Pessimist in love ~ありふれた恋でいいから~

櫻井音衣

知らされなかった男 (4)

「私が担当すると幸せになれるってジンクスがあるからお願いねって、琴音に頼み込まれて仕方なく引き受けたけど、夏樹は琴音とのこと全部私に隠して、挙式の予約する前日の夜に私を抱いたよ。こんな私に担当されて幸せになれるなんて、笑えるよね」

改めて言葉に出してみると惨めさ倍増だ。

情けなくて思わず笑いが漏れた。

夏樹との間にあったことを琴音に話すこともせず、夏樹に文句の一言も言わずに、二人の結婚式の世話をした。

仕事だからと割り切ったふりをして、嫉妬に狂いそうな醜い気持ちを隠すために、必死で作り笑いを浮かべた。

終わってみて虚しさに気付くなんて、私は本物のバカなのかも知れない。

「あいつのやりそうなことだ……」

富永さんは心底呆れた様子でそう呟いて、気の毒そうに私を見た。

琴音は私が夏樹を好きだとわかっていて、わざとそんな役目を私に背負わせたって言いたいのかな?

それとも、バカな上に哀れな女だとか、こんな地味な女じゃしょうがないとか思われてるのかも。

「それで……君は彼に、文句のひとつでも言ってやったの?」

「そんなの……言ったってしょうがないでしょう?私は夏樹の彼女じゃないし、言ってもどうにもならないんだから」

「ふざけんな!って、横っ面ひっぱたいてやれば良かったのに」

「そんなことしても、余計に惨めになるだけだよ」

「ふーん……」

何か言いたげな顔をして、富永さんは胸ポケットからタバコを取り出した。

「吸っていい?」

「どうぞ」

富永さんがタバコに火をつけて静かに煙を吐き出した。

流れていくタバコの煙を眺めながら、私はまたビールを煽る。

「君は彼がすごく好きだったから、3年もその中途半端でいい加減な関係に甘んじてたんだよね?もっと怒っていいと思うよ」

「そうだけど……夏樹が私を彼女にしなかったのは、私に女としての魅力がなかったからだと思うし、私も一度も夏樹に好きだとか言わなかったし……。でもそれを言うなら、富永さんだって私と同じでしょ?なんで平気な顔していられるの?」

富永さんは少し驚いた顔をしてから、おかしそうに笑った。

「たしかに。あいつ、散々面倒見てやったのに、礼の一言もなく俺の知らないうちに結婚するんだもんな」

「なんで笑ってんの……。なんかバカにされてるみたいでムカつく……」

無性に腹が立って、ジョッキのビールを一気に飲み干した。

いつもより早いペースで飲んでいるせいか、お酒が回るのが早く感じる。

顔が熱くなって、なんとなく体がフワフワしているような気がした。

富永さんは声を上げて笑っている。

「ごめんごめん。バカにしたつもりはないんだけど……なんか幸さんって、かわいい人だなぁと思って」

「はぁ?頭おかしいんじゃないの?」

なんだ、この男?

バカにしてるのか?

って言うかむしろバカじゃないの?!

琴音みたいな美人と付き合ってたくせに、私みたいな地味女のどこがかわいいって言うんだ!

「すみませーん!!」

思いきり右手を挙げて、大声で店員を呼び止めた。

店員が驚いて振り返る。

「生中おかわり!!」

「あ、ふたつね」

ダメージを受けているのは私だけ。

親友の巴にだって酔って絡んだりはしなかったのに、同じ立場のはずのこの人が余裕の態度を崩さないことに、無性に腹が立った。

「涼しい顔してムカつく……。こうなったら思いっきり飲んでやる……」

「幸さん、明日仕事は?」

「休みだし、二日酔いでもどうせ一人だし!誰にも文句言われないし!」

「そっかそっか。じゃあ今日は俺がおごるから、とことん飲もう」

富永さんは運ばれてきたビールを受け取ると、ひとつを私に差し出した。

「思いっきり飲むんだろ?付き合うよ」

「言ったな?最後まで責任持ってよ!」

「もちろんそのつもり」

私たちはまたジョッキを掲げ乾杯して、グイグイビールを煽った。

少しでも憂さ晴らしできるなら、もうなんでもいいや。

ずっと抑えてきたけど、我慢ももう限界だ。

私にだって飲まなきゃやってられない時もある!

もうどうにでもなれ!!


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