Pessimist in love ~ありふれた恋でいいから~
チョコレートとキス (2)
「ごちそうさま」
「しっ……信じられない……!」 
思わず口元を手で覆うと、恵介はイタズラっぽい笑みを浮かべた。 
 「夕べ、いただきそびれたからね」 
いただきそびれたって……!
ビックリするやら恥ずかしいやら、恵介の行動は私の常識の範疇を越えている。
きっと恵介は誰にだってあんなキスができるんだろう。
本気で好きじゃない私にまでするんだから。
私はあんな風にされることに慣れてないから、戸惑ってしまって拒むことも忘れていた。
恵介は何食わぬ顔をして、チョコの入った箱を拾い上げる。 
「幸の帰りをお利口に待ってたご褒美ってことで」 
「待っててなんて言ってないのに……」
「ひどいな。俺は早く幸に会いたくて、今か今かと幸の帰りを待ってたんだよ?ご褒美くらいもらっても良くない?」
ああもう……!また激甘だ!!
「あとでチョコあげるから大人しくしてて」
「幸が食べさせてくれるなら」
「……やっぱり一人で食べる」
遅くなったので、夕飯は簡単な炒め物と冷凍していた御飯で済ませた。
有り合わせの物で作った夕飯なのに、恵介は満足そうだ。
「やっぱり幸の作った料理はうまいな。控え目に言って最高」
「そうですか……それはようござんした」
さっきいきなりキスをされてから、私は内心ビクビクしている。
それを顔に出さないようにしようとすると、動揺が妙な言葉になって出てしまう。
そのたびに恵介は必死で笑いを堪えている。
まったくもう……誰のせいだと思ってるんだ!
少し腹が立って、ささやかな仕返しに今夜は眠れなくなればいいと、食後のコーヒーを濃いめに淹れてやった。
「……で、新婚の琴音はなんか言ってた?」
苦いインスタントのコーヒーを一口飲んで一瞬目を見開いた後、恵介はまた笑いを堪えた。
なんかムカつく。
朝まで寝返り打ってればいいのに。
「私がツアーを組んだ新婚旅行はずいぶん楽しかったみたいだよ。サイパンだからね、かなり日焼けしてた」
「そっちじゃなくて。幸に対してだよ」
ああ、そっちじゃなくてこっちか。
「髪型変えると雰囲気が違うねって、それだけ」
「へぇ。他人のことに無関心な琴音がそんなこと言ったのか。上出来だな」
上出来なのかな?
私の髪型がほんの少し変わったことなんて、琴音はなんとも思ってなさそうだけど。
「幸、髪飾りとか持ってる?あったら見せて」
「なくはないけど……安物ばっかりだよ」
私はおしゃれにはお金をかけないから、髪飾りなんてたいして持ってないし、買った物のほとんどが100均だと思う。
洗面所に置いていたカゴごと差し出すと、恵介はついに堪えきれなくなったのか吹き出した。
「たしかに大人の女には程遠いかな……」
「悪かったわね……」
髪飾りの中で唯一値の張るものは、いつも使っているバレッタで、巴との待ち合わせ時間までの暇潰しに百貨店をウロウロしていた時に、デザインに一目惚れして値段も見ずに買ったものだ。
「幸、次の休みはいつ?」
「明後日」
「じゃあ明後日、俺の仕事終わってから一緒に買いに行こうか。定時で終わるようにするから」
「えっ、一緒に?」
「もちろん。なんで?俺そんなにおかしなこと言った?」
恵介は不思議そうに尋ねた。
いやいや、なんで?と尋ねたいのはむしろ私の方だ。
「だって……男の人は女の買い物に付き合うの苦手と言うか、嫌いでしょ?」
 
「彼とは一緒に洋服買いに行ったりしなかった?」
「行かないよ、彼女じゃないもん。夏樹とは昼間に一緒に出掛けたことすらない」
「そうか……それは寂しいな」
夏樹は私が新しい服を着ていても、髪を切っても、それについて何か言ってくれたことは一度もなかった。
私が何を着ようが髪型を変えようが、たいして代わり映えもしないし、そもそも私の外見には興味がなかったんだと思う。
きっと琴音が新しい服を着たり、髪型を少しでも変えたりしたら、可愛いとか綺麗だとか言って誉めちぎるんだろう。
「まぁ、男が女の買い物に付き合うの苦手ってのはわかるけどね。俺も琴音に無理やり付き合わされた時にはうんざりした」
そんなにうんざりするほど長い時間連れ回されてたのかな。
恵介は琴音の着飾った姿を見ても、なんとも思わなかったんだろうか。
だったら尚更、私なんかと買い物に行ったってつまらないはずだ。
気を遣ってくれたことは嬉しいけど、お断りしよう。
「無理して気を遣ってくれなくていいよ。買い物は自分で行くから」
「それじゃ意味ないんだよ。幸に似合うのを俺が選びたいから、一緒に行こうって言ったの。わかる?」
「……選びたいの?」
「そう、選びたいの。幸は飾り甲斐ありそうだもんな。普段飾り気がない分、ほんの少しのことですごく変わる」
「しっ……信じられない……!」 
思わず口元を手で覆うと、恵介はイタズラっぽい笑みを浮かべた。 
 「夕べ、いただきそびれたからね」 
いただきそびれたって……!
ビックリするやら恥ずかしいやら、恵介の行動は私の常識の範疇を越えている。
きっと恵介は誰にだってあんなキスができるんだろう。
本気で好きじゃない私にまでするんだから。
私はあんな風にされることに慣れてないから、戸惑ってしまって拒むことも忘れていた。
恵介は何食わぬ顔をして、チョコの入った箱を拾い上げる。 
「幸の帰りをお利口に待ってたご褒美ってことで」 
「待っててなんて言ってないのに……」
「ひどいな。俺は早く幸に会いたくて、今か今かと幸の帰りを待ってたんだよ?ご褒美くらいもらっても良くない?」
ああもう……!また激甘だ!!
「あとでチョコあげるから大人しくしてて」
「幸が食べさせてくれるなら」
「……やっぱり一人で食べる」
遅くなったので、夕飯は簡単な炒め物と冷凍していた御飯で済ませた。
有り合わせの物で作った夕飯なのに、恵介は満足そうだ。
「やっぱり幸の作った料理はうまいな。控え目に言って最高」
「そうですか……それはようござんした」
さっきいきなりキスをされてから、私は内心ビクビクしている。
それを顔に出さないようにしようとすると、動揺が妙な言葉になって出てしまう。
そのたびに恵介は必死で笑いを堪えている。
まったくもう……誰のせいだと思ってるんだ!
少し腹が立って、ささやかな仕返しに今夜は眠れなくなればいいと、食後のコーヒーを濃いめに淹れてやった。
「……で、新婚の琴音はなんか言ってた?」
苦いインスタントのコーヒーを一口飲んで一瞬目を見開いた後、恵介はまた笑いを堪えた。
なんかムカつく。
朝まで寝返り打ってればいいのに。
「私がツアーを組んだ新婚旅行はずいぶん楽しかったみたいだよ。サイパンだからね、かなり日焼けしてた」
「そっちじゃなくて。幸に対してだよ」
ああ、そっちじゃなくてこっちか。
「髪型変えると雰囲気が違うねって、それだけ」
「へぇ。他人のことに無関心な琴音がそんなこと言ったのか。上出来だな」
上出来なのかな?
私の髪型がほんの少し変わったことなんて、琴音はなんとも思ってなさそうだけど。
「幸、髪飾りとか持ってる?あったら見せて」
「なくはないけど……安物ばっかりだよ」
私はおしゃれにはお金をかけないから、髪飾りなんてたいして持ってないし、買った物のほとんどが100均だと思う。
洗面所に置いていたカゴごと差し出すと、恵介はついに堪えきれなくなったのか吹き出した。
「たしかに大人の女には程遠いかな……」
「悪かったわね……」
髪飾りの中で唯一値の張るものは、いつも使っているバレッタで、巴との待ち合わせ時間までの暇潰しに百貨店をウロウロしていた時に、デザインに一目惚れして値段も見ずに買ったものだ。
「幸、次の休みはいつ?」
「明後日」
「じゃあ明後日、俺の仕事終わってから一緒に買いに行こうか。定時で終わるようにするから」
「えっ、一緒に?」
「もちろん。なんで?俺そんなにおかしなこと言った?」
恵介は不思議そうに尋ねた。
いやいや、なんで?と尋ねたいのはむしろ私の方だ。
「だって……男の人は女の買い物に付き合うの苦手と言うか、嫌いでしょ?」
 
「彼とは一緒に洋服買いに行ったりしなかった?」
「行かないよ、彼女じゃないもん。夏樹とは昼間に一緒に出掛けたことすらない」
「そうか……それは寂しいな」
夏樹は私が新しい服を着ていても、髪を切っても、それについて何か言ってくれたことは一度もなかった。
私が何を着ようが髪型を変えようが、たいして代わり映えもしないし、そもそも私の外見には興味がなかったんだと思う。
きっと琴音が新しい服を着たり、髪型を少しでも変えたりしたら、可愛いとか綺麗だとか言って誉めちぎるんだろう。
「まぁ、男が女の買い物に付き合うの苦手ってのはわかるけどね。俺も琴音に無理やり付き合わされた時にはうんざりした」
そんなにうんざりするほど長い時間連れ回されてたのかな。
恵介は琴音の着飾った姿を見ても、なんとも思わなかったんだろうか。
だったら尚更、私なんかと買い物に行ったってつまらないはずだ。
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