Pessimist in love ~ありふれた恋でいいから~
もうやめる (2)
いくら琴音が奔放でも、自ら捨てた元カレのところに出戻りするとは思えない。
過去を振り返って、『もしも』とか、『あの時こうしていたら』とか『こんなことを言わなければ』とか、どれだけ考えたってなんの役にも立たないのはわかってる。
夏樹と琴音はお互いが好きで結婚したんだから、幸せになってくれればそれでいいじゃないか。
人の不幸を願うようなバカげたこと考えるのは、もうやめよう。
「新婚さんはいいねぇ……ラブラブで。お願いだから、あっという間に離婚とかやめてよ」
少し皮肉を言ってやったつもりなのに、琴音はそれをものともせず笑った。
「大丈夫だよー。今度、友達と一緒に遊びに来てね」
「友達と一緒に、って?」
「夏樹とは高校の同級生なんでしょ?」
「そうだけど……」
あれ?何この感じ。
同級生なのは間違いないけど……それ以上に触れるべき場所があるでしょ?
夏樹は3年も私の部屋を定宿にして、私を都合のいい女にしてたんだよ?
「幸とは高校の時から特に仲が良かったって聞いてるよ。もしかして高校時代に付き合ってたりした?」
「は……?いや、それはないけど……」
ちょっと待ってよ、それ本気で言ってる?!
それとも私を試してるの?
琴音が真相を知らずにそう言ったのか、何もかも知った上でわざとそう言ったのか、まったくわからない。
一体どういうつもりなのだろうと様子を窺っていると、琴音がいつもの癖で耳たぶを触りながら、何か思い出した様子で「ああ」と呟いた。
「そうだ、いつの間にかピアスのキャッチが外れて落としちゃったみたいんだよね。この辺で見掛けなかった?」
「キャッチ?」
「耳たぶの裏側でピアスを留める小さい金具。たまに髪に引っ掛かったりして外れちゃうんだよね」
小さい金具?
髪に引っ掛かって外れる?
琴音は反対側の耳からピアスを外して手のひらに乗せ、私に見せた。
「これだよ。小さいから、落とすと見つけるの大変なんだ。この辺に落ちてなかった?」
あっ、これ……もしかして……。
「ここでは見てないよ」
「そうかぁ……。もし見掛けたら教えて」
「……うん」
ここでは見ていない。
見掛けたのはここじゃなくて、恵介の家の洗面所だ。
そう言えばあの髪の毛、色も長さも琴音の髪と似ている気がする。
ということは……もしかして琴音は、今も恵介の部屋に出入りしてるの?!
でも琴音は夏樹とうまく新婚生活を送っているはず。
どういうこと?
だんだん頭が混乱してきた。
「福多主任、中村様がお見えです」
サロンから呼びに来た西野さんの声に驚き、肩がビクッと跳ね上がった。
「あっ……はい、すぐ行きます」
「行ってらっしゃーい。私は次の予約までしばらく時間があるから、少し早いけどこのまま昼休憩に入るね」
「ああ……うん」
事務所を出てサロンへ向かって歩きながら、両頬を軽く叩いた。
とりあえず今は仕事に集中しなくちゃ。
余計なことを考えちゃダメだ。
今更考えてもどうしようもないことで悩むより、私には今やるべきことがたくさんあるんだから。
サロンが閉館時間を迎えて少し経った頃、今日最後のカップルを送り出した。
今日は担当しているカップルの予約が多かったので、ブライダルフェアの準備が思うように進まなかった。
でも原因はそれだけじゃないことは自覚している。
ふとした時に恵介と琴音のことが頭を駆け巡り、仕事が手につかなかったのだ。
一緒に残業していた西野さんが退社した後、一人でパソコンに向かっているとスマホが鳴った。
スマホの画面にはメール受信の通知が表示されている。
メールは恵介からだった。
スマホは何度も鳴っていたけど、私はそれを無視し続けた。
仕事をしながらふと思い出したのは、夏樹と琴音の結婚式の打ち合わせをした時のことだ。
二人のなれそめを紹介するにあたり、司会者を交えて打ち合わせをすることになった。
その前日の夜遅く、出会い方が出会い方だから、二人のなれそめを捏造するけどいいかと夏樹から電話があった。
そして前日から琴音は熱を出して欠勤していたから、翌日も夏樹が一人で打ち合わせに行くと言った。
翌日、夏樹と私と司会者の3人で打ち合わせをした。
2年前に友人の紹介で出会ったとか、それから夏樹が積極的にアプローチして付き合い始めたとか、夏樹の捏造だと思っていたなれそめは、実は本当のことだったのかも知れない。
過去を振り返って、『もしも』とか、『あの時こうしていたら』とか『こんなことを言わなければ』とか、どれだけ考えたってなんの役にも立たないのはわかってる。
夏樹と琴音はお互いが好きで結婚したんだから、幸せになってくれればそれでいいじゃないか。
人の不幸を願うようなバカげたこと考えるのは、もうやめよう。
「新婚さんはいいねぇ……ラブラブで。お願いだから、あっという間に離婚とかやめてよ」
少し皮肉を言ってやったつもりなのに、琴音はそれをものともせず笑った。
「大丈夫だよー。今度、友達と一緒に遊びに来てね」
「友達と一緒に、って?」
「夏樹とは高校の同級生なんでしょ?」
「そうだけど……」
あれ?何この感じ。
同級生なのは間違いないけど……それ以上に触れるべき場所があるでしょ?
夏樹は3年も私の部屋を定宿にして、私を都合のいい女にしてたんだよ?
「幸とは高校の時から特に仲が良かったって聞いてるよ。もしかして高校時代に付き合ってたりした?」
「は……?いや、それはないけど……」
ちょっと待ってよ、それ本気で言ってる?!
それとも私を試してるの?
琴音が真相を知らずにそう言ったのか、何もかも知った上でわざとそう言ったのか、まったくわからない。
一体どういうつもりなのだろうと様子を窺っていると、琴音がいつもの癖で耳たぶを触りながら、何か思い出した様子で「ああ」と呟いた。
「そうだ、いつの間にかピアスのキャッチが外れて落としちゃったみたいんだよね。この辺で見掛けなかった?」
「キャッチ?」
「耳たぶの裏側でピアスを留める小さい金具。たまに髪に引っ掛かったりして外れちゃうんだよね」
小さい金具?
髪に引っ掛かって外れる?
琴音は反対側の耳からピアスを外して手のひらに乗せ、私に見せた。
「これだよ。小さいから、落とすと見つけるの大変なんだ。この辺に落ちてなかった?」
あっ、これ……もしかして……。
「ここでは見てないよ」
「そうかぁ……。もし見掛けたら教えて」
「……うん」
ここでは見ていない。
見掛けたのはここじゃなくて、恵介の家の洗面所だ。
そう言えばあの髪の毛、色も長さも琴音の髪と似ている気がする。
ということは……もしかして琴音は、今も恵介の部屋に出入りしてるの?!
でも琴音は夏樹とうまく新婚生活を送っているはず。
どういうこと?
だんだん頭が混乱してきた。
「福多主任、中村様がお見えです」
サロンから呼びに来た西野さんの声に驚き、肩がビクッと跳ね上がった。
「あっ……はい、すぐ行きます」
「行ってらっしゃーい。私は次の予約までしばらく時間があるから、少し早いけどこのまま昼休憩に入るね」
「ああ……うん」
事務所を出てサロンへ向かって歩きながら、両頬を軽く叩いた。
とりあえず今は仕事に集中しなくちゃ。
余計なことを考えちゃダメだ。
今更考えてもどうしようもないことで悩むより、私には今やるべきことがたくさんあるんだから。
サロンが閉館時間を迎えて少し経った頃、今日最後のカップルを送り出した。
今日は担当しているカップルの予約が多かったので、ブライダルフェアの準備が思うように進まなかった。
でも原因はそれだけじゃないことは自覚している。
ふとした時に恵介と琴音のことが頭を駆け巡り、仕事が手につかなかったのだ。
一緒に残業していた西野さんが退社した後、一人でパソコンに向かっているとスマホが鳴った。
スマホの画面にはメール受信の通知が表示されている。
メールは恵介からだった。
スマホは何度も鳴っていたけど、私はそれを無視し続けた。
仕事をしながらふと思い出したのは、夏樹と琴音の結婚式の打ち合わせをした時のことだ。
二人のなれそめを紹介するにあたり、司会者を交えて打ち合わせをすることになった。
その前日の夜遅く、出会い方が出会い方だから、二人のなれそめを捏造するけどいいかと夏樹から電話があった。
そして前日から琴音は熱を出して欠勤していたから、翌日も夏樹が一人で打ち合わせに行くと言った。
翌日、夏樹と私と司会者の3人で打ち合わせをした。
2年前に友人の紹介で出会ったとか、それから夏樹が積極的にアプローチして付き合い始めたとか、夏樹の捏造だと思っていたなれそめは、実は本当のことだったのかも知れない。
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