そして、魔王は蘇った~織田信長2030~

内野俊也(Toshiya Uchino)

448年

「ちょっと泰年〜あたしがバイトから帰っても寝てるなんてナニ考えてんの?メシだっての!てか今夜はお父さん帰ってるし。」
「姉」の声で目が覚める。まぁ身体は爽快であるが。
今の時間は?
いかん、令和の刻限における、20時25分…。これでは…。
膳の間に入ると、卓に見知らぬ男…。こやつが「父」であるか…。貌を一瞥して理解出来た。
信秀おでいとは…比較するもばかばかしいか。
志田同様、日々の労苦にひたすら消耗しただけの…。
「聞けば色々疲れてるみたいだな。泰年。」
なるべく子に気を使うような貌と語り口。
ワシの方もなるべく温和な貌と発声を心掛ける。
「ふむ…うぬ…いやそなた達が、ワシを気が違うたと思うてしまうのも無理はない。もしワシが天正の世に、そう曰う者に出おうたら同じ思いしか抱かぬであろう。しかし誠に、ワシは織田三郎信長であり、それ以外の何者でもないのだ。
だが、そなた達にとってはワシは黒田泰年である事。これも誠。
故に直ぐに信長と呼べなどと無理強いはせぬ。
当面は泰年とよんでもかまわぬ。
そしてワシは此処に間借りした上、馳走にもなっておる身。
ひとつの礼節として、そなたらをそれぞれ、親父殿、姉上と呼ぶことにする。無論のちのち形あるものでお返しも致す。」
「あ、ああ。なるほど…」
ワシは卓に座る。
「おおこれは美味そうな、早速頂く。」
そう言ってワシは、飯をかき込む。
5分後。
「美味かったぞ。姉上。ひと風呂浴びてくる。」
「あ、あ、うん…」
「使い方」は既にこの家に何度となく泊まっているハルから聞いている。


…おお、実に素晴らしき心地。これが「ぼでぃそーぷ」と「しゃんぷー」か。単に人肌を清めるのみならず、まるで幼子や若き女子の肌になったかのような…そして、この湯船の…


「ねーお父さんどう思う?あれ…」
「うーん、ちょっと精神の異常などとは違うとおもうがなー。」
…当然、親父殿と姉上は、ワシに聞こえぬ前提で話しておるのであろうが…。
生憎令和の水準の耳では、戦乱の世は生き延びられぬ。
更にワシに関しては、お師さんに厳しく仕込まれておるでな。
「じゃーなんかキャラ作ってなりきってるとか?ハルくんから時々そういう時があるって聞いたけど、今回のは…」
「でも父さんはただの誇大妄想とも思えないんだよなあ。明らかなウソというのは、自分が織田信長であるというだけで。それ以外に話していることは理路整然としている。なにか、まるで信長が此処に実在していたらこう言うだろう…みたいな…」
ほうこの親父殿、なかなかどうして。
「えーじゃあ、お父さん信じちゃうの?」
「いやあそこまでは笑 でも泰年が明らかに怒鳴ったり暴れたりしないで、毎日普通に学校に行っている以上、しばらく様子見るしかないんじゃないか?」
実は既に怒鳴ったり暴れたりしているのだが。
「う、うーんわかった。」
…さて、何時迄も寛いでも居られぬ。ワシは湯船から上がる。
これで身体を拭くと申したな。これもまた…
ふむ、で…寝る際には何を着るのか。
2分後、姉の悲鳴が上がる。
「っきゃあああああああっ!?何見せつけてんのアンタ、別のベクトルでおかしくなったんじゃねーの!?せめてタオル巻けよ!ただでさえアンタはアレが無駄にアレなんだから!」
全裸のワシは、アレとは?と問い返しながら自身の股を見下ろす。
「コレのことか?何故か黒田泰年の身になっても、此処の寸尺だけは変わらんでな。不可思議なものよ。ハハハッ、令和の世においてもコレは尋常にあらず、普通ではないのか。」
「勃○時38センチのドコが普通なのよ、てか着るものくらい事前に…あーもうっ!」
数分後、早くこれ着なと投げつけられたものを纏い、自分の部屋に入る
ほう、これはまた動きやすい…と言うより急がねばならぬ。
ぱそこんを立ち上げる。
ねっとだ。ハルの書き付けどおり、指一本で…たいぴんぐなどと呼べる代物ではないが、検索窓とやらにまずは、3分掛かりつつも「織田信長」と書き込む。
まずは「うぃき」とやらで己の死後以降何が起きたのかを手繰っていかねば。
それにしても大したものだ。よくも此処まで調べたものよ。後世の史家達は…。
むろん微妙に違う所もあるが。
ふむ、やはり秀吉(サル)が天下一統したか。まぁ本能寺以前から漠然とは思っておったが。
清洲会議とやらで上手く立ち回ったものよ。
しかし彼奴、助平なくせに種が薄かったのか、世継ぎを授かるのが遅くなったのが痛かったな。
結局死後にすべてを持っていったのはタヌ公…家康か。
ようも耐えに耐え抜き、機を待ったものよ。
しかし、徳川幕府か…。
確かに、血の気の多い大名どもを従え、民百姓達を平伏させる為には最良の「しすてむ」を作り上げしは間違いない。
だが、鎖国とは悪手も悪手。
南蛮の新鋭の技巧文化を導入するのを、優に200年以上、ほぼ9割9分絶ってしまったのはあまりにも痛い。切支丹の動向と、それに続く南蛮の侵略が恐ろしかったのか?
だがその気になれば秀忠の代あたりで日の本の備えとてけして侮れぬ水準まで高められた筈。いま少し工夫は出来なかったのか…。
まぁ鎖国故の静謐と、後に南蛮の者たちからも称賛される独自の文化を築き得たのも確かじゃが。
その後の黒船来襲、討幕維新、文明開花の流れ、それを日本人ならではの奇蹟と讃える向きもあり、ワシも同調しないでもないが…反面間抜けにも映る。
事実、急造の政治機構、欠陥を抱えた憲法の歪みがもたらしたのが、太平洋戦争なる決定的な破局…。
しかもここで開発、使用された核兵器なるものの脅威が、現在に至るまでに日本という国を危機に晒している。
(額面上は)未だ世界一の超大国アメリカの庇護に頼り、日本の民は、いわゆる「戦後」においてぬるま湯の平和を謳歌しておるようだが…。
大体憲法九条とはなんなのか、ふざけておるのか?
それを念仏の如く唱えておれば他国は攻め入らぬとでも?
核兵器の雨が降ってこないとでも?
そんな根本的な意識すら無くしてしまったのか日本人は?
それを平成末期に変えようとしたのが自民田党、阿部史内閣…。
だが…何があった?
この十年に。
今は憲法民主党が統べる世。
総理大臣は…蓮根?女か…。
その過程…を…調べ…いかんさすがに眠うなった…。
べっどへ、潜る。
それにしても…
哀れなのは、お市の…最期よ。
ワシが執心し、若き頃から狂うたように何度も抱いた、わが、「従姉妹」…。
あの感触、律動…願わくば今一度…。


眠りに、落ちる…。













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