ただいま冷徹上司を調・教・中・!
始まりは意地と恥(4)
ここは怒っても呆れても、そもそも見捨てられててもおかしくなかったはずなのに。
それどころか私に対して笑ってくれるだなんて。
冷徹と言われる平嶋課長の懐の深さが垣間見れて、私はさらに尊敬の念を深くした。
仕事ができて、思いやりがあって、上司にも部下にも慕われて、男らしい男。
そりゃ老若男女問わずにモテるはずだ。
……本当はどうなのか知らないけど。
「本当にご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした。このご恩は必ず仕事で返します。平嶋課長が安心して任せられるような仕事してみせますから!」
胸元で拳を作り力を込めてそう言うと、平嶋課長は横を向いて手の甲で口許を隠しながら吹き出した。
「久瀬って実は面白いヤツだったんだな。職場では見られない顔が見れて楽しいよ」
「それは私のセリフです」
こんなにラフな平嶋課長を見ることなんて、きっともう二度とないだろう。
だったらしっかりと目に焼き付けておかなくちゃ。
そんなことを思いながら、風が吹くたびにサラサラとなびく平嶋課長の黒髪を見つめていた。
「これからなにか用事でもあるか?」
唐突にそう聞かれ、私はきょとんとしながら「いえ、なにも」と答えた。
「だったら飯、付き合わないか?もうすぐ昼になる」
「昼?」
慌ててバッグの中のスマホを取りだし画面を開くと、午前11時42分だった。
「こんな時間まで課長を拘束しちゃって申し訳ないです!なのに食事までご一緒したら、課長の貴重な土曜日が台無しになっちゃいます。私はこのままタクシーで帰りますんで、課長はどうぞ優雅にランチを……」
すすっと後退りをすると、平嶋課長は呆れたように溜め息をついた。
「お前、俺をどう見てんだよ。このまま家に帰っても飯ないし、一人で食うより二人のほうが美味い。久瀬だって腹減ってるだろ?昨日食べたもの、全部出したわけだしな」
「それにはもう、触れないでいただきたいです……」
私があからさまに落ち込むと、平嶋課長は小さく声を上げて笑い、「行くぞ」と私を促した。
このあと私は平嶋課長とランチをしたわけだが、これがとんでもないことを引き起こすなんて、この時の私は想像もしていなかった……。
平嶋課長と一緒に向かったのは、駅前ビルの一階にあるカフェレストランだった。
木と白を基調としたお洒落なお店で、平嶋課長は食事をしていてもコーヒーを飲んでいても、本当に嫌味なくらい絵になる男前っぷりだった。
昼下がりに会社のイケメン上司と秘密のランチ。
なんだかグッと距離が縮まったような気が……しない。
食事中の平嶋課長は無言で、私はとても会話をしながら食事を楽しむという感じじゃなかった。
勇気を出して話しかけてみると普通に返答はしてくれるので、どうやら怒っているわけではないらしい。
黙々と食事をし、私が食べ終わるのを待つ間はずっとスマホで経済ニュースを読んでいる。
一緒にいるのに一緒にいる気がしない。
確かに誰もが見ほれるほどのイケメンかもしれないが、私はやっぱり平嶋課長は無理だな、と心の中で頷いた。
話しかければ会話をしてくれるけれど、平嶋課長から会話を振ってくることはないなんて。
それって私にも、私と一緒にいる時間にも興味がないということ。
いくら梨央に対する見栄があるにせよ、これはきっと『ありえない』と神様が教えてくれているのだろう。
やはり平嶋課長は近づくよりも鑑賞しているに限る男性だ。
自分の答えにスッキリした私は、ランチまでもご馳走になり、何度もお礼を言って平嶋課長と別れタクシーに乗り自宅に帰った。
その日は何もする気が起きずダラダラと過ごし、翌日の日曜日は心機一転しようと和宏の面影を全て消し去るように掃除をした。
全ては月曜日から気持ちを切り替えて、仕事も恋愛も前向きに頑張ろうと思っていたからだ。
この時までの私は、朝日なんて怖くもなんともなかった。
それどころか私に対して笑ってくれるだなんて。
冷徹と言われる平嶋課長の懐の深さが垣間見れて、私はさらに尊敬の念を深くした。
仕事ができて、思いやりがあって、上司にも部下にも慕われて、男らしい男。
そりゃ老若男女問わずにモテるはずだ。
……本当はどうなのか知らないけど。
「本当にご迷惑をおかけして、申し訳ありませんでした。このご恩は必ず仕事で返します。平嶋課長が安心して任せられるような仕事してみせますから!」
胸元で拳を作り力を込めてそう言うと、平嶋課長は横を向いて手の甲で口許を隠しながら吹き出した。
「久瀬って実は面白いヤツだったんだな。職場では見られない顔が見れて楽しいよ」
「それは私のセリフです」
こんなにラフな平嶋課長を見ることなんて、きっともう二度とないだろう。
だったらしっかりと目に焼き付けておかなくちゃ。
そんなことを思いながら、風が吹くたびにサラサラとなびく平嶋課長の黒髪を見つめていた。
「これからなにか用事でもあるか?」
唐突にそう聞かれ、私はきょとんとしながら「いえ、なにも」と答えた。
「だったら飯、付き合わないか?もうすぐ昼になる」
「昼?」
慌ててバッグの中のスマホを取りだし画面を開くと、午前11時42分だった。
「こんな時間まで課長を拘束しちゃって申し訳ないです!なのに食事までご一緒したら、課長の貴重な土曜日が台無しになっちゃいます。私はこのままタクシーで帰りますんで、課長はどうぞ優雅にランチを……」
すすっと後退りをすると、平嶋課長は呆れたように溜め息をついた。
「お前、俺をどう見てんだよ。このまま家に帰っても飯ないし、一人で食うより二人のほうが美味い。久瀬だって腹減ってるだろ?昨日食べたもの、全部出したわけだしな」
「それにはもう、触れないでいただきたいです……」
私があからさまに落ち込むと、平嶋課長は小さく声を上げて笑い、「行くぞ」と私を促した。
このあと私は平嶋課長とランチをしたわけだが、これがとんでもないことを引き起こすなんて、この時の私は想像もしていなかった……。
平嶋課長と一緒に向かったのは、駅前ビルの一階にあるカフェレストランだった。
木と白を基調としたお洒落なお店で、平嶋課長は食事をしていてもコーヒーを飲んでいても、本当に嫌味なくらい絵になる男前っぷりだった。
昼下がりに会社のイケメン上司と秘密のランチ。
なんだかグッと距離が縮まったような気が……しない。
食事中の平嶋課長は無言で、私はとても会話をしながら食事を楽しむという感じじゃなかった。
勇気を出して話しかけてみると普通に返答はしてくれるので、どうやら怒っているわけではないらしい。
黙々と食事をし、私が食べ終わるのを待つ間はずっとスマホで経済ニュースを読んでいる。
一緒にいるのに一緒にいる気がしない。
確かに誰もが見ほれるほどのイケメンかもしれないが、私はやっぱり平嶋課長は無理だな、と心の中で頷いた。
話しかければ会話をしてくれるけれど、平嶋課長から会話を振ってくることはないなんて。
それって私にも、私と一緒にいる時間にも興味がないということ。
いくら梨央に対する見栄があるにせよ、これはきっと『ありえない』と神様が教えてくれているのだろう。
やはり平嶋課長は近づくよりも鑑賞しているに限る男性だ。
自分の答えにスッキリした私は、ランチまでもご馳走になり、何度もお礼を言って平嶋課長と別れタクシーに乗り自宅に帰った。
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