Pessimist in love ~ありふれた恋でいいから~

櫻井音衣

おかしな展開 (4)

「彼に触れて欲しいとか、抱かれたいとか、どうしようもないくらい彼を欲しがったことはある?」

「ない……けど……」

「俺はさっきから幸さんが欲しいの我慢してて、もう限界っぽい」

「えっ?!」

「言葉だけじゃ理解できない?」

突然、強い力で体を引き寄せられた。

首筋に押し当てられた唇の柔らかい感触で、背筋にゾクリと痺れるような感覚が走る。

頭を引き寄せられ、唇を塞がれた。

富永さんの形の良い唇が私の唇をついばんで、熱い舌先で私の舌を絡め取る。

久しぶりのキスは、夏樹とは違うタバコとビールの味がした。

最後の時、夏樹は私にキスはしなかった。

今更だけど、それは夏樹が私を好きじゃないと拒絶していたようにも思える。

こんなキスをしたのはいつ以来だろう?

なんか気持ちいい……。

ダメだ……頭がボーッとする……。

「俺は幸さんとこういうことしたいって思ってんの。わかる?」

「……ダメだよ……」

「なんで?彼じゃないから?今でもまだ彼が好き?」

私がうなずくと、富永さんはネクタイを外した。

「だったら俺を彼だと思えばいいよ。身代わりくらい、いくらでもしてやる」

ネクタイで目隠しをされて視界を遮られると、不安で胸が押し潰されそうになる。

「彼を思い浮かべながら全身で思いっきり感じて。彼にして欲しかったこと全部、俺が代わりにしてあげる」

耳元や首筋にも何度もキスをされ、服の上から体のラインをなぞられると、肩が小刻みに震えた。

何これ……?

お酒の勢いとかその場の雰囲気だけで、彼氏でもない人と、なんでこんなことになるわけ?

私としたいって……なんで?

酔った頭では理解できないこの状況で、私は富永さんにされるがままになっている。

こんなのおかしいと思うのに、その手で触れられたところが熱くなって、体の奥が疼いた。

「幸……可愛いよ」

忘れかけていた甘い疼きに無意識に声が漏れそうになり、恥ずかしくて慌てて口元を押さえた。

「声、我慢しないで。もっと聞かせて」

彼はその手を取って口づける。

焦らすばかりで素肌には触れない。

じれったくてもどかしくて、堪えきれず彼の首の後ろに腕を回した。

「幸はどうしたい?」

どうしたいのかと聞かれても、恥ずかしくて言葉が出てこない。

「どうしてもイヤならやめるけど」

「イヤ……じゃない……」

頭で考えるより早く、私は無意識にそう答えていた。

「だったらどうして欲しいのか、ちゃんと素直に言ってごらん。幸の言う通りにしてあげる」

ちゃんと素直に言って……って……。

恥ずかしい……。

さっきまで優しかったのに、なんで急にこんなに意地悪なんだろう?

「言わないならやめるよ?」

耳元で囁かれて、私の奥でずっと眠っていた女の部分が目を覚ました。

「やだ……やめないで……」

恥ずかしさを堪えて小さな声で呟くと、彼は私の口元に耳を近付けた。

「ん……?どうして欲しいの?」

「いっぱい……キス……して、欲しい……」

唇に重ねられた柔らかい感触。

優しく撫でるように絡ませた舌。

何度も何度も繰り返される甘いキス。

今だけ、幻でもいいから、夏樹に愛されたい。

名前を呼んで強く抱きしめて、心から私を求めて欲しい。



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