そして、魔王は蘇った~織田信長2030~

内野俊也(Toshiya Uchino)

暴力②

翌日、美沢高校。
「今日黒田君は?」
「休みみたーい。そういや朝、栗田(牟田口の後釜、同じく生徒指導部の担任代行)がキレまくってたし」
「キレるって…黒田くんってか信長様、もう生徒じゃないんだから来る義務ないのに…バカじゃね?栗田。」
「えー今日信長様のLINE聞きたかったのに…」
「相澤君に聞いたらわかるかも…」
当の相澤雅治は、授業中にもかかわらず爆睡である。
英語IIの下田は、もはや定年も間近、しかも年齢以上に相当に老け込んだ感が否めず、そもそも教室の隅まで声が通っているかも怪しい。
故にこの授業の時のB組生徒達は思う様スマホをいじり、互いに馬鹿話をしていた。

そこへ…じわじわと迫りくる爆音。
それも幾重にも。


皮肉にも(ハルも数瞬遅れた)最初に気付いたのは下田であった。
よたよたと校庭に面した窓へと近寄る。
他の生徒達も気づき、ざわつき、やがて窓際へと次々駆け寄る。
「うおっ!?何だアレ?」
校庭になだれ込んでくるバイクと改造車の群れ。
最終的には60~70台を下らぬ数。
四輪に分乗している数を考えれば、100名は下るまい。
明らかに、「遊びに」来たわけでは無い強大な害意が、凡百の生徒たちにも当然伝わる。
驚愕と恐怖のどよめきが各教室からあがる。

「おいゴラァ!!信長とか吹いてるキモヲタの黒田泰年をだせや!!」
永田が車から降り、吠える。
「5分待ってやるぜ。それ以降1分遅れたら男は○し、女は○す。1人ずつなあ!
当然校門全て押さえてっから!逃げらんねーぞ!?」
ウエホーイ!!と半グレ達は凶器片手に気勢をあげる。
美沢高校側の…。
そう無論こちらの教師たち…生徒指導部が黙ってはいなかった。
栗田健夫を中心に、20名程が…。ここぞとばかりに筋骨を誇示しつつ校舎を出てズイズイと半グレの群れに歩み寄る。
「オー栗田達行ったー!」
「たまには役に立てや!」

が、しかし栗田達は、半グレたちの15メートル手前で謎の反転をしてしまう。
叱責や警告の一つもせずに。

はぁ!!??
「何をターンしてんだあいつらは。」
「使えねーwwwww」
「どうした生徒指導部ー!なんのための筋肉だ―!!」

校舎側の一部生徒同様、嘲笑する半グレたち、そして永田が再度吠えた。
「言っとくが警察呼んでも無駄だぜ!?ここの所轄の警察署長の娘の柄を押さえてるかんな!!!ほーらもうすぐ2分経つぜー!?」
・・・・・・・・・・・!!!!
マジかよ…。

徐々にリアルな恐怖の波が、学校全体を押し包みつつあった。
そして2年B組。
窓際でへたり込んでる下田を放置し生徒たちはパニック2歩手前の状態であった。
「やべえよ…やべえよ…」
「マジやばいよ、逃げよ?」
「でも校門全部抑えられてるって…。」

そんな騒然とした状況もどこ吹く風、相変わらず席でまどろむ相澤雅治。
そこへ鬼の形相で飛び込んできたのはサル…椎名藤次であった。後方に十数名、相応の体躯をした配下?を連れている(実は全員椎名の空手道場の後輩、黒帯クラスであった。)
「おい相澤!お館様の居場所知らねーのか。」
怠そうに振り向くハル。
「なんだハゲネズミか、人間かと思ったぜ。」
「ああ!?テメー先輩に向かって…大体これはハゲじゃねえ!剃っているだけ…ってどうでもいい!そっちから連絡は。」
「知らね。ってか一応LINE入れたけど、既読つかねーな、電話も…。」
「くっ…。」
「要はオメーラで何とかしろって話なんじゃね?普段散々イキってて、いざこうなったらビビるはねえだろ。結局田所任せだったんか?」
「アア!?誰に言ってんだ!?おうテメーら!俺らだけで戦るぞ!」
やや怯みを見せる後輩たちに、椎名は再度獅子吠した。
「正義無き力は暴力なり!力なき正義は無力なり!
忘れるな!信じろ!俺たちの空手を。
押忍!迫真空手は!!」
「「地上最強!!!!」」
そう高々と咆哮すると、猛然と校庭へ駆け出す椎名達。
「つったく暑苦しい奴らだぜ…。まあ少しは時間稼げるか、さあてどうするノブ…。」
やや落ち着きを取り戻した他生徒達を横目に、ハルは再びまどろむ…。

…職員室も当然、騒然としていた。
「警察はまだかねっ!!」
例の如く裏返った声で、教頭は今日10度めの喚きをあげる。
「まっまだ…もう十数回は通報したんですけど…」
2年学年主任代行の言葉に、教頭は白髪を掻き毟る。
「では、あの黒田泰年をあいつらに差し出せ!
さっさと呼んできたまえ!」
「いや元のB組に居ればとうの昔にそうしております。ですがもうそもそも黒田は『ウチの生徒』ではありません。あくまで、『織田信長公』として我が校の特別顧問に…バカげた話ですが、それをお決めになったのは…」
「そう、私だ。」
校長…!
「たった今、信長公のメッセージが入って来た。
『安んじておまかせあれ』と…」

・・・・・・・・・・・!?


校庭内。奇声を上げながら、バイクを、改造車を縦横に暴走させる半グレ達。
「クッ、俺達を轢き殺す気か!」
「ぎゃははははは!空手バカ共に何ができる!?」
椎名や何人かの黒帯達は、数名を飛び蹴り等でバイクから叩き落としていたが…。正直手詰まり感は否めない。
「諦めんな!とにかく動き回って奴らの注意を引きつけろ!」
椎名…サルはなんとか後輩たち同様、暴走する半グレ…所謂DQN共をいなし抜くので手一杯。
このままではジリ貧…
皆がそう思った刹那。

馬の高らかないななき!
それも爆音に怯えてではない。
高らかに、馬の主共々勇猛に戦場に向かうという宣言であった。
そしてそれに跨るは…。
織田三郎信長、ワシ自らであった。
しかしこの馬…。
校舎側も、半グレ達もどよめく。
職員室も当然騒然となる。
「何だぁの大きさは!!!(驚愕)」
「馬ってか、なんかそれを通り越した化け物…あの筋肉…」
「通常の馬の1.5、…2倍ある!?」
当然教師達の視線は、馬術部顧問の杉山始に向けられる。
当の本人は青ざめ震えていた。
「ばっ…馬鹿な…あの怪物を普通に乗りこなせるなんて…何もんだあの黒田泰年…信長は。」
そもそもなんであんな馬鹿デカい馬が馬術部にいるんだねという、教頭の当然の問いに、震えたまま杉山は答える。
「も、元のオーナーの話では、なんか専門家に言わせりゃ数億分の1の確率で産まれる突然変異種らしくて…種の域を超えた脚力で、当然そのオーナーはレース馬にするつもりだったそうですが、厩舎スタッフを2人蹴り殺すほど極端に気が荒く、また遺伝子ドーピングの疑いが晴れず、JRAが認可しなかったそうです。
で、一通り研究対象にして、殺処分考えたそうなんですけど、オーナーが惜しんで、旧友の理事長(入院中)に頼んだそうで…。
仕方なくウチの部では、特注の厩舎に、鎖で半分縛ってたんですけど…まさか…。」
「その信長公から君に言伝だ。」
杉山らが振り返る先には校長。
「類稀なる駿馬。有り難く頂戴いたす。名は疾風(はやて)と呼ぶことにした…と。」
「あっはい。」


「ガハハッ!いくさが初めてにしては、お前は肝が座っておるの、疾風!」
ひひんと応える疾風。

「うぜえ!びびんじゃねえ!轢き殺すぞ!」
数台のバイクが突進してくる。
「参るぞ!疾風!」
名前通り風を切り疾駆する疾風。
レーサーレプリカ揃いのバイク群が玩具のように蹴散らされる。
ひいいいいっ!!??
敵方には明らかに動揺が広がる。
「クソが!なら四輪でぶち殺してやる!」
永田は愛車に乗り込み、エンジンを吹かす。
「GTRー2025改の加速舐めんじゃねーぞー!
オルルァ!!!」
アクセルをベタ踏みする永田。
「来たか。
疾風よ!お前の力を見せてやれい!!」
疾風は吠え、一旦上体を反らし、そして突貫してきた「敵車」のフロント部分に右前脚蹴りを叩き込む!!
重厚なコンクリ壁に激突したかのように、永田の愛車はあえなくひしゃげ大破する…。
「バカな!100キロは出てて…ゆわっしゃあああっ!!??」
それが永田の断末魔であった。





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