そして、魔王は蘇った~織田信長2030~

内野俊也(Toshiya Uchino)

本能寺

「紋は?」
「桔梗に御座りまする!!」
この時点で、ワシは覚悟を決めたと言ってよい。
あの光秀のこと、十分な兵数を配置しておるだろう。
無論我が嫡男信忠の所にも…。
抜かったわ…
一生の不覚也。
光秀の抱える闇の深さを見誤っておった…
西国攻めに知らず知らず気を奪われておったか…。
せめて齢35頃までのワシならば、単騎突破もなしえたかもしれぬが…。


是非に及ばず。


もはや我が現生はこれまで。
だが只では死なぬ。
響き渡る銃声と鬨の声。
寺に侵入して来た明智兵共へワシは次々と弓を放つ。倒れ伏す「敵」兵たち。
しかしそれにも限界があった。
怒涛の如く押し寄せる明智勢…。
このままでは寺の御堂そのものに踏み込まれる。
やがて弓の弦が切れてしまう。
「お館様!!こちらをお使いくだされ!!」
森蘭丸(成利)であった。
「うむ!!」
槍を新たに受け取ると、次々と明智兵を突き、屠る。
ここまで修羅と化し、自ら武を振るうはいつ以来か…。だが悪くはないぞ。
そう思った矢先、左腕に焼けるが如き感触。
火縄を喰らったか…。
ややよろめいたワシの許に、蘭丸が再び駆け寄る。
「お館様!それがしと御番衆で四半刻は稼ぎます故…。何卒御自ら…。」
着物に着いた返り血が、蘭丸の勇戦振りを物語る。
「いざ!」
「こころおきなくお行き下され!」
他の御番衆も同調する。
「うむ、ようわかった!」
踵を返しかけてワシは蘭丸の方に向き直る。
「許せ、そちも巻き込んでしまうとは。」
「いえ、お館様の御為わが武を存分に振るう。男子の本懐これに在り、さあ、何卒早う。」
ワシは数瞬、無言で蘭丸を抱きしめ、その後今度こそ御堂の奥へと向かう。
「いよいよとなったら寺の全てに火を放てい。努々我の首を光秀に渡すでないぞ。」
そう言い残して。


寝所に戻り、胡坐をかく。
そして抜き身の脇差を見つめる。


人間じんかん五十年とは言え…。
後せめて五年の天命あらば、天下一統は確実になったものを…。


腹をはだけ、刃を突き立てる。
死…。か。
まあすくなくとも南蛮の宣教師共の言う「ぱらいそ」とやらには行けまい。
だが彼奴やら日ノ本の坊主共の言う地獄へ行くともどうしても思えん。
火の手が寝所に及んで、ワシは大きく気を溜める。
下天は夢…か…。
次の刹那、刃が己がはらわたを大きく抉る…。





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