Pessimist in love ~ありふれた恋でいいから~
選ばれなかった女 (4)
私を指名したのはもちろん琴音。
“いつか結婚式を挙げる時は幸にお願いしたいとずっと思ってたの。だってほら、幸に担当してもらうと幸せになれるってジンクスがあるでしょ?”
こんな時、『福多 幸』という自分の名前が恨めしい。
いかにも幸多そうなこの名前は、勝手に一人歩きしているらしい。
“福が多くて幸せ”なんて、完全に名前負けしているじゃないか。
琴音は彼氏を捨てて夏樹を選んだのだと思うけど、私と夏樹の関係を知っていたかどうかは本人には確かめていない。
確かめたところで何も変わらないし、夏樹にとって私は、寝る場所と食事だけでなく簡単に体まで差し出すような、都合のいいバカな女だったんだと思う。
結婚式の打ち合わせで、琴音と一緒に幸せそうに笑う夏樹と何度も顔を合わせたことはつらかった。
悪びれもせず私の目の前で琴音との永遠の愛を誓える夏樹の神経の図太さには心底呆れ果て、腹が立つとか悔しいなんて気持ちは通り越してしまったのか、幸せそうな姿を見せつけられても涙のひとつも出なかった。
大好きだった夏樹は、今はもう同僚の琴音の夫だ。
私に残されたのは真面目に頑張ってきた仕事と、主任という役職、そしていつか夏樹と一緒になれる日を夢見てコツコツ貯めたお金だけ。
そのお金も結婚資金として使う日が来るかどうかは定かではない。
昨日の夜、さすがに私のことが心配だったのか、巴が電話をかけてきた。
“明日の夜飲みに行こう。私がおごるから好きなだけ食って飲め!無駄な御祝儀を出すよりよっぽどいいわ!!”と巴は言った。
そして今に至る。
いつものダイニングバーの奥のテーブル席で巴と向かい合ってジョッキのビールを飲む。
「今更なんだけどさ……終わってみて気付いたけど…なんか虚しい……」
「幸はえらいよ。いくら仕事とは言え、断っても良かったのに」
「そうなんだけどさ……考えてみたら、夏樹は琴音を彼氏から略奪したんだよ。やっぱり女は見た目かぁ。私よりも夏樹の隣には美人の琴音の方が似合うもんなぁ」
こんな言い方をしたら、琴音の取り柄が外見だけだと言ってるみたいだけど、地味な私よりも美人の琴音の方が夏樹に似合うのは本当のことだ。
「何言ってんの。女は化粧とか服装でいくらでも化けるんだよ。幸だって基は悪くないんだし、その気になれば別人みたいに変身できるんだからね。これから頑張って夏樹なんかよりもっといい男捕まえな!」
「いや、そんな詐欺まがいのことする気はないから。そんなことして誰かといい感じになったとしてもさ、化粧落として服脱いだら別人じゃないかってがっかりされるのがオチだよ」
巴は通勤用の地味なスーツ姿の私を眺めながらタバコに火をつけた。
「けどさ、幸が地味な格好してても夏樹は気にしなかったんでしょ?」
「なんにも言わなかったね。夏樹も私の前では全然カッコつけなかったし。昔から知ってる分、気心が知れてて楽だったのかな」
もしかしたら私がどんな格好をしていようが、まったく興味がなかったのかも知れないけれど。
「元々は友達だったもんね。居心地良すぎて、男と女って言うより家族みたいな感じになっちゃったのかな」
そう言われてみると、なんとなく思い当たる節はある。
最初の方こそ恋人っぽいこともしたし、私は夏樹の特別な存在なんじゃないかと勘違いもしたけれど、しばらく経つとだんだんそれらしいことをしなくなった。
私は元々あまり積極的な方ではないし、夏樹の方から求められなければそんな状況にもならないわけで。
一番最後のその前、夏樹としたのはいつだっけ?
………全然思い出せない。
思い出せないくらい長い間、私は夏樹に求められなかったって言うことか。
最後の夜はきっと、3年分のお礼か餞別か何かのつもりだったんだろう。
いつの間にか私は、夏樹に女と見なされなくなってたのかも知れない。
“いつか結婚式を挙げる時は幸にお願いしたいとずっと思ってたの。だってほら、幸に担当してもらうと幸せになれるってジンクスがあるでしょ?”
こんな時、『福多 幸』という自分の名前が恨めしい。
いかにも幸多そうなこの名前は、勝手に一人歩きしているらしい。
“福が多くて幸せ”なんて、完全に名前負けしているじゃないか。
琴音は彼氏を捨てて夏樹を選んだのだと思うけど、私と夏樹の関係を知っていたかどうかは本人には確かめていない。
確かめたところで何も変わらないし、夏樹にとって私は、寝る場所と食事だけでなく簡単に体まで差し出すような、都合のいいバカな女だったんだと思う。
結婚式の打ち合わせで、琴音と一緒に幸せそうに笑う夏樹と何度も顔を合わせたことはつらかった。
悪びれもせず私の目の前で琴音との永遠の愛を誓える夏樹の神経の図太さには心底呆れ果て、腹が立つとか悔しいなんて気持ちは通り越してしまったのか、幸せそうな姿を見せつけられても涙のひとつも出なかった。
大好きだった夏樹は、今はもう同僚の琴音の夫だ。
私に残されたのは真面目に頑張ってきた仕事と、主任という役職、そしていつか夏樹と一緒になれる日を夢見てコツコツ貯めたお金だけ。
そのお金も結婚資金として使う日が来るかどうかは定かではない。
昨日の夜、さすがに私のことが心配だったのか、巴が電話をかけてきた。
“明日の夜飲みに行こう。私がおごるから好きなだけ食って飲め!無駄な御祝儀を出すよりよっぽどいいわ!!”と巴は言った。
そして今に至る。
いつものダイニングバーの奥のテーブル席で巴と向かい合ってジョッキのビールを飲む。
「今更なんだけどさ……終わってみて気付いたけど…なんか虚しい……」
「幸はえらいよ。いくら仕事とは言え、断っても良かったのに」
「そうなんだけどさ……考えてみたら、夏樹は琴音を彼氏から略奪したんだよ。やっぱり女は見た目かぁ。私よりも夏樹の隣には美人の琴音の方が似合うもんなぁ」
こんな言い方をしたら、琴音の取り柄が外見だけだと言ってるみたいだけど、地味な私よりも美人の琴音の方が夏樹に似合うのは本当のことだ。
「何言ってんの。女は化粧とか服装でいくらでも化けるんだよ。幸だって基は悪くないんだし、その気になれば別人みたいに変身できるんだからね。これから頑張って夏樹なんかよりもっといい男捕まえな!」
「いや、そんな詐欺まがいのことする気はないから。そんなことして誰かといい感じになったとしてもさ、化粧落として服脱いだら別人じゃないかってがっかりされるのがオチだよ」
巴は通勤用の地味なスーツ姿の私を眺めながらタバコに火をつけた。
「けどさ、幸が地味な格好してても夏樹は気にしなかったんでしょ?」
「なんにも言わなかったね。夏樹も私の前では全然カッコつけなかったし。昔から知ってる分、気心が知れてて楽だったのかな」
もしかしたら私がどんな格好をしていようが、まったく興味がなかったのかも知れないけれど。
「元々は友達だったもんね。居心地良すぎて、男と女って言うより家族みたいな感じになっちゃったのかな」
そう言われてみると、なんとなく思い当たる節はある。
最初の方こそ恋人っぽいこともしたし、私は夏樹の特別な存在なんじゃないかと勘違いもしたけれど、しばらく経つとだんだんそれらしいことをしなくなった。
私は元々あまり積極的な方ではないし、夏樹の方から求められなければそんな状況にもならないわけで。
一番最後のその前、夏樹としたのはいつだっけ?
………全然思い出せない。
思い出せないくらい長い間、私は夏樹に求められなかったって言うことか。
最後の夜はきっと、3年分のお礼か餞別か何かのつもりだったんだろう。
いつの間にか私は、夏樹に女と見なされなくなってたのかも知れない。
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