Pessimist in love ~ありふれた恋でいいから~
地味女、モテ男とデートする (1)
2日後、水曜日の夕方。
私は仕事帰りの恵介と駅前で待ち合わせて百貨店に足を運んだ。
ここでも恵介は当たり前のように手を繋いで指を絡めて歩く。
他のカップルもそうして歩いているのを見ると、世間ではこれが当たり前なんだろうか。
「好きなブランドとかある?」
「ブランドにはこだわらない……って言うか、あまりよく知らない」
「幸らしいな」
私は同世代の女性に比べて流行りやブランドには疎いと思うし、普段は百貨店で買い物なんかしない。
たとえデザインが気に入っても、値札を見ると卒倒しそうになるから。
それを考えると、値札も見ずにバレッタを買ったことは、私にとってかなりの冒険だったんだとつくづく思う。
「あっ、これなんかいいんじゃないか?」
恵介は深いピンク色のシュシュを手にとって私の髪にあてがった。
洋服にしろ髪飾りにしろ、ピンク色の物は自分ではあまり選ばない。
私が選ぶのは、ベージュとかグレーとか、黒とか紺とか白とか茶色とか、とにかく地味で無難な色ばかりだ。
「うん、思った通りよく似合う」
「派手じゃない?」
「そんなことないよ、落ち着いた色だから。大人の女性って感じがする。めっちゃ仕事できそう」
シュシュひとつでそこまで想像する?
仕事に関しては真面目にやってきたから他の同期よりも早く役職に就いたけど、自分では仕事ができるとは思っていない。
ただひたすら、どうすればお客様にとって幸せな結婚式の思い出を残せるのか、必死で考えているだけ。
その分お客様に提示するプランを作るには時間も掛かるし、多少の無理は否めない。
それでも紆余曲折の末に、挙式を終えたお客様に幸せそうな顔で“ありがとう”とお礼を言われると、その疲れも一気に吹き飛んで幸せな気持ちになる。
夏樹と琴音の結婚式のプランを作るにはかなり神経を削ったけれど、これも仕事だと思うとなんとか乗りきれた。
同期の半数以上が既に退職して、その何割かが寿退職だったことを考えると、私は真面目で当分結婚なんかしなさそうだから役職に就けたのかも知れない。
あとは名前が独り歩きして、式場利用者の紹介がやけに多いと言う理由くらいしか思い浮かばない。
「こんなのもいいなぁ」
恵介は淡い紫色のフワフワしたリボンを手に取った。
紫色はハードル高過ぎやしないかな?
紫色のものなんて、中学の運動会で使ったクラスカラーのハチマキ以来だと思う。
「おお、かなりいい」
「嘘だぁ……」
「ホント。見てみな、よく似合うから」
恵介はリボンを私の髪にあてがって、ショーケースの上にあった鏡をこちらに向けた。
「あ……思ったより派手じゃないかも」
「だろ?幸は自分の枠を狭め過ぎなんだよ。もっと拡げていこう。幸が気後れして選ばなかっただけで、割となんでも似合うよ」
そうなのかな?
たしかにこんな色は自分では選ばなかったし、地味な私には似合わないと決めつけて、手に取ったこともなかった。
色味が増すことで、不思議と気持ちが上がると言うか、ウキウキした気分になる。
「恵介がそう言うなら、ちょっとだけ新しい物に挑戦してみようかな?」
「そうしな。変化した自分を受け入れると、どんどんいい女になるから」
いい女って……。
そこにたどり着くには、相当長い道のりだと思う。
恵介が選んでくれたピンクのシュシュと、紫色のリボンを持ってレジに向かった。
そういえば値札見てなかったな。
こういうところで買うと、髪飾りひとつで何千円もしたりする。
贅沢だと思わなくもないけど、たまには自分に投資するのも悪くはないか。
その分、大切に長く使おう。
レジを通すと、やはり小市民な私には卒倒しそうな値段だった。
いやいや、今日は思いきって買い物するって決めたんだ。
これくらいで怯んではいけない。
財布を出そうとすると、それより早く恵介がカードで会計を済ませてしまった。
恵介は何食わぬ顔で伝票にサインをして、買った商品の入った紙袋を受け取った。
「恵介……!私、ちゃんと自分で払うつもりだったのに!」
「いいって。これは俺からのプレゼントってことで」
誕生日でもないし、もし誕生日だったとしても、私には恵介からプレゼントをされる理由はない。
そこらの100均で買った安物とはわけが違う。
「やっぱり払う。こんな高いもの、理由もないのにもらえないよ」
「理由は俺が幸に付けて欲しかったから。それでいいじゃん」
「えーっ……そんなの理由にならないよ……」
「いいから。じゃあ、後でお礼ちょうだい」
お礼って……レストランで食事とか?
それとも恵介にもネクタイとか財布とか、何かプレゼントした方がいい?
なんにせよ、厚意を無下に断るのは逆に失礼だし申し訳ない。
恵介の気持ちは嬉しいし、ここは素直に受け取っておくことにしよう。
「わかった。お礼は何がいい?」
「後で言うよ」
今言ってくれないと、何を買えばいいかわからない。
もしかして私に気を遣ってる?
変な気を遣わなくてもお金ならそれなりに蓄えているし、結婚とか海外旅行をする予定もないから、まとまったお金を遣う予定も当分ないのに。
喫煙室の前を通りかかった時、恵介が立ち止まった。
「タバコ吸ってきていい?」
「うん。そこのベンチに座って待ってる」
一人でベンチに座ってぼんやりしていると、OL風の女子二人組が話しながら歩いてきて私の前を通り掛かった。
「さっき富永さんが女の人と歩いてたんだけど!しかも手繋いでた」
「えっ、嘘?!あの富永さんがそんなことするの?」
“富永さん”の言葉に反応して、思わず聞き耳を立てた。
もしかしたら恵介と同じ会社の人なのかも知れない。
私と手を繋いで歩いてるの見られたの、まずかったかな?
私は仕事帰りの恵介と駅前で待ち合わせて百貨店に足を運んだ。
ここでも恵介は当たり前のように手を繋いで指を絡めて歩く。
他のカップルもそうして歩いているのを見ると、世間ではこれが当たり前なんだろうか。
「好きなブランドとかある?」
「ブランドにはこだわらない……って言うか、あまりよく知らない」
「幸らしいな」
私は同世代の女性に比べて流行りやブランドには疎いと思うし、普段は百貨店で買い物なんかしない。
たとえデザインが気に入っても、値札を見ると卒倒しそうになるから。
それを考えると、値札も見ずにバレッタを買ったことは、私にとってかなりの冒険だったんだとつくづく思う。
「あっ、これなんかいいんじゃないか?」
恵介は深いピンク色のシュシュを手にとって私の髪にあてがった。
洋服にしろ髪飾りにしろ、ピンク色の物は自分ではあまり選ばない。
私が選ぶのは、ベージュとかグレーとか、黒とか紺とか白とか茶色とか、とにかく地味で無難な色ばかりだ。
「うん、思った通りよく似合う」
「派手じゃない?」
「そんなことないよ、落ち着いた色だから。大人の女性って感じがする。めっちゃ仕事できそう」
シュシュひとつでそこまで想像する?
仕事に関しては真面目にやってきたから他の同期よりも早く役職に就いたけど、自分では仕事ができるとは思っていない。
ただひたすら、どうすればお客様にとって幸せな結婚式の思い出を残せるのか、必死で考えているだけ。
その分お客様に提示するプランを作るには時間も掛かるし、多少の無理は否めない。
それでも紆余曲折の末に、挙式を終えたお客様に幸せそうな顔で“ありがとう”とお礼を言われると、その疲れも一気に吹き飛んで幸せな気持ちになる。
夏樹と琴音の結婚式のプランを作るにはかなり神経を削ったけれど、これも仕事だと思うとなんとか乗りきれた。
同期の半数以上が既に退職して、その何割かが寿退職だったことを考えると、私は真面目で当分結婚なんかしなさそうだから役職に就けたのかも知れない。
あとは名前が独り歩きして、式場利用者の紹介がやけに多いと言う理由くらいしか思い浮かばない。
「こんなのもいいなぁ」
恵介は淡い紫色のフワフワしたリボンを手に取った。
紫色はハードル高過ぎやしないかな?
紫色のものなんて、中学の運動会で使ったクラスカラーのハチマキ以来だと思う。
「おお、かなりいい」
「嘘だぁ……」
「ホント。見てみな、よく似合うから」
恵介はリボンを私の髪にあてがって、ショーケースの上にあった鏡をこちらに向けた。
「あ……思ったより派手じゃないかも」
「だろ?幸は自分の枠を狭め過ぎなんだよ。もっと拡げていこう。幸が気後れして選ばなかっただけで、割となんでも似合うよ」
そうなのかな?
たしかにこんな色は自分では選ばなかったし、地味な私には似合わないと決めつけて、手に取ったこともなかった。
色味が増すことで、不思議と気持ちが上がると言うか、ウキウキした気分になる。
「恵介がそう言うなら、ちょっとだけ新しい物に挑戦してみようかな?」
「そうしな。変化した自分を受け入れると、どんどんいい女になるから」
いい女って……。
そこにたどり着くには、相当長い道のりだと思う。
恵介が選んでくれたピンクのシュシュと、紫色のリボンを持ってレジに向かった。
そういえば値札見てなかったな。
こういうところで買うと、髪飾りひとつで何千円もしたりする。
贅沢だと思わなくもないけど、たまには自分に投資するのも悪くはないか。
その分、大切に長く使おう。
レジを通すと、やはり小市民な私には卒倒しそうな値段だった。
いやいや、今日は思いきって買い物するって決めたんだ。
これくらいで怯んではいけない。
財布を出そうとすると、それより早く恵介がカードで会計を済ませてしまった。
恵介は何食わぬ顔で伝票にサインをして、買った商品の入った紙袋を受け取った。
「恵介……!私、ちゃんと自分で払うつもりだったのに!」
「いいって。これは俺からのプレゼントってことで」
誕生日でもないし、もし誕生日だったとしても、私には恵介からプレゼントをされる理由はない。
そこらの100均で買った安物とはわけが違う。
「やっぱり払う。こんな高いもの、理由もないのにもらえないよ」
「理由は俺が幸に付けて欲しかったから。それでいいじゃん」
「えーっ……そんなの理由にならないよ……」
「いいから。じゃあ、後でお礼ちょうだい」
お礼って……レストランで食事とか?
それとも恵介にもネクタイとか財布とか、何かプレゼントした方がいい?
なんにせよ、厚意を無下に断るのは逆に失礼だし申し訳ない。
恵介の気持ちは嬉しいし、ここは素直に受け取っておくことにしよう。
「わかった。お礼は何がいい?」
「後で言うよ」
今言ってくれないと、何を買えばいいかわからない。
もしかして私に気を遣ってる?
変な気を遣わなくてもお金ならそれなりに蓄えているし、結婚とか海外旅行をする予定もないから、まとまったお金を遣う予定も当分ないのに。
喫煙室の前を通りかかった時、恵介が立ち止まった。
「タバコ吸ってきていい?」
「うん。そこのベンチに座って待ってる」
一人でベンチに座ってぼんやりしていると、OL風の女子二人組が話しながら歩いてきて私の前を通り掛かった。
「さっき富永さんが女の人と歩いてたんだけど!しかも手繋いでた」
「えっ、嘘?!あの富永さんがそんなことするの?」
“富永さん”の言葉に反応して、思わず聞き耳を立てた。
もしかしたら恵介と同じ会社の人なのかも知れない。
私と手を繋いで歩いてるの見られたの、まずかったかな?
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