ただいま冷徹上司を調・教・中・!
仮がホントに変わるとき(15)
「今までの俺を変えてくれたのは千尋で、そのおかげで俺はいろんなことが見えるようになってきた」
自分の領域が侵されることを極度に嫌っていた凱莉さん。
一緒に何かをする、という発想がなかった凱莉さん。
けれどいつの間にか私を凌駕するまでの人になった。
「俺は本当に千尋と一緒にいられてよかったと心から思っている」
「……それは私も同じです」
同じなんだけど……。
今の凱莉さんの気持ちと私の気持ちは、全然違うような気がして怖い。
「でもな……」
ほら……。
「変えなければよかったと思うことがあるんだ」
……この先はもう、聞きたくない。
手足の先が冷たくなってくるのがわかる。
私は今日、凱莉さんを失ってしまうのだろうか……。
「4日間の出張で思い知った」
出張先に、他に良い人がいた?
恋愛上級者に変貌した凱莉さんなら、選び放題だもの。
それは仕方のないことかも知れない。
けれどそれはあまりにも唐突で、酷すぎないか?
涙が込み上げてきそうになったとき。
「俺……一人で眠れなくなったみたいだ……」
「…………は?」
しゅっと勢いよく涙が引っ込んだ。
「今までは一人でないと眠れなかったんだが、千尋と眠るようになってしまったら、今度は一人じゃ眠れなくなった。そういうことだと思う」
……もしかして凱莉さんが酷く疲れたように見えていたのは、本当に寝不足のせいだったっていうの?
「情けないことに俺は千尋がいないと、眠ることもできなくなってしまった」
ちょっと……さっきとは違う意味で……やめてよ……。 
凱莉さんはどうしていつもこうなんだろう。
私が想像もできないことを、いつもサラリと口にする。
胸が……幸せで苦しいなんて。
こんな苦しさもあることを、私は生まれて初めて知った。
「今回の出張で俺は改めて、千尋じゃなければ駄目なんだってことを思い知った。千尋が足りなくて禁断症状が出そうだったよ。会社では抑えないといけないとわかっていても、気を抜けば所構わず千尋を抱きしめてしまいそうで耐えられなかった」
「もしかして、私の手を避けたのって、それが理由ですか?」
「必死で抑えてるっていうのに、千尋が無防備に触れるんだもんな。平静を装うのが大変だったよ」
私は緊張の糸がぷっつりと切れてしまって、ぽてっと凱莉さんの肩に頭を乗せた。
「お前、人の話聞いてたか?触れると暴走するって言ってるんだぞ?」
焦って私の頭を押し返そうとする凱莉さんの手を払って、ぎゅっと力いっぱい抱きついてやった。
「ここは会社じゃないでしょう?暴走して何が悪いんですか。言っときますけど、禁断症状が出そうになってたのは凱莉さんだけじゃないんですからね」
私だって、たった4日間なのに凱莉さんに会いたくて、触れたくて、抱きしめてほしくて、温もりが欲しくて。
恋しくてたまらなかったんだから。
私がそう言うと、凱莉さんは一度強引に私を引き離し、抱え上げるようにきつく抱きしめてくれた。
「凱莉さ……」
大好きな名前も最後まで呼ばせないほどの勢いで、凱莉さんは自らの唇で私を塞いだ。
貪られるって、こんなキスのことを言うんじゃないだろうか。
全神経を搾り取られるかのような、身体全部が性感帯に変わるような淫靡なキスだった。
そこからはもうお互いに無我夢中で求め合った。
凱莉さんは有言実行とばかりに4日分愛し続けてくれて、私はもう最後の方の記憶がない程だった。
「明日の仕事、大丈夫か?」
情事の後に凱莉さんは私を抱き目ながらそう聞いたが。
「そんな心配してくれるなら、もう少し手加減してください……」
午前四時。
あと数時間しか眠れないんだから。
しかし凱莉さんは、「それは仕方ないだろう」と悪びれもせずに笑った。
「出張に行く前に千尋が言ったんじゃないか。4日分抱いてくれって」
「違います。抱きしめてくださいって言ったんです」
「同じ意味だろう?」
「だから違うってば……」
この大きな差をどうしてくれようか。
全く動かないくらいに疲れ切った身体が、あと数時間で回復するものなんだろうか。
ソファーでの情事のあとベッドへと移動した私達は、火照る身体を冷ますことなく再び身体を重ねた。
上司のくせに、仕事に支障が出かねないほど部下を抱くってどうなのよ。
心の中で悪態をついてみるけれど、身体と心の奥底では幸せに満ち溢れているなんて。
こんなに幸せに浸れるのなら、ずっと抱かれ続けてもいいかもしれないと思った。
本当にやりかねないから絶対に凱莉さんには言わないけれど。
「風呂、どうする?」
「浴槽の中はもうきっと水ですよ。出勤前にシャワーだけします」
今は少しでも寝かせて欲しい。
私の願いはただそれだけだった。
「なあ、千尋」
「なんですかぁ?」
眠りに落ちそうにふわついている頭を凱莉さんの胸に擦り付けながら、私は間延びした返事をする。
「今思ったことがあるんだが……言ってもいいか?」
「いいですよぉ。有給でも取っちゃいますか?」
だったらとても有り難いんだけどな。
このふわふわした感覚が気持ちよくて。
凱莉さんの温もりをもっと感じていたくて。
目を瞑ったままで何気にそんなことを言ってみたのだけれど。
凱莉さんの考えは違ったようだ。
「結婚しないか?」
「いいです……よあぁぁっ!?」
凱莉さんの思いがけないその言葉は、私を夢の国から一気に呼び戻す呪文だった。 
自分の領域が侵されることを極度に嫌っていた凱莉さん。
一緒に何かをする、という発想がなかった凱莉さん。
けれどいつの間にか私を凌駕するまでの人になった。
「俺は本当に千尋と一緒にいられてよかったと心から思っている」
「……それは私も同じです」
同じなんだけど……。
今の凱莉さんの気持ちと私の気持ちは、全然違うような気がして怖い。
「でもな……」
ほら……。
「変えなければよかったと思うことがあるんだ」
……この先はもう、聞きたくない。
手足の先が冷たくなってくるのがわかる。
私は今日、凱莉さんを失ってしまうのだろうか……。
「4日間の出張で思い知った」
出張先に、他に良い人がいた?
恋愛上級者に変貌した凱莉さんなら、選び放題だもの。
それは仕方のないことかも知れない。
けれどそれはあまりにも唐突で、酷すぎないか?
涙が込み上げてきそうになったとき。
「俺……一人で眠れなくなったみたいだ……」
「…………は?」
しゅっと勢いよく涙が引っ込んだ。
「今までは一人でないと眠れなかったんだが、千尋と眠るようになってしまったら、今度は一人じゃ眠れなくなった。そういうことだと思う」
……もしかして凱莉さんが酷く疲れたように見えていたのは、本当に寝不足のせいだったっていうの?
「情けないことに俺は千尋がいないと、眠ることもできなくなってしまった」
ちょっと……さっきとは違う意味で……やめてよ……。 
凱莉さんはどうしていつもこうなんだろう。
私が想像もできないことを、いつもサラリと口にする。
胸が……幸せで苦しいなんて。
こんな苦しさもあることを、私は生まれて初めて知った。
「今回の出張で俺は改めて、千尋じゃなければ駄目なんだってことを思い知った。千尋が足りなくて禁断症状が出そうだったよ。会社では抑えないといけないとわかっていても、気を抜けば所構わず千尋を抱きしめてしまいそうで耐えられなかった」
「もしかして、私の手を避けたのって、それが理由ですか?」
「必死で抑えてるっていうのに、千尋が無防備に触れるんだもんな。平静を装うのが大変だったよ」
私は緊張の糸がぷっつりと切れてしまって、ぽてっと凱莉さんの肩に頭を乗せた。
「お前、人の話聞いてたか?触れると暴走するって言ってるんだぞ?」
焦って私の頭を押し返そうとする凱莉さんの手を払って、ぎゅっと力いっぱい抱きついてやった。
「ここは会社じゃないでしょう?暴走して何が悪いんですか。言っときますけど、禁断症状が出そうになってたのは凱莉さんだけじゃないんですからね」
私だって、たった4日間なのに凱莉さんに会いたくて、触れたくて、抱きしめてほしくて、温もりが欲しくて。
恋しくてたまらなかったんだから。
私がそう言うと、凱莉さんは一度強引に私を引き離し、抱え上げるようにきつく抱きしめてくれた。
「凱莉さ……」
大好きな名前も最後まで呼ばせないほどの勢いで、凱莉さんは自らの唇で私を塞いだ。
貪られるって、こんなキスのことを言うんじゃないだろうか。
全神経を搾り取られるかのような、身体全部が性感帯に変わるような淫靡なキスだった。
そこからはもうお互いに無我夢中で求め合った。
凱莉さんは有言実行とばかりに4日分愛し続けてくれて、私はもう最後の方の記憶がない程だった。
「明日の仕事、大丈夫か?」
情事の後に凱莉さんは私を抱き目ながらそう聞いたが。
「そんな心配してくれるなら、もう少し手加減してください……」
午前四時。
あと数時間しか眠れないんだから。
しかし凱莉さんは、「それは仕方ないだろう」と悪びれもせずに笑った。
「出張に行く前に千尋が言ったんじゃないか。4日分抱いてくれって」
「違います。抱きしめてくださいって言ったんです」
「同じ意味だろう?」
「だから違うってば……」
この大きな差をどうしてくれようか。
全く動かないくらいに疲れ切った身体が、あと数時間で回復するものなんだろうか。
ソファーでの情事のあとベッドへと移動した私達は、火照る身体を冷ますことなく再び身体を重ねた。
上司のくせに、仕事に支障が出かねないほど部下を抱くってどうなのよ。
心の中で悪態をついてみるけれど、身体と心の奥底では幸せに満ち溢れているなんて。
こんなに幸せに浸れるのなら、ずっと抱かれ続けてもいいかもしれないと思った。
本当にやりかねないから絶対に凱莉さんには言わないけれど。
「風呂、どうする?」
「浴槽の中はもうきっと水ですよ。出勤前にシャワーだけします」
今は少しでも寝かせて欲しい。
私の願いはただそれだけだった。
「なあ、千尋」
「なんですかぁ?」
眠りに落ちそうにふわついている頭を凱莉さんの胸に擦り付けながら、私は間延びした返事をする。
「今思ったことがあるんだが……言ってもいいか?」
「いいですよぉ。有給でも取っちゃいますか?」
だったらとても有り難いんだけどな。
このふわふわした感覚が気持ちよくて。
凱莉さんの温もりをもっと感じていたくて。
目を瞑ったままで何気にそんなことを言ってみたのだけれど。
凱莉さんの考えは違ったようだ。
「結婚しないか?」
「いいです……よあぁぁっ!?」
凱莉さんの思いがけないその言葉は、私を夢の国から一気に呼び戻す呪文だった。 
「恋愛」の人気作品
書籍化作品
-
-
841
-
-
11128
-
-
310
-
-
440
-
-
59
-
-
4
-
-
32
-
-
238
-
-
2813
コメント