一夫多妻制が法で認められた瞬間、彼女に裏切られた俺~誰も信じられなくなったから一人で生きていこうと思ったのに、美少女達が寄り添ってくるんだが?~

はす

最悪な日

 20xx年4月より、日本では一夫多妻制が法律で認められるらしい。


 原因は単純明快、男女比率のバランスが崩れてしまったことにある。
 特にここ数年での男性の人口減少は著しく、いよいよ手のつけられない状況になってきていた。


 そこで、政府がとった対策というのが、この一夫多妻制というわけだ。
 それは世界的に見てどうなんだと思う節もあるのだが。


 しかし、僕にとってはこんな法律、あってもなくても変わんないのだ。
 何故なら、僕には天野 桜という、世界一可愛い彼女がいるからだ。
 今後、たとえなにが起きようと、僕は彼女一人を愛し続ける覚悟でいる。


 僕は彼女の事を想いながら、軽い足取りで彼女の元へと向かった。




 「海人、別れましょ。」
 「……へ?」


 桜が何を言っているのか瞬時には理解することが出来ず、なんとも間抜けな声を出してしまった。
 そこに桜が、再び追い打ちをかける。


 「だからね。私達、別れた方がいいと思うの。」
 「……いや、なんでだよ。」


 いつもならずっと見つめていたいほど愛おしい桜が、今は信用することが出来ない。


 ……本当に桜か?偽物なんじゃないか?


 現実逃避してしまいたくなるが、目の前にいるのはまごう事なき天野 桜本人だった。


 「……はぁ。本当は素直に受け入れてくれるのが1番よかったんだけど」
 「いやいやいや、急に別れ話なんて切り出されて、理由もなしに納得出来るわけないだろう!」
 「もう好きじゃなくなったのよ、あなたのこと。」
 「……っ!」


 まぁ、別れたい理由なんてそんなところだろうと、なんとなく予想はついていたのだが、いざ面と向かって言われると、相当きつい。
 第一、僕は未だに納得できないでいる。


 「……僕たち、お互いに永遠の愛を誓ったじゃないか。」
 「……はぁ。あなたのそういうところ、本当に嫌いだったのよね。」
 「……」


 もう桜の言葉は何一つ、僕の頭には入って来なかった。
 というのも、普段の彼女からは考えられないくらい、態度も、言葉遣いも、豹変してしまっているのだ。


 「……分かった。この際だから、全て話してあげるね。」


 そう言うと、桜は文字通り「すべて」を話し始めた。


 まず、桜には僕ではなく、他に好きな男がいるということ。


 しかしその男には、すでに彼女がいたので、仕方なく、偶然、桜の好みの顔であった僕と気晴らしに付き合ったということ。


 故に、そもそも僕に対しては恋愛感情も何もなかったということ。


 仕舞いには、一夫多妻制なんていう変な法律が生まれたことにより、好きな男と付き合えるのではないかと判断し、僕に別れを切り出したこと。


 「……」


 僕は、その黙って聞いていることしか出来なかった。


 全てを話し終えた桜は、まるで悪魔のような笑みを浮かべ、僕に言い放った。


 「田中君、私と別れてくれるよね?」
 「……うん」


 それ以外の解答はなかったと思う。そういう雰囲気を、彼女は作り出していた。


 「ありがとう!田中君。」


 桜はそれだけ言うと、惜しげもなくその場から立ち去っていった。


 その場に取り残され、一人立ち尽くす僕。
 案外、終わるときは一瞬なんだな。


 僕は色々なことを考えた。
 桜とは、昼食を一緒に食べたり、一緒に下校したり。デートに行ったときもあった。
 思えば、桜と出会ってからの毎日は、楽しいことばかりだったように思う。


 しかし、それは全て嘘だったということが今日分かった。
 そう思うと、全てが信じられなくなってきた。


 桜も、他の皆も、法律も。


 僕は、一人で生きていくことを決意した。
 僕はまだ幸せなほうだ。


 自分すらも信じられなくなった人間は、生きていくことすら出来ないのだから。

「恋愛」の人気作品

コメント

コメントを書く