最強のカップルはただ単に楽しみたい ~最強(トール)と天魔(パートナー)の学園無双~

志水零士

第一章 ~入学試験~  19 相馬の試験(後)


 攻撃を受けた瞬間に神の肉体オーバーライツを使うことで、相馬は全てのダメージを無効化した。そして同時に、攻撃を避けるので消耗した分も回復した。

 明らかに攻撃を受けたはずなのに全く傷の無い相馬に、ノイ以外の受験者たちが驚く。しかしそれを反応として外に出すより先に、更なる驚きが彼らを襲った。
 わざわざ避けていた多種多様な攻撃の中を、相馬は真っ直ぐ歩いて、爺さんの方に向かったのだ。当然攻撃には当たりまくり、かなりの衝撃があるはずなのだが、相馬は全く体勢を崩さなかったのだ。

「一応言っておくけど、あの服は特異物エルピス。だから壊れていないわけだけど、衝撃を緩和するような性能はない。つまり、衝撃を無効化しているのは、相馬自身なの。……あ、特異物エルピスっていうのは、邪生タイラントの素材を使った道具のことなの」
「そ、それくらいなら知っています。……それより、おそらくあれは相馬さんが派生技ブランチを使っているんでしょうが、一体なんの派生なんですか? さっきの説明の中に、攻撃の無効化なんてものに派生できる要素は無かったと思うのですが」

 相馬も最近、自分に至ってはさっき知ったことだというのに、フェイロは当然知っていると答えた。そのことに、常識知らずと言われているようで少し苛立ったノイだったが……常識知らずなのは事実なので何も言えず、不満げな表情をしながら答える。

「そもそもの前提が間違っているの。現夢想(マジック)――いや、そんな言葉で纏めてるからこんなことになってるかもしれないけど、ともかくそれは、本来一つの性質しか持たないエネルギー体だったはずなの」
「えっと……」
「分かりやすく言うなら、現夢想マジックは黎明期に沢山の人々が現夢想マジックに込めた意志によって、派生技ブランチという段階や邪生タイラントへの特効性を得たというわけなの」
「そ、そんなこと、初めて聞きましたよ?」
「一般常識じゃないから、当然なの。それで今相馬が使っている派生技ブランチは、ルールを一つ、自分の現夢想(マジック)限定で追加することで、成立させているものってわけなの。正確には、その前に抜け穴をつくようなこともやっているけど」
「……いや。ちょ、ちょっと待って下さいよ 」
「待ってるけど?」

 因みにこれは、別にボケでも何でもない。ノイの、単なる本心だ。
 そしてその言葉は、最大級の混乱に襲われているフェイロの耳には届かなかった。傍から見たら、ノイはツッコミを入れて貰えなかったボケなのだが、実際はボケではないので特に問題はないという……なんともややこしい状況なのである。

「今ある現夢想のルールは、かなり昔に沢山の人が意思を込めたことによって出来たものなんですよね?」
「そうなの。それと多分、今は昔ほど邪生タイレントが脅威じゃないせいで、多分一致団結できなくて新しいルールは出来ないと思うの」
「……で、相馬さんはどうやってルールを追加したんですか?」
「単に、一人でルールを追加するのに足る意思を込めたってだけなの」

 そこまで話を聞いたフェイロが、大混乱している中で最初に疑問に思ったのは、ノイが何故当然のように相馬が尋常じゃない意志の持ち主だということを言ったのか、ということだった。何故そのことを疑問に思ったかといえば、やはり混乱していたからだろう。

「……ああ、なるほど。そういうことですか」

 当然のように尋常じゃないことを言ったのは、ノイにとって相馬が尋常じゃないのは当然だったからだったのだ。そのことを悟ったフェイロは、一周回って冷静になった。

 しかし、桁違いな努力と異次元な意志力による強さを持つ男と、純粋な現夢想マジックの強さを持つ女。そんな二人が一般人なわけがない。
 そこでフェイロは、ノイが怒り出す前に教師が言った言葉を思い出した。もし二人があの方達なら、ノイが怒ったのにも納得がいく。

 相馬は二人が話している間も着実に距離を縮め、既に爺さんの目前に到達していた。攻撃を辞め、両手を頭の上に挙げて降参の意を示す爺さんの姿を見ながら、フェイロはノイに尋ねる。

「あなたたちは……何者なんですか?」
「さっき身分証明のやつで、言ってたと思うけど?」

 つまりは、そういうことだった。




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