色のない世界

ボイシ

色のない世界

僕はデパートの1階にあるベンチに一人で座っていた。
この場所には大切な恋人とのたくさんの思い出がある。
彼女と初めて出会ったのもここ。確か大学1年の5月。僕たちの大学は田舎だから遊ぶと言ったらここしかなくて、合コンをデパート内のレストランでやった。
その合コンで彼女に会ったんだ。
一目見て彼女に恋をした僕は一生懸命アタックした。そして彼女もそれに応えてくれた。
大学が終わった後、毎日のようにここに来てデートをしていた。彼女は特にこのデパートの屋上から見える景色が好きで、日が沈むまで二人でずっと景色を眺めてた。
世界に僕たち二人しかいない。そんな風に思えるその場所を僕も次第に気に入った。
だけどある時から、僕は屋上に行かなくなった。
理由は一つ。彼女が僕の隣にいないからだ。
ある雨の日の夜、僕たちは今までにした事のないような大喧嘩をした。
とても些細なことがきっかけだったと思うが、日々のストレスがお互いに爆発してしまった。
そしてその次の日の朝、彼女はこのデパートの下で変わり果てた姿で見つかった。
他殺か自殺かも分からない。証拠となるようなものは全て雨に流されてしまったようだ。
その悲しみや後悔は何年たっても癒えるものではなかった。それから僕の世界は色を失った。

でも、声がするのだ。大好きな彼女の声が。
仕事を終えた僕ははその声に吸い寄せられるようにしてこのデパートに来た。
ベンチから立ち上がりエレベーターに乗った。目指すは屋上。
屋上が近づくにつれ彼女の声が大きくなった。
チン、という音と共にエレベーターが開く。
迷わずフェンスを乗り越えた。と同時に雨が降り出した。まるであの日のように。

「やっと君に会える。もう君を一人にはしないよ。」

そう呟くと声は止んだ。そして下を見ると彼女がそこにいた。

寂しそうに微笑む彼女の下へと僕は身を投げ出した。



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