ただいま冷徹上司を調・教・中・!
仮がホントに変わるとき(4)
「実は……な」
神妙な面持ちで言葉を探る凱莉さんは、とても言い出しにくそうに眉間にシワを寄せる。
「こんなことを千尋に言っていいのかわからないんだが」
そんなに判断できないほど重たい話しなら、やっぱり聞くべきではないのではないか。
「話しにくいことなら別に言わなくていいです。ごめんなさい。無理に聞き出そうとして」
なんとか話を逸らそうと明るくそう言ったけれど、凱莉さんはそれを制して続けた。
「聞いてくれ。これもいつかは伝えないといけないことだ」
「はい……」
そう言われると、やはり聞かねばならないだろう。
「俺は何度か女性に食事を作ってもらったことがある」
それはそうだろうな。
不思議なもので、女というものは恋人に食事を作ってこそ関係を実感する生き物である。
ま、持論なのだが。
「けれどそれで何度も問題に直面した」
「問題?」
「どういうわけか彼女たちは、俺の望まない料理ばかり作って披露するんだ」
……ん?
「仕事から帰ってきて有り得ない量のフレンチをどっさり作ってみたり、朝から家に呼び出されてバイキングのようなモーニングを披露されたり……」
凱莉さんは思い出しても苦痛だとばかりに頭を抱えた。
「しかもそういう料理を作る人の味覚は、決まって俺の味覚と合わないんだ」
……私がずっと疑問に思ってモヤモヤしていたことは、実は重いものではなく……。
「塩を足してもソースを足しても醤油を足しても不快な顔をされる。それを口に出そうものなら激怒だ。そうなればもう、目玉焼きの硬さも選べない。手料理は振る舞うもので押し付けるものではないはずなのに、だ」
……実はすっごく軽いものだったんじゃないの?
凱莉さんって本当に女運が悪い。
というよりも、女の見る目がないんじゃないだろうか。
何度か歴代彼女の話を聞いたことがあるけれど、本当にロクな女がいない。
けれど私から言わせてもらえれば、それは凱莉さんだって悪いと思う。
「凱莉さんの苦痛は理解します」
「わかってくれるか……」
「わかりますが、きっと凱莉さんにも原因があるはずです」
「俺に?」
いままで凱莉さんと付き合ってきて、私はいつも思っていたことがある。
「凱莉さんって、自分の意見を絶対に言わないですよね」
凱莉さんが思って考えてくれるのは、いつも私のことだけ。
私が行きたいところに行って、私が食べたいものを食べて、私がしたいことをして。
常に私が喜ぶことばかりを優先してくれる。
それは本当に嬉しいことなのだけど。
「きっとご飯は何がいいかって聞かれても、何でもいいって答えてたでしょ」
「え……」
「苦手なものや、食べたくないものがあっても、結局相手の女性に合わせちゃうでしょ」
「あ……」
「女性は自分の腕を振るいたくて、凱莉さんに満足してほしくていろんなものを作っちゃうのに、凱莉さんがちゃんと自分の好みを先に伝えないから苦痛になるんですよ」
凱莉さんの優しさは、いつも不器用すぎるんだ。
「せっかく作ってくれるっていうなら、ちゃんと自分の意見を言えばいいんですよ。濃い味、薄味、甘め、硬め柔らかめ、洋食和食。お料理はいろいろあるんですから」
「言ってもよかったのか?」
そんなことを聞いてくる凱莉さんに、私はやっぱりまだまだだな、と思えて頬が緩んだ。
「当たり前です」
「千尋にも?」
「当然です」
「じゃ……出汁の効いた親子丼……食べたい」
「玉子は?」
「半熟……」
とってもとっても可愛い凱莉さんの為に、「了解です」と答えて凱莉さんの部屋のキッチンに入った。
初めて振る舞ったお料理に凱莉さんはご満悦で、お腹いっぱいになった後は、凱莉さんの得意な運動でお返しされてしまった……。
「最近何だかエロいんだけど」
出勤時、突然後ろから声を掛けられ振り向くと。
「うえ」
瞬時に顔を歪ませてしまった。
「爽やかな朝に不似合いな顔、やめてくれる?」
「だったら声掛けるのもやめてくれる?」
そう言っている私の言葉が聞こえないのか、声の主、梨央は堂々と私の隣に並んで歩く。
最近、私の中で大きな変化が起きていた。
梨央とこうやって並んで歩くことが、少し前まではあたりまえだったなぁ、とか。
梨央の顔を見ていても、以前のような嫌悪感を抱かなくなったなぁ、とか。
少しずつ。
本当に少しずつなのだけれど、梨央に対する気持ちが和らいでいる気がするのだ。
「最近、千尋の腰つきエロい」
「ふざけてんじゃないわよ。何言ってんの」
「本当のことよ。滑らかになったっていうか、なまめかしくなったわ」
「どこ見てんのよ」
チラリと一見すると、梨央は裏のない笑顔で私を見ている。
「私はいつでも千尋を見てるわ。前にも言ったでしょ?私は千尋のことが大好きなんだって」
なんの悪びれもなく言う梨央に、腹を立てるというよりも呆れが出てきた。
「そんなこと言ってるけど、平嶋課長と私に何したか、忘れたわけじゃないでしょうね?」
あれだけ嘘を並べて私達のデートを潰し、全力で凱莉さんを誘惑したくせに。
恨めしそうに睨みつけると、梨央は明るく声をあげて笑い出した。
「平嶋課長ったら、そんなことまで千尋に話してるの?信じられない」
こっちの方が信じられない、と心で思ったが。
「でも心配しないで。私、もう平嶋課長に手は出さないから」
信じられない梨央の言葉に、私の方が毒牙を抜かれてしまった。
神妙な面持ちで言葉を探る凱莉さんは、とても言い出しにくそうに眉間にシワを寄せる。
「こんなことを千尋に言っていいのかわからないんだが」
そんなに判断できないほど重たい話しなら、やっぱり聞くべきではないのではないか。
「話しにくいことなら別に言わなくていいです。ごめんなさい。無理に聞き出そうとして」
なんとか話を逸らそうと明るくそう言ったけれど、凱莉さんはそれを制して続けた。
「聞いてくれ。これもいつかは伝えないといけないことだ」
「はい……」
そう言われると、やはり聞かねばならないだろう。
「俺は何度か女性に食事を作ってもらったことがある」
それはそうだろうな。
不思議なもので、女というものは恋人に食事を作ってこそ関係を実感する生き物である。
ま、持論なのだが。
「けれどそれで何度も問題に直面した」
「問題?」
「どういうわけか彼女たちは、俺の望まない料理ばかり作って披露するんだ」
……ん?
「仕事から帰ってきて有り得ない量のフレンチをどっさり作ってみたり、朝から家に呼び出されてバイキングのようなモーニングを披露されたり……」
凱莉さんは思い出しても苦痛だとばかりに頭を抱えた。
「しかもそういう料理を作る人の味覚は、決まって俺の味覚と合わないんだ」
……私がずっと疑問に思ってモヤモヤしていたことは、実は重いものではなく……。
「塩を足してもソースを足しても醤油を足しても不快な顔をされる。それを口に出そうものなら激怒だ。そうなればもう、目玉焼きの硬さも選べない。手料理は振る舞うもので押し付けるものではないはずなのに、だ」
……実はすっごく軽いものだったんじゃないの?
凱莉さんって本当に女運が悪い。
というよりも、女の見る目がないんじゃないだろうか。
何度か歴代彼女の話を聞いたことがあるけれど、本当にロクな女がいない。
けれど私から言わせてもらえれば、それは凱莉さんだって悪いと思う。
「凱莉さんの苦痛は理解します」
「わかってくれるか……」
「わかりますが、きっと凱莉さんにも原因があるはずです」
「俺に?」
いままで凱莉さんと付き合ってきて、私はいつも思っていたことがある。
「凱莉さんって、自分の意見を絶対に言わないですよね」
凱莉さんが思って考えてくれるのは、いつも私のことだけ。
私が行きたいところに行って、私が食べたいものを食べて、私がしたいことをして。
常に私が喜ぶことばかりを優先してくれる。
それは本当に嬉しいことなのだけど。
「きっとご飯は何がいいかって聞かれても、何でもいいって答えてたでしょ」
「え……」
「苦手なものや、食べたくないものがあっても、結局相手の女性に合わせちゃうでしょ」
「あ……」
「女性は自分の腕を振るいたくて、凱莉さんに満足してほしくていろんなものを作っちゃうのに、凱莉さんがちゃんと自分の好みを先に伝えないから苦痛になるんですよ」
凱莉さんの優しさは、いつも不器用すぎるんだ。
「せっかく作ってくれるっていうなら、ちゃんと自分の意見を言えばいいんですよ。濃い味、薄味、甘め、硬め柔らかめ、洋食和食。お料理はいろいろあるんですから」
「言ってもよかったのか?」
そんなことを聞いてくる凱莉さんに、私はやっぱりまだまだだな、と思えて頬が緩んだ。
「当たり前です」
「千尋にも?」
「当然です」
「じゃ……出汁の効いた親子丼……食べたい」
「玉子は?」
「半熟……」
とってもとっても可愛い凱莉さんの為に、「了解です」と答えて凱莉さんの部屋のキッチンに入った。
初めて振る舞ったお料理に凱莉さんはご満悦で、お腹いっぱいになった後は、凱莉さんの得意な運動でお返しされてしまった……。
「最近何だかエロいんだけど」
出勤時、突然後ろから声を掛けられ振り向くと。
「うえ」
瞬時に顔を歪ませてしまった。
「爽やかな朝に不似合いな顔、やめてくれる?」
「だったら声掛けるのもやめてくれる?」
そう言っている私の言葉が聞こえないのか、声の主、梨央は堂々と私の隣に並んで歩く。
最近、私の中で大きな変化が起きていた。
梨央とこうやって並んで歩くことが、少し前まではあたりまえだったなぁ、とか。
梨央の顔を見ていても、以前のような嫌悪感を抱かなくなったなぁ、とか。
少しずつ。
本当に少しずつなのだけれど、梨央に対する気持ちが和らいでいる気がするのだ。
「最近、千尋の腰つきエロい」
「ふざけてんじゃないわよ。何言ってんの」
「本当のことよ。滑らかになったっていうか、なまめかしくなったわ」
「どこ見てんのよ」
チラリと一見すると、梨央は裏のない笑顔で私を見ている。
「私はいつでも千尋を見てるわ。前にも言ったでしょ?私は千尋のことが大好きなんだって」
なんの悪びれもなく言う梨央に、腹を立てるというよりも呆れが出てきた。
「そんなこと言ってるけど、平嶋課長と私に何したか、忘れたわけじゃないでしょうね?」
あれだけ嘘を並べて私達のデートを潰し、全力で凱莉さんを誘惑したくせに。
恨めしそうに睨みつけると、梨央は明るく声をあげて笑い出した。
「平嶋課長ったら、そんなことまで千尋に話してるの?信じられない」
こっちの方が信じられない、と心で思ったが。
「でも心配しないで。私、もう平嶋課長に手は出さないから」
信じられない梨央の言葉に、私の方が毒牙を抜かれてしまった。
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