Pessimist in love ~ありふれた恋でいいから~
チョコレートとキス (4)
「幸……今日、つらかった?」
「……なんで?」
「ちょっと元気ないし……それに、あのチョコ」
「チョコ?」
「リゾート地のお土産の安いマカダミアナッツチョコじゃないからとか、苦い思い出を噛みしめなくてもいいようにとか言ってたし……。それに幸の性格からして、普段はあんな高いもの、自分だけのために買わないよね?」
私のことなんかまだよく知らないはずなのに、恵介にはなんでもお見通しらしい。
琴音が新婚旅行のお土産にマカダミアナッツチョコを買ってきたことや、職場でのろけまくっていたことにも気付いてるんだろう。
「恵介って、やな男だね」
「俺が?なんで?」
「なんにも話してないのに見透かされたんじゃ、隠し事のひとつもできない」
私がそう言うと、恵介はニヤッと笑った。
「俺、結構鋭いからね。ちょっとした変化にもすぐ気付く。浮気なんかしたら黙ってても俺にはすぐバレるからな」
なるほど、その鋭さで琴音の度重なる浮気にもすぐ気付いたんだ。
だから琴音は恵介に気付かれないうちに急いで夏樹と結婚したのかも。
「そんなことしないよ……って言うか、私は琴音と違ってモテないからね。浮気なんかしたくてもできないんだけど」
冗談めかして言っても、やっぱり卑屈な言葉ばかりがこぼれてしまう。
たくさんの人に愛されたいとか、彼氏にないものを他の人に求めようとは思わない。
ドラマみたいに波乱に満ちた恋とか、スリルに身を焦がすような激しい恋とか、シンデレラストーリーみたいな甘い恋じゃなくていい。
どこにでも転がっていそうなありふれた恋でいいから、私はただ、愛する人に愛されて穏やかに暮らしたい。
それだけなんだけどな。
夏樹に好きになってもらえなかったのは私に魅力がなかったからだろうし、それは仕方ないとしても、別の人と幸せそうにしている姿を見せられたり聞かされたりするのは、正直つらい。
昼間に耳にした、幸せそうに新婚旅行の話をする琴音の笑い声を思い出して、目の前がじわりとぼやけた。
泣いてもどうにもならないのに、涙が溢れてこぼれ落ちた。
「幸……?」
恵介が心配そうに私の顔を覗き込んだ。
「なんでもない!」
慌てて涙を拭おうとすると、恵介は膝の上で私を横抱きにしてギュッと抱きしめた。
「俺は幸の思ってること、もっと知りたい。無理して隠さないで話してよ。いくらでも付き合うから」
恵介は優しい。
お互いの目的を果たしてしまえばきっと離れていくとわかっているのに、こんなに優しくされたら勘違いしてしまいそうだ。
だけど今だけは、嘘でもいいから、恵介の優しさに溺れたいと思う弱い私がいる。
「二人であんなところに行ったとか、夏樹にこんなことしてもらったとか、聞きたくもないのに散々のろけ話聞かされてさ……。なんでこんな目にあうんだろう?一体私が何したって言うんだろうねぇ……」
恵介は文句も言わず、泣きながら愚痴を吐き出すみっともない私を抱きしめて、優しく頭を撫でてくれた。
「私は夏樹と一緒にいられたら……それだけで良かったのに」
「……そっか、俺もだ」
恵介も本当は今でも琴音が好きで、裏切られて傷付いてるのかな?
優しくしてくれるのは、同じ立場の私をほっておけないからなのかも知れない。
恵介の優しさに慣れて溺れてしまわないように、指先で涙を拭って顔を上げた。
「ありがと、恵介。つまんない愚痴に付き合わせてごめん。おかげでちょっとスッキリした」
「なんだ、もういいの?」
「うん。付き合ってくれたお礼に、カリスマショコラティエの高級チョコ食べさせてあげる」
「口移しで?」
「それはしない」
もう一度コーヒーを淹れた。
今度は苦すぎない、ちゃんとしたコーヒーを。
テーブルの上で箱を開けると、チョコの甘い香りがコーヒーの香りと混じり合った。
「いい香り。どれも綺麗で美味しそうだね。恵介、どれ食べたい?」
「迷うな。幸が選んでよ」
見た目だけで適当に選んだから、どれがなんの味とか、中に何が入っているとかは覚えていない。
だけど琴音が新婚旅行のお土産に買ってきたマカダミアナッツチョコよりは、間違いなく数十倍は美味しいはずだ。
「じゃあ……これかな?」
オレンジのジュレの上にオレンジピールが添えられたチョコを指先でつまんで、恵介の口元に運んだ。
「はい。口開けて」
「そこは“アーン”じゃないの?」
意外と甘えん坊なんだな。
いい歳して“アーン”は恥ずかしいでしょ。
「……口開けて。早くしないと体温で溶ける」
「……まぁいいか」
恵介が口を開けて、私の手からチョコを食べた。
柄にもなく恋人っぽいことしているなと思うと、なんだか無性に照れくさい。
「美味しい?」
「美味しいよ。味見する?」
「え?味見って……」
もう食べたのに味見なんてできるわけないでしょ?と言うより早く、恵介が私の唇を塞いだ。
私の唇をこじ開けて入ってきた恵介の甘い舌が、味わえと言わんばかりに私の舌を絡め取る。
文字通りの甘いキスにクラクラした。
恵介って、なんの恥ずかしげもなくこういうことしちゃう人なんだ。
私には刺激が強すぎる……!!
チョコの味がしなくなるほど長いキスの後、恵介は意地悪く笑いながら、私の唇の端についたチョコを指先で拭った。
「美味しかった?」
「バカ……。やっぱりもうあげない!」
「俺はチョコより幸とキスする方がいいな。もっとする?」
「……しません」
最初はもっとクールな人だと思ってたのに、知れば知るほど激甘だ。
チョコの甘い香りと、恵介の刺激的な甘さに酔ってしまいそうな気がした。
「……なんで?」
「ちょっと元気ないし……それに、あのチョコ」
「チョコ?」
「リゾート地のお土産の安いマカダミアナッツチョコじゃないからとか、苦い思い出を噛みしめなくてもいいようにとか言ってたし……。それに幸の性格からして、普段はあんな高いもの、自分だけのために買わないよね?」
私のことなんかまだよく知らないはずなのに、恵介にはなんでもお見通しらしい。
琴音が新婚旅行のお土産にマカダミアナッツチョコを買ってきたことや、職場でのろけまくっていたことにも気付いてるんだろう。
「恵介って、やな男だね」
「俺が?なんで?」
「なんにも話してないのに見透かされたんじゃ、隠し事のひとつもできない」
私がそう言うと、恵介はニヤッと笑った。
「俺、結構鋭いからね。ちょっとした変化にもすぐ気付く。浮気なんかしたら黙ってても俺にはすぐバレるからな」
なるほど、その鋭さで琴音の度重なる浮気にもすぐ気付いたんだ。
だから琴音は恵介に気付かれないうちに急いで夏樹と結婚したのかも。
「そんなことしないよ……って言うか、私は琴音と違ってモテないからね。浮気なんかしたくてもできないんだけど」
冗談めかして言っても、やっぱり卑屈な言葉ばかりがこぼれてしまう。
たくさんの人に愛されたいとか、彼氏にないものを他の人に求めようとは思わない。
ドラマみたいに波乱に満ちた恋とか、スリルに身を焦がすような激しい恋とか、シンデレラストーリーみたいな甘い恋じゃなくていい。
どこにでも転がっていそうなありふれた恋でいいから、私はただ、愛する人に愛されて穏やかに暮らしたい。
それだけなんだけどな。
夏樹に好きになってもらえなかったのは私に魅力がなかったからだろうし、それは仕方ないとしても、別の人と幸せそうにしている姿を見せられたり聞かされたりするのは、正直つらい。
昼間に耳にした、幸せそうに新婚旅行の話をする琴音の笑い声を思い出して、目の前がじわりとぼやけた。
泣いてもどうにもならないのに、涙が溢れてこぼれ落ちた。
「幸……?」
恵介が心配そうに私の顔を覗き込んだ。
「なんでもない!」
慌てて涙を拭おうとすると、恵介は膝の上で私を横抱きにしてギュッと抱きしめた。
「俺は幸の思ってること、もっと知りたい。無理して隠さないで話してよ。いくらでも付き合うから」
恵介は優しい。
お互いの目的を果たしてしまえばきっと離れていくとわかっているのに、こんなに優しくされたら勘違いしてしまいそうだ。
だけど今だけは、嘘でもいいから、恵介の優しさに溺れたいと思う弱い私がいる。
「二人であんなところに行ったとか、夏樹にこんなことしてもらったとか、聞きたくもないのに散々のろけ話聞かされてさ……。なんでこんな目にあうんだろう?一体私が何したって言うんだろうねぇ……」
恵介は文句も言わず、泣きながら愚痴を吐き出すみっともない私を抱きしめて、優しく頭を撫でてくれた。
「私は夏樹と一緒にいられたら……それだけで良かったのに」
「……そっか、俺もだ」
恵介も本当は今でも琴音が好きで、裏切られて傷付いてるのかな?
優しくしてくれるのは、同じ立場の私をほっておけないからなのかも知れない。
恵介の優しさに慣れて溺れてしまわないように、指先で涙を拭って顔を上げた。
「ありがと、恵介。つまんない愚痴に付き合わせてごめん。おかげでちょっとスッキリした」
「なんだ、もういいの?」
「うん。付き合ってくれたお礼に、カリスマショコラティエの高級チョコ食べさせてあげる」
「口移しで?」
「それはしない」
もう一度コーヒーを淹れた。
今度は苦すぎない、ちゃんとしたコーヒーを。
テーブルの上で箱を開けると、チョコの甘い香りがコーヒーの香りと混じり合った。
「いい香り。どれも綺麗で美味しそうだね。恵介、どれ食べたい?」
「迷うな。幸が選んでよ」
見た目だけで適当に選んだから、どれがなんの味とか、中に何が入っているとかは覚えていない。
だけど琴音が新婚旅行のお土産に買ってきたマカダミアナッツチョコよりは、間違いなく数十倍は美味しいはずだ。
「じゃあ……これかな?」
オレンジのジュレの上にオレンジピールが添えられたチョコを指先でつまんで、恵介の口元に運んだ。
「はい。口開けて」
「そこは“アーン”じゃないの?」
意外と甘えん坊なんだな。
いい歳して“アーン”は恥ずかしいでしょ。
「……口開けて。早くしないと体温で溶ける」
「……まぁいいか」
恵介が口を開けて、私の手からチョコを食べた。
柄にもなく恋人っぽいことしているなと思うと、なんだか無性に照れくさい。
「美味しい?」
「美味しいよ。味見する?」
「え?味見って……」
もう食べたのに味見なんてできるわけないでしょ?と言うより早く、恵介が私の唇を塞いだ。
私の唇をこじ開けて入ってきた恵介の甘い舌が、味わえと言わんばかりに私の舌を絡め取る。
文字通りの甘いキスにクラクラした。
恵介って、なんの恥ずかしげもなくこういうことしちゃう人なんだ。
私には刺激が強すぎる……!!
チョコの味がしなくなるほど長いキスの後、恵介は意地悪く笑いながら、私の唇の端についたチョコを指先で拭った。
「美味しかった?」
「バカ……。やっぱりもうあげない!」
「俺はチョコより幸とキスする方がいいな。もっとする?」
「……しません」
最初はもっとクールな人だと思ってたのに、知れば知るほど激甘だ。
チョコの甘い香りと、恵介の刺激的な甘さに酔ってしまいそうな気がした。
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