偽物の世界、本物の世界

ボイシ

偽物の世界、本物の世界

「ユズルやよく聞け。物語の世界は偽物だ。しかし人はそこに現実にはない体験を求めるのじゃ」

小説家だった爺ちゃんがいつも言っていた言葉だ。
俺は小さいころから本が好きで、爺ちゃんが死んでからも、よく図書館に本を探しに行っている。
今日は何を読もうか、と本棚を見ていると1冊の本が目に入った。
その本は『冬の世界ールークの冒険ー』というもので、内容はルークという主人公が冬の世界を冒険し、あらゆる苦難を乗り越えるというものだった。
俺はその本を夢中で読んだ。しかし面白い内容に反して何故か猛烈な睡魔に襲われ、俺は意識を失った。


気が付くと俺は一面雪の世界にいた。目を凝らすと遠くに集落のようなものが見える。そしてさらに驚くことに、その景色は本の内容にそっくりだった。
俺は、冬の世界に来てしまったのだ。
集落へと向かい、話を聞くとどうやらルークはまだ来ていないようだ。
そこで俺はあることを思いついた。
ルークの代わりに俺が冒険をしてやろう、と。
ルークは物語の最後に国王から巨万の富をもらっていた。それを自分の物に出来れば最高だ。
早速俺は冒険に出た。本の内容を思い出しながら険しい道を進み、オオカミの群れを切り抜け、ドラゴンを倒した。
謂わば俺はカンニングしたようなものなのでどれも簡単にやってのけた。
成果を国王に報告すると巨万の富をくれた。この金で豪邸を立てよう、とか綺麗な嫁をもらおうとか考えていたが、俺はふといつになったら帰れるのだろう?と疑問を持った。
本の内容はここで終わる。この先はルークがどんな風に生きたか分からない。
俺はこの先、どうなるんだ?





「本の整理でもするか」
図書館の職員はそう言いながら本棚へと向かう。その途中の机に1冊の本が置かれていた。
職員はそれを手に取り本棚へ戻した。

その本の名は『冬の世界ーユズルの冒険ー』







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