって言ってたな。
私なんかと二人で会って面白いだろうか?
秋一が学生時代に私のことが好きだったのは意外だった。
とは言え、お互いに昔と今では違うし、思い出は思い出に過ぎない。
恵介とのことは、どれくらい経てば思い出に変わるだろう?
まだ別れたばかりで、気持ちはまったく前に進めていない。
もう会えないし、もう会わないと決めたのは私なのに、今日もドアの前で恵介が待っているんじゃないかと、有りもしないことへの期待で胸が高鳴った。
もちろんそこには恵介どころか、犬や猫の一匹さえも待っていない。
一人でいるのって、こんなに寂しかったんだ。
寝返りを打ってため息をついたら、また涙がこぼれ落ちた。
フラれるってわかっていても、好きだってちゃんと言えば良かったのかな。
こんなことを考えたって、今更遅すぎる。
夏樹にも一度も気持ちを伝えなかった。
そして恵介には好きなのに嫌いだと言って、もう会いたくないと嘘をついた。
どうして私はいつも素直になれないんだろう。
昔も今も、何も起こらないうちから傷付くのを怖れて、先回りして逃げ出して、後悔ばかりしている。
ちっとも成長しないな、私は。
昔と全然変わってないって言うのは、あながち間違いじゃないのかも知れない。
「おやすみのキス、してくれないか?最後くらいは幸からして欲しい」
「えっ……」
そんなことをしたら、私はきっと気持ちが抑えきれなくなる。
他に好きな人がいてもいいから、好きだから離さないでって、大声で泣いて叫んでしまうかも知れない。
何も言えずうつむいていると、恵介はゆっくりと私から手を離した。
私の体から恵介の温もりが失われていく。
「……なんてな、冗談。ごめん、また変なこと言って。これ以上嫌われないうちに今度こそ帰るわ。じゃあ……おやすみ」
恵介が出ていって、静かにドアが閉まった。
その途端、涙は堰を切ったようにとめどなく溢れてこぼれ落ちた。
私は恵介に他の人より好きになってもらえる自信がなくて、いつか私との恋人ごっこに飽きた恵介が離れていくのが怖くて、他の人と幸せになる姿を見たくなくて、自ら恵介と離れることを選んだ。
一緒に過ごした時間は短かったけど、私は確かに恵介に恋をした。
暇潰しの恋人ごっこなんかで私に触れて欲しくないと思うくらい、恵介のすべてを独占したかった。
恵介は嘘でも私を好きだとは一度も言わなかった。
「恵介……好き……大好き……」
どんなに泣いても、恵介と一緒に過ごした時間はもう戻らない。
自ら手放してしまった恵介の温もりを惜しむように、私は自分の肩をギュッと抱きしめた。
飲み会がお開きになり、みんなで居酒屋を出た。
みんな明日も仕事があるし、もう遅い時間なので二次会はしなかった。
居酒屋の前でバス通勤の片瀬と別れ、地下鉄の駅の前で巴と高野と真里と別れ、私と秋一は電車の駅まで一緒に歩いた。
駅へ向かう道のりで、また飲みに行こうと秋一が言った。
久しぶりにみんなに会えたのがよほど楽しかったんだな。
私も夕べはずっと一人で泣いていたけど、今日はみんなと会えて少し気が紛れた。
「私も久しぶりにみんなと会えて楽しかった。今度はもっとゆっくり飲みたいね」
私がそう言うと、秋一が立ち止まって私の方を見た。
「みんなと一緒もいいけど……今度は二人で食事にでも行かないか?」
秋一は少し照れくさそうに呟いた。
部屋に帰りシャワーを浴びて、ベッドの上に寝転んだ。
秋一、今度は二人で食事に行こうって言ってたな。
私なんかと二人で会って面白いだろうか?
秋一が学生時代に私のことが好きだったのは意外だった。
とは言え、お互いに昔と今では違うし、思い出は思い出に過ぎない。
恵介とのことは、どれくらい経てば思い出に変わるだろう?
まだ別れたばかりで、気持ちはまったく前に進めていない。
もう会えないし、もう会わないと決めたのは私なのに、今日もドアの前で恵介が待っているんじゃないかと、有りもしないことへの期待で胸が高鳴った。
もちろんそこには恵介どころか、犬や猫の一匹さえも待っていない。
一人でいるのって、こんなに寂しかったんだ。
寝返りを打ってため息をついたら、また涙がこぼれ落ちた。
フラれるってわかっていても、好きだってちゃんと言えば良かったのかな。
こんなことを考えたって、今更遅すぎる。
夏樹にも一度も気持ちを伝えなかった。
そして恵介には好きなのに嫌いだと言って、もう会いたくないと嘘をついた。
どうして私はいつも素直になれないんだろう。
昔も今も、何も起こらないうちから傷付くのを怖れて、先回りして逃げ出して、後悔ばかりしている。
ちっとも成長しないな、私は。
昔と全然変わってないって言うのは、あながち間違いじゃないのかも知れない。
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