最強のカップルはただ単に楽しみたい ~最強(トール)と天魔(パートナー)の学園無双~

志水零士

第一章 ~入学試験~  18 相馬の試験(中)

「ッ! 相馬 」
「ああ、頼む!」

 たったそれだけの言葉で、二人は意思伝達を完璧に行った。

 ――白支配マイカラー、起動――

 受験者たちの頭上を守るように、白い羽が展開される。ただ一人、相馬の頭上を除いて。
 さきほどのノイの言葉を翻訳するなら、「動ける範囲を狭めることになるけど、他の受験者たちを守るために白支配マイカラーを使ってもいいの?」という確認だ。それに対しての返答が「頼む!」だったわけである。

 炎で形成された矢の群れが、かなりの速度を伴って落ちて来る。そしてそれらの角度は、それぞれ並行ではない。
 無作為な角度で降り注ぐ火矢の豪雨。とてもじゃないが、常人には軌道を見分けて、避けられるものではない。
 そしてそれは、相馬も同じだ。故に相馬は、現夢想(マジック)を使用する。

 ――雷掌握エレキスタイル、起動――

 上空を一瞥した後、相馬はゆっくりと歩き始めた。そして相馬が動きを止めた直後、火矢の群れが地面に到達する。
 それはまるで、矢が相馬を避けているような光景だった。相馬は体を少し動かしただけで、全ての矢をその場で避けたのだ。

「ふむ、うまく避けられてしまったな。……だが、まだまだいくぞ?」
「ああ……来い!」

 先ほどと同様の炎の矢、氷の槍、石弾、あげくの果てには雷撃。休む間もなく、それらの攻撃が広範囲に行われる。
 そしてそれを、相馬は適確に避ける。多少掠ったりはするが、傷と言える傷は一つもない。

「す、すごいですね……相馬さんの現夢想マジックって未来予知とか、そういう類いのものなんですか?」
「……あれは、そんな単純なものじゃない。相馬の現夢想マジックは、そんなに使い勝手のいいものじゃないの」

 無数の攻撃を、相馬は避け続ける。そんな彼の首を一筋の汗が走ったことに、ノイは気づいていた。

「相馬の現夢想マジック雷掌握エレキスタイルに出来るのは、体内に走っている電流の把握と、微弱な電気の発生だけ。……外部からのあらゆる刺激は、全て電気によって脳に伝えられている。そして脳からの体中の筋肉への命令も、伝えているのは電気。故に相馬は、体内においての電気の流れかたから、周囲の状況を正確かつ高速で知ることが出来る。更に筋肉に直接電気を発生させることで、自分が取るべき行動を一寸のずれもなく行っているの」
「……電流の把握と電気の発生って、本当にそれだけなんですか?」
「そうだけど?」
「……さっき言っていたことを実行するためには、電流が流れている場所から、周囲の状況を計算して読み取ること。そしてその情報から、どういう行動を行うべきかを計算することが、最低でも必要なはずです。それを、全て相馬さんが自力でやっていると?」
「そういうことなの。それ故に、あれは見た目以上に体力、そして何よりも集中力を消耗するの」

 思わず、フェイロは絶句した。
 相馬が今まで取って来た自信満々な態度からして、おそらく強力な現夢想マジックを持っているのだろうと思っていたのだ。しかし相馬の現夢想マジックは強いものでもなんでもなく、あれほどの攻撃を避け切っているのは、彼の努力によるものが大きいというのだ。
 かなり、頑張ってきたつもりだった。しかし相馬の努力に比べて、その努力のなんと小さかったことか。

「……そろそろ、限界みたいなの」

 ノイがそう呟いた数秒後に、相馬は疲労によって情報を処理しきれなくなり、動きを止めた。それによって、相馬は避けるためのスペースを失い――

 ――大きく、笑みを浮かべた。



 ――派生技ブランチ神の肉体オーバーライツ、展開――





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