ただいま冷徹上司を調・教・中・!
恋っていったいなんなんだ?(2)
確かに今までの彼氏の殆どは浮気で別れてきたのだから、もう慣れっこになっていた部分はある。
けれど友人から寝取られるなんて初めての体験で、どう受け流していいものかわからない。
昨晩、彼氏であるはずの吉澤和弘(ヨシザワカズヒロ)のマンションを連絡せずに訪れると、いつもは施錠しているはずの玄関の鍵が開いていた。
不用心だな……と思いながらも玄関を開けると、彼の革靴とは別にベージュのハイヒールが並んでいた。
咄嗟に彼の家族構成を思い浮かべてみたが、彼には弟が一人で妹はいない。
両親は釧路に住んでいると言っていたので、このヒールが彼の母親のモノであるはずもない。
しかも私はこれと同じヒールを会社で見たことがある。
では残った答えは……。
頭の中に最悪の答えが浮かんだ瞬間。
『あ……あっ……んっ……』
最悪な声が玄関のすぐ横のベッドルームから聞こえてきた。
甘ったるい鼻にかかった独特の声色。
ドア越しでも聞こえる生々しい男女が交わる音と息使い。
閉ざされたその部屋で何が行われているかなんて、見なくてもわかる。
私はまた、彼氏の人選を誤ったんだ。
『梨央ちゃ……んっ』
堪えるように彼が囁いた女の名前は、私の職場の同期で一番仲のいい、植村梨央(ウエムラリオ)だった。
私はそれ以上のことを見聞きする勇気はなく、こっそりと彼のマンションを後にした。
ショックを受けた頭で一晩中考えたのは、今後の二人に対する接し方だった。
毎日顔を合わせる社内で、素知らぬ顔をして振る舞えるほど私はできた人間ではないし、そうなるつもりもない。
今までの弱い私から脱却したい。
私だって怒りもするし復讐心だって立派に持っているんだ。
真正面から眩しい朝日を浴びながら、ぎゅっと決意の握り拳を作る。
「くっそ。仕返ししてやる」
悪夢のような昨日を思い返しながら、私は自分が働くオフィスビルの真ん前でポツリとそう呟いた。
私が働いているのは医療機器を取り扱う商社で、大学病院から個人病院、クリニックなど、かなりのシェアを誇っている。
ここは三階建ての自社ビルで、大まかにいえば一階は商談室と保管倉庫、二階は事務所、三階は重役室と会議室、というふうに分かれており、私は二階の事務所で仕事をしている。
エレベーターも設置されているが、私はいつも階段を使って二階に上がる。
広いフロアは大した仕切りなどなく、机の配置だけで課が分かれているので、当然のように私を裏切った二人もいるという、かなりヘビーな環境になっているのだ。
今までは何の支障もなく働けていたし、たまにすれ違う彼とのアイコンタクトに胸をときめかせていたりもした。
けれど今となってはもう顔も見たくない。
黒い感情を笑顔で隠しながら挨拶を繰り返し、私はようやく自分のデスクについた。
カバンから必要なものを取り出し、デスクの一番奥に入れているカゴの中にバッグと着てきた薄手のスプリングコートを畳んでしまった。
四月に入社式を迎え、新入社員が入ってきて一週間と少し。
ドタバタもようやく落ち着いてきたこの時期に、今度は私生活に波風が立つとは思ってもみなかった。
和宏は私の二つ上の先輩で、課は違うけれどもとても優しい営業マンだった。
総合病院の新規参入の時に親しくなって、私達は次第に距離を縮めて付き合うようになった。
それが今から二年半くらい前のことだ。
和宏は全てが普通スペックの男だった。
顔も特別人目を惹くほどではないが、爽やかだし悪くはない。
性格も特別抜きに出るものはなかったが、優しかったし悪くはない。
仕事も特別成績がいいわけではなかったが、毎月予算は達成しているので悪くはない。
何でもかんでも悪くはない。
そう、全てが無難で悪くはない程度の男だった。
けれど友人から寝取られるなんて初めての体験で、どう受け流していいものかわからない。
昨晩、彼氏であるはずの吉澤和弘(ヨシザワカズヒロ)のマンションを連絡せずに訪れると、いつもは施錠しているはずの玄関の鍵が開いていた。
不用心だな……と思いながらも玄関を開けると、彼の革靴とは別にベージュのハイヒールが並んでいた。
咄嗟に彼の家族構成を思い浮かべてみたが、彼には弟が一人で妹はいない。
両親は釧路に住んでいると言っていたので、このヒールが彼の母親のモノであるはずもない。
しかも私はこれと同じヒールを会社で見たことがある。
では残った答えは……。
頭の中に最悪の答えが浮かんだ瞬間。
『あ……あっ……んっ……』
最悪な声が玄関のすぐ横のベッドルームから聞こえてきた。
甘ったるい鼻にかかった独特の声色。
ドア越しでも聞こえる生々しい男女が交わる音と息使い。
閉ざされたその部屋で何が行われているかなんて、見なくてもわかる。
私はまた、彼氏の人選を誤ったんだ。
『梨央ちゃ……んっ』
堪えるように彼が囁いた女の名前は、私の職場の同期で一番仲のいい、植村梨央(ウエムラリオ)だった。
私はそれ以上のことを見聞きする勇気はなく、こっそりと彼のマンションを後にした。
ショックを受けた頭で一晩中考えたのは、今後の二人に対する接し方だった。
毎日顔を合わせる社内で、素知らぬ顔をして振る舞えるほど私はできた人間ではないし、そうなるつもりもない。
今までの弱い私から脱却したい。
私だって怒りもするし復讐心だって立派に持っているんだ。
真正面から眩しい朝日を浴びながら、ぎゅっと決意の握り拳を作る。
「くっそ。仕返ししてやる」
悪夢のような昨日を思い返しながら、私は自分が働くオフィスビルの真ん前でポツリとそう呟いた。
私が働いているのは医療機器を取り扱う商社で、大学病院から個人病院、クリニックなど、かなりのシェアを誇っている。
ここは三階建ての自社ビルで、大まかにいえば一階は商談室と保管倉庫、二階は事務所、三階は重役室と会議室、というふうに分かれており、私は二階の事務所で仕事をしている。
エレベーターも設置されているが、私はいつも階段を使って二階に上がる。
広いフロアは大した仕切りなどなく、机の配置だけで課が分かれているので、当然のように私を裏切った二人もいるという、かなりヘビーな環境になっているのだ。
今までは何の支障もなく働けていたし、たまにすれ違う彼とのアイコンタクトに胸をときめかせていたりもした。
けれど今となってはもう顔も見たくない。
黒い感情を笑顔で隠しながら挨拶を繰り返し、私はようやく自分のデスクについた。
カバンから必要なものを取り出し、デスクの一番奥に入れているカゴの中にバッグと着てきた薄手のスプリングコートを畳んでしまった。
四月に入社式を迎え、新入社員が入ってきて一週間と少し。
ドタバタもようやく落ち着いてきたこの時期に、今度は私生活に波風が立つとは思ってもみなかった。
和宏は私の二つ上の先輩で、課は違うけれどもとても優しい営業マンだった。
総合病院の新規参入の時に親しくなって、私達は次第に距離を縮めて付き合うようになった。
それが今から二年半くらい前のことだ。
和宏は全てが普通スペックの男だった。
顔も特別人目を惹くほどではないが、爽やかだし悪くはない。
性格も特別抜きに出るものはなかったが、優しかったし悪くはない。
仕事も特別成績がいいわけではなかったが、毎月予算は達成しているので悪くはない。
何でもかんでも悪くはない。
そう、全てが無難で悪くはない程度の男だった。
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