ただいま冷徹上司を調・教・中・!
仮がホントに変わるとき(5)
ケロッとした顔でそう言ってのける梨央は、前のまま何も変わらない。
「平嶋課長ね、絶対誘惑に乗らないのよ。それどころか、あの人私になんて言ったと思う?」
「……さぁ」
冷たく突き放したことは聞いているが、細かいことは教えてもらっていない。
「きみに一切の興味も湧かないのに、どうして一緒に過ごす必要性があるんだ?って私に聞くのよ。失礼すぎると思わない?」
凄いストレートな言葉だ。
私が梨央ならもう二度と平嶋課長と会いたくない。
「おまけにキミと一緒にいる時間は無駄だって」
「そんなこと……言ったの?」
「言ったわよ。有り得ないでしょ?仮にも好きにしていいって誘惑してきた女に対してよ?こんなに打ちのめされたの、初めてだった」
今までも男に不自由はしたことがないと豪語していた梨央だ。
そこまで徹底的に跳ね除けられたら、もう近付くのをやめようと思っても不思議ではない。
「吉澤さんは簡単だったのに」
「あの人は頭が弱いから、先のことを考えることができないのよ」
「そうなの。だから彼は千尋と合わないって思ったわ。なのに千尋はずっと文句も言わずに付き合い続けてる。不思議で仕方なかったの」
裏切られ続ける自分は大した人間ではないと、高望みもせずに穏便に済ませてきた私だ。
それでも付き合い続ければ情は湧くし、彼の優しさは嬉しかった。
だから2年半も一緒にいられたんだ。
「どれだけの男かと思ったら、身体も千尋に対する気持ちも、簡単に壊すことのできる程度だった。それなら千尋には不必要だと思ったの」
似たようなことを以前も言われた気がしたけれど、あの時は頭に血が上っていて何も聞こえてこなかった。
けれど、今なら少しは分かる気がする。
これも凱莉さんのおかげなんだな、と改めて思った。
だからといって、それを理解できるかと言われると、もちろん出来はしない。
どんな理由があるにせよ、人を弄び、人を傷付けていいことにはならないのだから。
「なんだかんだと自分に都合のいいように言葉を並べても、私は梨央のことを信用しない。……でもあのことがなければ今がないのは確かよ。そう考えると、悪いことばかりじゃなかった、って事だけは言っとくわ」
私は早足で梨央から離れて会社へと急いだ。
きっと私は梨央からされた仕打ちを忘れることはないと思う。
けれど薄れることはあるかもしれない。
そう思えるのは、凱莉さんの徹底した私への……。
……なんなんだろう?
素直に『愛情』と言えない関係。
『愛情』『契約』『忠誠』『同情』
凱莉さんは一体今の関係をどう思っているんだろう。
当たり前のように一緒にいて、当たり前のように身体を重ねて。
これ以上ないくらい愛されているって感じられるのに。
私達はまだ『仮』のまま。
私が感じている愛情も、擬似かもしれない。
そう思うと、二人の気持ちに決定的な違いがあるような気がする。
だからだろうか。
もう一つの拭えない疑問に胸が騒ぐのは。
それが凱莉さんなりのウソとホントの線引きのような気がして。
私はまた不安になるのだ……。
週末。
「……帰るんですか?」
ダルさの残った身体を起こし、私はジャケットを羽織る凱莉さんの背中に向かって言った。
「ごめん。起こしたか?」
「いえ……それは大丈夫ですけど」
部屋の時計は午前一時。
私は一時間近くも眠っていたらしい。
土曜日の今日は朝からずっと凱莉さんと一緒にいた。
水族館に行って綺麗な魚たちを眺め。
可愛いイルカやアシカのショーを見てはしゃぎ。
晩御飯はネットで有名なビストロで美味しい料理とワインを堪能した。
私の家に帰ると、私達は自然にキスを交わして深く求め合った。
なのに今、ベッドの中には私一人だ。
「今日は楽しかった。ゆっくり休めよ?」
少しはだけた布団を私にかけなおし、優しいキスを落として凱莉さんは部屋を出て行った。
扉が閉まる音が聞こえると、私の胸にはぽっかりと穴が開く。
こんなに一日一緒にいて、あんなに笑い合ったのに、凱莉さんは私にすぐ背を見せる。
明日も休みなわけだし、別に泊まっていったっていいのに。
私達は一度も一緒に朝を迎えたことがない。
どんなに遅くなっても、凱莉さんは必ず帰るし、必ず送ってくれる。
もっと一緒にいたい。
心で何度もそう叫ぶが、私達の曖昧な関係が口を噤ませる。
どんなに想っても、どんなに身体を重ねても。
私達は本物じゃない。
それが私の心に影を作っていくのだ。
「平嶋課長ね、絶対誘惑に乗らないのよ。それどころか、あの人私になんて言ったと思う?」
「……さぁ」
冷たく突き放したことは聞いているが、細かいことは教えてもらっていない。
「きみに一切の興味も湧かないのに、どうして一緒に過ごす必要性があるんだ?って私に聞くのよ。失礼すぎると思わない?」
凄いストレートな言葉だ。
私が梨央ならもう二度と平嶋課長と会いたくない。
「おまけにキミと一緒にいる時間は無駄だって」
「そんなこと……言ったの?」
「言ったわよ。有り得ないでしょ?仮にも好きにしていいって誘惑してきた女に対してよ?こんなに打ちのめされたの、初めてだった」
今までも男に不自由はしたことがないと豪語していた梨央だ。
そこまで徹底的に跳ね除けられたら、もう近付くのをやめようと思っても不思議ではない。
「吉澤さんは簡単だったのに」
「あの人は頭が弱いから、先のことを考えることができないのよ」
「そうなの。だから彼は千尋と合わないって思ったわ。なのに千尋はずっと文句も言わずに付き合い続けてる。不思議で仕方なかったの」
裏切られ続ける自分は大した人間ではないと、高望みもせずに穏便に済ませてきた私だ。
それでも付き合い続ければ情は湧くし、彼の優しさは嬉しかった。
だから2年半も一緒にいられたんだ。
「どれだけの男かと思ったら、身体も千尋に対する気持ちも、簡単に壊すことのできる程度だった。それなら千尋には不必要だと思ったの」
似たようなことを以前も言われた気がしたけれど、あの時は頭に血が上っていて何も聞こえてこなかった。
けれど、今なら少しは分かる気がする。
これも凱莉さんのおかげなんだな、と改めて思った。
だからといって、それを理解できるかと言われると、もちろん出来はしない。
どんな理由があるにせよ、人を弄び、人を傷付けていいことにはならないのだから。
「なんだかんだと自分に都合のいいように言葉を並べても、私は梨央のことを信用しない。……でもあのことがなければ今がないのは確かよ。そう考えると、悪いことばかりじゃなかった、って事だけは言っとくわ」
私は早足で梨央から離れて会社へと急いだ。
きっと私は梨央からされた仕打ちを忘れることはないと思う。
けれど薄れることはあるかもしれない。
そう思えるのは、凱莉さんの徹底した私への……。
……なんなんだろう?
素直に『愛情』と言えない関係。
『愛情』『契約』『忠誠』『同情』
凱莉さんは一体今の関係をどう思っているんだろう。
当たり前のように一緒にいて、当たり前のように身体を重ねて。
これ以上ないくらい愛されているって感じられるのに。
私達はまだ『仮』のまま。
私が感じている愛情も、擬似かもしれない。
そう思うと、二人の気持ちに決定的な違いがあるような気がする。
だからだろうか。
もう一つの拭えない疑問に胸が騒ぐのは。
それが凱莉さんなりのウソとホントの線引きのような気がして。
私はまた不安になるのだ……。
週末。
「……帰るんですか?」
ダルさの残った身体を起こし、私はジャケットを羽織る凱莉さんの背中に向かって言った。
「ごめん。起こしたか?」
「いえ……それは大丈夫ですけど」
部屋の時計は午前一時。
私は一時間近くも眠っていたらしい。
土曜日の今日は朝からずっと凱莉さんと一緒にいた。
水族館に行って綺麗な魚たちを眺め。
可愛いイルカやアシカのショーを見てはしゃぎ。
晩御飯はネットで有名なビストロで美味しい料理とワインを堪能した。
私の家に帰ると、私達は自然にキスを交わして深く求め合った。
なのに今、ベッドの中には私一人だ。
「今日は楽しかった。ゆっくり休めよ?」
少しはだけた布団を私にかけなおし、優しいキスを落として凱莉さんは部屋を出て行った。
扉が閉まる音が聞こえると、私の胸にはぽっかりと穴が開く。
こんなに一日一緒にいて、あんなに笑い合ったのに、凱莉さんは私にすぐ背を見せる。
明日も休みなわけだし、別に泊まっていったっていいのに。
私達は一度も一緒に朝を迎えたことがない。
どんなに遅くなっても、凱莉さんは必ず帰るし、必ず送ってくれる。
もっと一緒にいたい。
心で何度もそう叫ぶが、私達の曖昧な関係が口を噤ませる。
どんなに想っても、どんなに身体を重ねても。
私達は本物じゃない。
それが私の心に影を作っていくのだ。
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