ただいま冷徹上司を調・教・中・!
仮がホントに変わるとき(8)
凱莉さんの優しい言葉を聞いてしまったら、自分の気持ちを伝えることなく、曖昧だけれど拒絶されない今の関係を続けてしまいそうになったからだ。
「私が平嶋課長の真面目さと優しさにつけ込んだんです。私の都合で好きに振り回して、なのに平嶋課長はいつも受け入れてくれた」
私が勝手に怒ろうが、どんなに上から目線でダメ出ししようが。
平嶋課長はその都度、私の言葉を理解して正解を探してくれた。
「平嶋課長ほどの男性が、そこまでしてくれて、仮であっても恋人のように接してくれたら、そりゃ好きになっちゃいますよ」
平嶋課長は何度か瞬きをして私の顔を凝視し、「……え?」と呟いた。
「欠点だって可愛いって思えちゃうし、私のために一生懸命になってくれるところなんて、そりゃもうたまりません。どんどんどんどん惹かれて惹かれて」
「ちょっと待て……」
平嶋課長は焦りからか混乱からか、私の方に手をかけて言葉を静止しようとする。
私の気持ちは決まってるのに、そう簡単に言葉を飲み込むなんてできるはずがない。
「気付いた時には平嶋課長のことを本気で好きになってました。何度『仮』って言葉がもどかしく感じたかわかりません」
「千尋、ちょっと待て……」
「もう仮か本当かで悩みたくないんです。私は仮じゃ嫌だって思っちゃったんです。この気持ちは自分ではどうしようもないんですっ」
「だから待てって」
私の勢いよりも大きな平嶋課長の声が響き、私の言葉は完全に平嶋課長によって遮られてしまった。
平嶋課長は手のひらで頭を抑え、深い溜め息をつく。
表情を窺い知ることは出来ないが、この時私は悟ってしまった。
平嶋課長は私を受け入れない、と。
確かに平嶋課長ほどの男性が、本気で私を相手にする確率なんて、相当低いだろうなとは思っていた。
だからある程度は覚悟していたし、そのあとも諦めずに進めると思っていた。
だけど。
やっぱり想像と現実を突きつけられるのでは、心の軋み方が全然違う。
あーあ。
逃げ出したいなぁ。
涙がこみあげてきそうになって俯いたとき。
「千尋、ごめん」
平嶋課長は低く深くそう言った。
この関係は終了だと判決が下されたんだ。
こんなにショックだとは思わなかった。
さっきまでの勢いはどこへやら。
もう一度……なんて無理だよ。
握りしめた拳に、涙の粒がパタパタと零れ落ちる。
「千尋……」
私の頬を平嶋課長の温かい手が包む。
そっと上を向かされると、平嶋課長は眉を下げて切なそうに私を見つめていた。
「千尋、ごめん。俺がハッキリしなかったから悪かったんだな」
「……いえ……」
やめて。
謝罪を繰り返さないで。
「千尋にこんなこと言わせてしまって、悪かったと思ってる」
「やめてください……」
これ以上、惨めになりたくないのに、平嶋課長課長はに何度も謝る。
これ以上謝られたら、私の心が割れてしまう。
「本当なら、男の俺が先に言うべき言葉だったのにな。こういう所もダメで、本当にごめん」
「……え?」
平嶋課長は一体、何に対して謝っているんだろう。
私の瞬きで零れた涙は、平嶋課長の指に拭われた。
拭われた涙が乾いてしまうほど、私達はずっと見つめ合っていた。
「平嶋課長?」
言葉の真意が早く知りたくて、私は急かすように名前を呼んでみた。
「……ここは会社か?」
あからさまに不機嫌な顔になり、平嶋課長の手は頬から握りしめていた拳を包み込んだ。
「そうじゃないけど……」
そんなんじゃないけど、仮の関係の解消危機に厚かましく『凱莉さん』なんて呼べない。
「千尋が今何を考えているのか、正直今一つわからないこともあるんだが……」
平嶋課長は私の拳をゆっくりと解き、ぎゅっと強く握った。
「俺はもう、千尋のことを『久瀬』とは呼びたくない」
そう言った平嶋課長の瞳は、いつも見る『凱莉さん』だった。
「平嶋課長……?」
もう一度そう呼んでみると、平嶋課長は私の手から右手だけ離し、私の頬を軽くつねる。
「違うだろ?二人の時は名前で呼び合うって、ちゃんと決めたじゃないか」
「でも……」
それは恋人としてのルールであって、関係が終わってしまえば過去のこと。
今後も続くことじゃない。
「千尋、ちゃんと俺の名前を呼べよ。千尋には名前で呼んで欲しいんだ」
凱莉さんは私を優しく見つめ、唇をなぞりながら私が呼ぶのを待っている。
「ほら、早く」
急かすかのような言葉とは裏腹にゆっくりなぞる指に唇を開かれ、私の唇は魔法が掛ったかのように自然に名前を紡いだ。
「凱莉さん……」
「千尋……」
私が凱莉さんの名前を呼ぶと、凱莉さんは本当に嬉しそうに笑ってくれて、私を自分の胸の中に捉えた。
「私が平嶋課長の真面目さと優しさにつけ込んだんです。私の都合で好きに振り回して、なのに平嶋課長はいつも受け入れてくれた」
私が勝手に怒ろうが、どんなに上から目線でダメ出ししようが。
平嶋課長はその都度、私の言葉を理解して正解を探してくれた。
「平嶋課長ほどの男性が、そこまでしてくれて、仮であっても恋人のように接してくれたら、そりゃ好きになっちゃいますよ」
平嶋課長は何度か瞬きをして私の顔を凝視し、「……え?」と呟いた。
「欠点だって可愛いって思えちゃうし、私のために一生懸命になってくれるところなんて、そりゃもうたまりません。どんどんどんどん惹かれて惹かれて」
「ちょっと待て……」
平嶋課長は焦りからか混乱からか、私の方に手をかけて言葉を静止しようとする。
私の気持ちは決まってるのに、そう簡単に言葉を飲み込むなんてできるはずがない。
「気付いた時には平嶋課長のことを本気で好きになってました。何度『仮』って言葉がもどかしく感じたかわかりません」
「千尋、ちょっと待て……」
「もう仮か本当かで悩みたくないんです。私は仮じゃ嫌だって思っちゃったんです。この気持ちは自分ではどうしようもないんですっ」
「だから待てって」
私の勢いよりも大きな平嶋課長の声が響き、私の言葉は完全に平嶋課長によって遮られてしまった。
平嶋課長は手のひらで頭を抑え、深い溜め息をつく。
表情を窺い知ることは出来ないが、この時私は悟ってしまった。
平嶋課長は私を受け入れない、と。
確かに平嶋課長ほどの男性が、本気で私を相手にする確率なんて、相当低いだろうなとは思っていた。
だからある程度は覚悟していたし、そのあとも諦めずに進めると思っていた。
だけど。
やっぱり想像と現実を突きつけられるのでは、心の軋み方が全然違う。
あーあ。
逃げ出したいなぁ。
涙がこみあげてきそうになって俯いたとき。
「千尋、ごめん」
平嶋課長は低く深くそう言った。
この関係は終了だと判決が下されたんだ。
こんなにショックだとは思わなかった。
さっきまでの勢いはどこへやら。
もう一度……なんて無理だよ。
握りしめた拳に、涙の粒がパタパタと零れ落ちる。
「千尋……」
私の頬を平嶋課長の温かい手が包む。
そっと上を向かされると、平嶋課長は眉を下げて切なそうに私を見つめていた。
「千尋、ごめん。俺がハッキリしなかったから悪かったんだな」
「……いえ……」
やめて。
謝罪を繰り返さないで。
「千尋にこんなこと言わせてしまって、悪かったと思ってる」
「やめてください……」
これ以上、惨めになりたくないのに、平嶋課長課長はに何度も謝る。
これ以上謝られたら、私の心が割れてしまう。
「本当なら、男の俺が先に言うべき言葉だったのにな。こういう所もダメで、本当にごめん」
「……え?」
平嶋課長は一体、何に対して謝っているんだろう。
私の瞬きで零れた涙は、平嶋課長の指に拭われた。
拭われた涙が乾いてしまうほど、私達はずっと見つめ合っていた。
「平嶋課長?」
言葉の真意が早く知りたくて、私は急かすように名前を呼んでみた。
「……ここは会社か?」
あからさまに不機嫌な顔になり、平嶋課長の手は頬から握りしめていた拳を包み込んだ。
「そうじゃないけど……」
そんなんじゃないけど、仮の関係の解消危機に厚かましく『凱莉さん』なんて呼べない。
「千尋が今何を考えているのか、正直今一つわからないこともあるんだが……」
平嶋課長は私の拳をゆっくりと解き、ぎゅっと強く握った。
「俺はもう、千尋のことを『久瀬』とは呼びたくない」
そう言った平嶋課長の瞳は、いつも見る『凱莉さん』だった。
「平嶋課長……?」
もう一度そう呼んでみると、平嶋課長は私の手から右手だけ離し、私の頬を軽くつねる。
「違うだろ?二人の時は名前で呼び合うって、ちゃんと決めたじゃないか」
「でも……」
それは恋人としてのルールであって、関係が終わってしまえば過去のこと。
今後も続くことじゃない。
「千尋、ちゃんと俺の名前を呼べよ。千尋には名前で呼んで欲しいんだ」
凱莉さんは私を優しく見つめ、唇をなぞりながら私が呼ぶのを待っている。
「ほら、早く」
急かすかのような言葉とは裏腹にゆっくりなぞる指に唇を開かれ、私の唇は魔法が掛ったかのように自然に名前を紡いだ。
「凱莉さん……」
「千尋……」
私が凱莉さんの名前を呼ぶと、凱莉さんは本当に嬉しそうに笑ってくれて、私を自分の胸の中に捉えた。
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